相続法の改正について・その3~自筆証書遺言の方式の緩和・遺言書保管制度~

 

 相続法の改正に関するコラムも3回目ですが、今回で最後となります。

 

 今回取り上げるのは、自筆証書遺言に関する改正です。

 

 

自筆証書遺言の方式の緩和(財産目録の代書など)

 これまでの自筆証書遺言は、「自筆」とあるとおり、遺言書の全文・日付・氏名を自分で書いて印鑑を押す必要があり、代書やパソコンで遺産の目録を作成することも認められていませんでした。

 

 しかし、このような取り扱いだと、遺産がいくつもある場合に目録を作るのが大変であり、遺言書を作成したいという人のニーズに必ずしも応えられていない部分がありました。

 

 そこで、今回の改正によって自筆証書遺言の方式が一部緩和されることになりました。

 

 具体的には、財産目録について自筆が不要となり、目録をパソコンによって作成することや代書も良いことになったほか、目録を作る代わりに、不動産の全部事項証明書(いわゆる登記簿謄本)や通帳のコピーを遺言書に添付しても良いことになりました。

 

 なお、代書やパソコン作成などが可能となるのはあくまで遺産の目録だけであり、それ以外の部分(本文・日付・氏名)はこれまでと同じく自署が必要ですので、遺言書のすべてを代書やパソコンで作ることはできません(体力の衰えなどによって自署できないケースでは、これまでどおり公正証書遺言が適しているといえます)。

 

 また、このような取り扱いを認めると、以前よりも遺言書の偽造の危険が高まりますので、そのようなことが起きないよう、遺産目録や添付した通帳などの各ページにはそれぞれ自署と押印が必要とされています。

 

自筆証書遺言の保管制度

 自筆証書遺言は、自分で作ることができ費用もかからないため、公正証書遺言と比べて作りやすいタイプの遺言です。

 

 しかし、作りやすい反面、公正証書遺言に比べ、紛失したり、相続人の一部によって隠されたり破棄されてしまう危険性も高く、作成した遺言書をどのように保管するかについては課題がありました。

 

 これまでは、自宅で保管する方法以外にも、たとえば遺言書を信頼できる推定相続人に託したり、金融機関の貸金庫に保管しておくという対応がなされていましたが、今回、このような方法に加えて、自筆証書遺言を法務局に保管してもらえるという制度ができました(法務局における遺言書の保管等に関する法律)。 

 

 この制度は、法務局内に設置される「遺言書保管所」に本人が来所し、保管の申請をすることによって利用することができますが、この制度を利用した場合の特徴は以下のとおりです。

 

家庭裁判所の検認手続が不要となる

 

 この制度を利用していない自筆証書遺言は、これまでどおり家裁での検認が必要ですので、この制度を利用すると、相続発生後の手続が少し軽くなります。

 

遺言者の死亡後、相続人(や受遺者)が全国の遺言書保管所において、遺言書が保管されているかどうか調べること(遺言書保管事実証明書の交付請求)、遺言書の写しを請求すること(遺言書情報証明書の交付請求)、遺言書の閲覧を請求することができる

 

 これにより、遺言書の存在や内容が不明になるリスクがある、という自筆証書遺言の弱点をカバーすることができます。

 

 なお、遺言書の保管申請や閲覧請求、遺言書保管事実証明書・遺言書情報証明書の交付請求にはそれぞれ手数料が必要ですが、具体的な金額は以下の通りです(2020年7月9日追記)。

 

手数料一覧

①遺言書の保管申請        3,900円/1件

②遺言書の閲覧請求(モニター)  1,400円/1回

③遺言書の閲覧請求(原本)    1,700円/1回

④遺言者情報証明書の交付請求   1,400円/1通

⑤遺言書保管事実証明書の交付請求   800円/1通

⑥申請書等・撤回書等の閲覧請求  1,700円/書類の通数

 

遺言書保管所一覧(岩手県)

盛岡地方法務局本局

同宮古支局

同水沢支局

同花巻支局

同二戸支局

 

施行日

 自筆証書遺言の方式の緩和は、2019年1月13日から施行されています。

 

 遺言書の保管制度については、2020年7月10日からのスタートです。

 

弁護士 平本 丈之亮

 

 

 

 

 

 

2019年3月14日 | カテゴリー : コラム, 相続 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

コラム(その他)


 

 

一般

 

債権回収・民事執行制度など

 

企業法務

 

滞納処分

 

契約トラブル

2019年2月13日 | カテゴリー : コラム | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

コラム(労働問題)


 

2019年2月13日 | カテゴリー : コラム | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

コラム(消費者問題)

 


 

2019年2月13日 | カテゴリー : コラム | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

コラム(借金問題・債務整理)


 

 債務整理に関する過去のコラムです。

 

債務整理一般

 

自己破産

 

個人再生

 

消滅時効

2019年2月13日 | カテゴリー : コラム | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

コラム(交通事故)


 

 交通事故に関する過去のコラムです。

 

交通事故一般

 

慰謝料

 

治療費

 

逸失利益

 

過失割合

 

物損

 

2019年2月13日 | カテゴリー : コラム | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

コラム(相続)


 

 相続に関する過去のコラムです。

 

