成人年齢の引き下げと養育費への影響

 

 先日、成人年齢を18歳に引き下げる法律が成立し、2022年4月から施行されることが決まりました。

 この改正により、それまでは未成年者として保護されていた18歳、19歳の若年者について消費者被害の増加を懸念する声などが上げられていますが、今回は、成人年齢の引き下げによって養育費の支払時期に何らかの影響があるのか、という点についてお話したいと思います。

 

改正法の成立前に既に養育費の合意をしていた場合

 養育費の支払期限は基本的に当事者の自由な合意で決めることができますが、成人すなわち20歳までとする例が比較的多かったと思われます。

 その場合の具体的な決め方については、「20歳まで」という表現のほか、「成人するまで」「成年に達するまで」という表現の場合もあります。

 合意の際、「20歳まで」という明確な表現をしていた場合は問題は起きませんが、たとえ「成人するまで」という表現をしていたとしても、この先、法律で成人年齢が18歳に引き下げられたからといって、連動して養育費が18歳で打ち切られるということはありません。

 当事者が合意した時点では【成人年齢=20歳】であった以上、当事者は養育費の支払いを20歳までとする前提だったことが明らかだからです。

 もっとも、非親権者(義務者)から18歳で打ち切りたいという申し入れがあり、親権者(権利者)がこれに応じた場合、そのように変更する合意そのものは有効ですから、親権者側は不用意に変更に合意してしまわないよう注意が必要です。

 

改正法の施行後に合意する場合

 このケースでは、【成人=18歳】ということを前提に合意するわけですから、「成人するまで」「成年に達するまで」という定め方をした場合、養育費の支払いは18歳までで終わりという判断にならざるを得ないと思います。

 そのため、20歳まで支払ってもらいたいということであれば、合意する際、明確に「20歳まで」などの表現にしておく必要があります。

 

 【相手方から、18歳までとするべきだと言われたら?】 

 養育費というのは、子どもが未成熟子(=自己の資産又は労力で生活できる能力のない者)である限り負担するべきものです。

 法律上、18歳が成人として扱われるようになったからといって、世の中の全ての18歳が突然、経済的に自立するわけはなく、その子どもが未成熟子かどうかは、結局のところ、その子どもを取り巻く家庭環境や本人の能力、健康状態、将来の志望などによって変わってくるところですから、成人年齢が18歳になったからといって当然に養育費の支払いが18歳で終わりになることはありません。

 したがって、「成人年齢が18歳になったのだから養育費も当然に18歳になるはずだ。」と言われても、そのようなことはないと反論することは可能です。

 

 この点については、参議院の附帯決議において、「成年年齢と養育費負担終期は連動せず未成熟である限り養育費分担義務があることを確認する」と明確に決議されており、法務省のHPでも、「成年年齢の引下げに伴う養育費の取決めへの影響について」という記事の中で、「成年年齢が引き下げられたからといって,養育費の支払期間が当然に「18歳に達するまで」ということになるわけではありません。」と述べられています。

 

今から改正法の施行までの間に合意する場合

 このようなケースで「成人するまで」「成年に達するまで」という定め方をすると、20歳を前提としているのか、それとも18歳を前提としているのか不明確ですから、後々トラブルになる可能性があります。

 調停や審判など裁判所で、あるいは弁護士が関与して養育費が決まる場合には、当然、そこに目配りをしますから、「20歳まで」のように明確な書き方をして、18歳までか20歳までかというところで問題が起きることは考えにくいと思います。

 これに対して、当事者間の協議で決める場合には、今後も「成人するまで」のような曖昧な決め方をしてしまうことがあり得ますので、そのような決め方はせず明確な表現にすることをお勧めします。

 

※2019年12月23日追記

 同日、裁判所が婚姻費用・養育費の新算定表を公表しましたが、その概要の中で、成人年齢を引き下げる法律の成立又は施行前に養育費の終期を「成年」と定めた場合、基本的には20歳と解するのが相当である、とされました。

 また、改正法の成立・施行という事情は、養育費の支払義務の終期を20歳から18歳に変更する事情にあたらず、子どもが18歳になったこともただちに婚姻費用の減額事由に該当するとはいえない、とされています。

 

 

弁護士 平本丈之亮