不貞にまで至らない男女間の交際等が不法行為になると判断されたケース

 

 男女間トラブルで典型的なものはいわゆる不倫問題ですが、相談をお受けしていると、「不倫」というキーワードは出てくるものの、実際には性交渉にまでは至っておらず不適切な交際にとどまっていたり、あるいは疑わしいが性交渉があったことの立証までは困難というケースがあります。

 もっとも、性交渉にまで至っていない場合であっても、ケースによっては不法行為として損害賠償を命じられる場合もあるため、今回は、この点に関する裁判例をご紹介します。

 

東京地裁平成28年9月16日判決

 この事案では、原告が、自分の配偶者と親密な関係にあった者(A)に対して慰謝料の請求をしましたが、裁判所は性交渉をもった疑いは払拭できないものの、そのような事実が存在したとまで認めるに足りる証拠はないとしました。

 しかし、これに続き、性交渉までは認められないとしても、Aと原告の配偶者が以下のような関係にあったことは社会通念上許容される限度を逸脱していたとして慰謝料の支払いを命じました。

 

裁判所が指摘した事実関係

・Aと配偶者は、携帯電話で頻繁に連絡を取り合い、2人で食事に出かけたりカラオケ店に入店したりしていたほか、休日に自動車で外出したりしていた。

・Aと配偶者は、腕を組んだり、手をつないだりして歩くこともあった。

・Aと配偶者の交際関係は1年半近くにわたって継続していた。

・2人は抱き合ったりキスをしたりしていたほか、Aが服の上から配偶者の身体を触ったこともあった。

 

東京地裁平成29年9月26日判決

 このケースにおいて、原告は、性交渉の存在を理由に慰謝料の請求をしたのではなく、「配偶者を有する通常人を基準として、同人とその配偶者との婚姻関係を破綻に至らせる蓋然性のある異性との交流、接触」も不貞行為に含まれると主張し、配偶者(B)とLINEでやりとりをした複数の者に対して慰謝料を請求しました。

 これに対して裁判所は、このような原告の主張について以下のように述べ、一部の被告に対する慰謝料の請求を認めました。

 

「原告は、不法行為法上の違法を基礎付ける不貞行為は、性交渉及び同類似行為に限られず,配偶者を有する通常人を基準として,同人とその配偶者との婚姻関係を破綻に至らせる蓋然性のある異性との交流,接触も含まれる旨主張するが、不貞行為とは、通常、性交渉又はこれに類似する行為を指し,原告主張の異性との交流,接触が不貞行為に該当するということはできず,採用できない。原告の主張は、不貞行為に該当しないとしても、上記婚姻関係を破綻に至らせる蓋然性のある異性との交流、接触も不法行為に該当すると主張する趣旨を含むものと思料されるところ、判断基準として抽象的に過ぎ、そのまま採用することはできないが、不貞行為が不法行為に該当するのは婚姻関係の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害するからであることからすると、原告主張の具体的事実について、その行為の態様、内容、経緯等に照らし、不貞行為に準ずるものとして、それ自体、社会的に許容される範囲を逸脱し、上記権利又は利益を侵害するか否かという観点から、不法行為の成否を判断するのが相当である。」

 

慰謝料請求が認められた被告について裁判所が指摘した事実関係

・被告がBとの間で、被告とBが、従前、性的関係を有していたことを前提として、LINEに性的行為の内容を露骨に記載して性交渉を求めるやりとりをしたこと
・従前、性的関係を有していたことを前提として、性的行為の内容を露骨に記載して性交渉を求めることは、不貞行為には該当しないもののこれに準ずるものとして社会的に許容される範囲を逸脱するものといえ、婚姻関係の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害するものであるというべきであるから、原告に対する不法行為を構成すると認められる。

 

 なお、被告は,上記のようなやり取りは冗談であり,その内容をBに確認すれば分かるのであるから婚姻関係を破綻に至らせる蓋然性があるとはいえず不法行為に該当しない旨も主張しましたが、裁判所は、このようなやり取りを目にした原告が被告との関係をBに問い質し,真意の確認を求めること自体,Bとの信頼関係に影響し夫婦関係を悪化させるものであることは容易に推察することができるから,Bに確認をすることにより冗談であるとの回答が得られたとしても不法行為の成否を左右するものとはいえないとして被告の主張を退けています。

 

 以上のように、たとえ性交渉がなかったとしても、その関係が社会通念上許容される範囲を逸脱する場合には、配偶者に対する慰謝料の支払義務が発生することがあります。

 どの程度の交際関係があれば社会通念上許容される程度を逸脱するのかについて明確な基準はなく、2番目に紹介した裁判例が指摘するように行為の態様や内容、経緯等を総合的に判断するほかはありませんが、少なくとも今回ご紹介したような行為については実際に慰謝料の支払いを命じられる可能性がありますので、性交渉がなければ慰謝料が発生しないわけではないという点については注意が必要です。

 

 弁護士 平本丈之亮

2020年7月10日 | カテゴリー : 慰謝料, 男女問題 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所