遺産分割

 

遺留分

 

相続放棄

 

2019年2月13日 | カテゴリー : コラム | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

コラム(離婚)


 

 離婚に関する過去のコラムです。

 

離婚一般

 

慰謝料その他の損害賠償等

 

婚姻費用・養育費

 

財産分与

 

年金分割

 

 

2019年2月13日 | カテゴリー : コラム | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

相続法の改正について・その2~親族の特別の寄与制度~

 

 前回(「相続法の改正について・その1~配偶者(短期)居住権」)に引き続き、今回も相続法の改正についてお話していきます。

 今回取り上げるのは、親族の特別の寄与制度(改正民法第1050条)についてのお話です。

 

<親族の特別の寄与制度とは?>

 この制度は、相続人以外の親族が、亡くなった方(被相続人)に対して無償で療養看護などの特別の貢献をし、そのことによって遺産が維持されたり増えたような場合に、「特別寄与料」を請求することを認める制度です。

 

<要件①~親族(相続人などを除く)>

 この制度の対象となるのは、相続人(・相続放棄者・相続欠格者・排除者)以外の、被相続人の「親族」(=6親等内の血族・配偶者・三親等内の姻族(民法752条))です。

 相続欠格者や排除者などはレアケースだと思いますので通常は相続人以外の親族が対象ということになりますが、具体的には以下のような場合が想定されています。

 

例1 被相続人=義理の母親 特別寄与者=長男の妻 

 長男である夫の死亡後、長男の妻が義理の母親の面倒を見ていたケース(夫が義母より先に亡くなると、妻は義母の相続について相続権がない)

 

例2 被相続人=兄 特別寄与者=妹

 兄には妻子がいたが折り合いが悪かったので別居しており、代わりに妹が兄の面倒を見ていたケース(兄の相続人は妻子のため、妹は兄の相続について相続権がない)

 

例3 被相続人=義理の父親 特別寄与者=妻の連れ子

 義理の父親が母と結婚したが、母の連れ子とは養子縁組していなかったところ、母の死後に連れ子が義理の父親の面倒を見ていたケース(母の連れ子には義理の父親の相続権はない)

 

【内縁の妻は対象外】

 また、法律で「親族」の範囲が決まっているため、内縁の妻が内縁の夫の母親の看病をしていた場合にはこの制度の対象にはなりません。

 

<要件②~療養看護その他の労務を提供したこと>

 特別寄与料が認められるには、被相続人のために療養看護その他「労務を提供したこと」が必要です。

 労務の提供が必要ですので、金銭的に援助した場合は対象になりません(この点で、相続人自身の「寄与分」の制度とは異なります)。

 

<要件③~無償であること>

 労務の提供は「無償」であることが必要です。

 したがって、面倒を見る代わりに金銭的な対価を得ていた場合(生活費を負担してもらっていた場合など)や、被相続人の所有する建物に住まわせてもらっていたなどの場合には対象にならない可能性があります。

 

<要件④~財産の維持又は増加に「特別の寄与」をしたこと>

 「特別の寄与」、すなわち、親族間で通常期待される程度を超える貢献をしたことが必要であり、ここでいう「特別」とは、貢献の程度が一定程度を越えることを意味するとされていますが、どの程度のことをすれば特別の寄与をしたことになるかは現時点では何とも言えないところです。

 また、たとえ無償で労務を提供していたとしても、財産の維持・増加に寄与したとはいえない場合には、この制度による特別寄与料の請求はできないことにも注意が必要です(たとえば、交通事故で死亡し、多額の賠償金が支払われた場合などが考えられます)。

 

<特別寄与料は誰にどうやって請求するのか?>

 特別寄与料は、相続人に対して請求できる権利ですが、それぞれの相続人に対しては、法定相続分(あるいは指定相続分)の割合で請求することができます。

 具体的な請求方法について、法律では、まずは相続人と話し合いをすることとしていますが、折り合いがつかないときやそもそも話し合いができないときは、家庭裁判所に協議に代わる処分を求める審判の申立をすることができ、家庭裁判所に金額を決めてもらうことができます。

 なお、この申立は、遺産分割と同時に行う必要はありません(遺産分割の審判が係属しているときに、裁判所の裁量で遺産分割と同時進行とされる場合はあると思いますが、あくまで遺産分割とは別の問題です)。

 

<特別寄与料には上限がある>

 特別寄与料は無制限に認められるものではなく、【相続開始時の遺産額-遺贈の額】が上限となっています。

 したがって、たとえば相続開始時の遺産が全体で1000万円だったが、その中から700万円を誰かにあげるという遺言があった場合には、特別寄与料の上限は300万円となります。

 要するに、親族の特別寄与料よりも、被相続人の最後の意思である遺贈の方が優先されるということです。

 

<期間制限に注意>

 特別寄与料の請求は、①又は②のいずれかまでに家裁に申立をすることが必要ですが、期間が短いので注意を要します。

 

 ①相続開始及び相続人を知ったときから6ヶ月 

 ②相続開始から1年間

 

<施行時期>

 この改正については、2019年7月1日が施行日となっています。

 

弁護士 平本 丈之亮

 

2019年2月8日 | カテゴリー : コラム, 相続 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所