離婚手続には協議・調停・裁判の3つの方法がありますが、このうち当事者間での協議により離婚する協議離婚が早期解決に適しています。
他方、協議離婚で何らかの取り決めをしても、口頭で約束したケースでは「そんな約束はなかった」、当事者間で協議書を作ったケースでも「無理矢理書かされた」などと合意の成立が争われることがあったり、相手が約束を破ったときに合意内容を実現することができず別の手続をしなければならないといったトラブルが起きることがあります。
そのため、協議離婚をする際に後日のトラブルへの備えとして公正証書を作成する方法がとられることがありますが、今回は公正証書を作るまでの流れについてお話しします。
公正証書作成までの流れ
STEP1 当事者間での協議
公正証書を作成する場合、前提として夫婦間で協議を行い、離婚条件や協議書を公正証書の形で作成することについて合意しておく必要があります。
離婚協議には、当事者同士で協議する方法のほか、双方が弁護士に依頼する方法、どちらか片方だけが弁護士に依頼する方法がありますが、どのような方法によるべきかは事案によって異なります。
協議の内容も多岐にわたりますが、一般的な協議事項としては、離婚届の提出者、親権者、養育費、面会交流、財産分与、慰謝料、年金分割といったものがあり、ケースによってそれ以外の事項についても適宜協議を行うことになります。
協議をする時点で具体的な文言まですべて決めておく必要まではありませんが、お金の問題については合意内容をできる限り細かく決めておくと後々手続がスムーズに進みます。
たとえば養育費であれば、支払開始時期、支払終了時期、一人あたりの毎月の金額、支払日(毎月25日など)といった事項を協議し、財産分与や慰謝料であれば、支払総額、支払方法(一括か分割か)、支払日、分割払いのときは回数、各回の支払金額・支払期間・各回の支払日・支払いを怠ったときの一括払いその他のペナルティなどについて協議します。
また、後々の追加請求を防ぐため、通常、協議書に定めた事項以外にはお互いに請求しない旨の条項(清算条項)を入れることも協議します。
STEP2 事前打ち合わせ
当事者間で合意が得られ、ある程度内容が固まった時点で公証人役場に連絡します。
公証人役場に連絡を入れるのはどちらからでもかまいませんが、通常は公正証書の作成を希望する側がやりとりをすることが多いと思います。
日本公証人連合会のホームページには最寄りの公証人役場の所在地・電話番号・連絡用メールアドレスが記載されていますので、そちらを通じて連絡し、公正証書の作成を希望していることを伝えます。
公証人役場に連絡を入れると、その後は適宜の方法によって合意内容の確認をされますが、事前の協議で合意した内容が法律的にみて不明確・不十分なときは、必要に応じ夫婦間で再協議をしながら公証人役場とのやりとりを進めていくことになります。
内容が十分に固まっていない状態で公証人役場とやりとりしても次のステップには進めず、夫婦間で何度も協議をし直さなければならなくこともありますから、事前に内容を十分詰めておくことがポイントです。
先ほど述べたとおり、特にお金のやりとりについては支払条件に関する取り決めが不十分になりがちですので注意が必要です。
また、公証人役場からは、作成したい公正証書の内容に応じて必要書類等の準備の指示と写しの事前提出を求められますが、年金分割をするときに必要となる「年金分割のための情報通知書」は取得するのにある程度時間がかかりますので、公証人役場に問い合わせをする段階で取得しておくのがお勧めです。
代理人が出頭して公正証書を作成する場合は本人確認資料に加えて委任状や代理人の本人確認資料が必要となるため、公証人役場には早めに代理人による作成を希望していることを伝え、それを踏まえて資料の準備を進めます。
公証人役場との事前協議が終わると、公証人が合意内容を公正証書案という形にまとめますので、今度はこれを双方で確認します。
STEP3 日程調整等
公正証書の文案が確定すると作成費用も決まり、その後、公証人役場に行く日を当事者間で決めて公証人役場との間でも日程を調整します。
公正証書の作成費用をどちらが負担するかは特に決まりはないため、単純に折半したり、公正証書の作成を希望する側が負担する方法、収入に応じて案分負担するといった方法を適宜選択します。
なお、作成費用の負担に関する取り決めを公正証書に盛り込むことも可能ですが、文案が確定しないと作成費用も決まらないため、この場合は概算額を前提に負担額を合意してしまい、それを記載するか、あるいは金額はあえて明示せず単に折半するなどと記載することが考えられます。
STEP4 当日の出頭など
以上のような事前準備を整え、作成日当日には本人や代理人が公証人役場に出頭します。
当日の持参資料を忘れるとその日の作成ができなくなりますので、原本が必要かどうかも含め、当日の持参資料についてはきちんと確認をしておきます。
ちなみに、作成費用については、令和4年4月1日からクレジットカード( VISA・Master・JCB・Diners・AMEXの5種類のみ)による支払いも可能となりました。ただし、公正証書を送達するための料金についてはクレジットカード決済は使用できません。
作成日当日は公証人が本人確認を行ったうえで公正証書の内容を確認し、双方異論がなければ公正証書の原本に署名・押印して写しを受領し、公正証書の作成手続は終了となります(現金払いのときはこのときに作成費用を支払います)。公正証書の作成が終了したら、事前の取り決めに従い離婚届を役所に提出します。
公正証書の作成が終了すると当事者双方は公正証書の写しを受領しますが、お金の支払いを受ける側(債権者)は、お金を支払う側(債務者)の支払いが滞ったときの強制執行の準備として、相手が公正証書を受け取ったことを証明する「送達証明書」の交付を申請しておくことがお勧めです。
ちなみに、債務者側が代理人を出頭させた場合、債務者の代理人にはその場で公正証書を渡す「交付送達」ができず、後日、債務者本人に公証人役場から郵送する手続が必要となりますので、送達証明書はその後に申請することになります。
本人が受け取る公正証書は写しのため印鑑は押してありませんが、署名・押印した原本は公証人役場で保存していますので、手元にある公正証書に押印がなくても問題はありません。
その他、年金分割を合意したときは別途年金機構等で年金分割の手続(標準報酬改定請求)をすることが必要なため、公正証書の記載事項のうち年金分割に必要な部分だけを抜粋した「抄録謄本」の申請もしておくとよいと思います。
以上、離婚協議で公正証書をつくるときの一般的な流れや注意点についてご説明いたしました。
公正証書は当事者同士で協議した結果をまとめるものですから必ずしも弁護士の関与が必須というわけではありませんが、ご自分で対応するのが難しい事情があるときは、相手との協議から公正証書の作成に至るまでの一連の流れについて弁護士に委任することもご検討いただければと思います。
弁護士 平本丈之亮