妻(夫)の住居費用を夫(妻)が負担している場合の婚姻費用・養育費の計算方法~離婚②~

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 離婚に関するご相談の中でポピュラーなものとして、離婚成立までの生活費(婚姻費用)や離婚後の養育費の問題があります。

 

 婚姻費用や養育費については、いわゆる「簡易算定表」(判例タイムズ1111号・285頁以下)が広く浸透しているため、簡易算定表についてはご存知という方も多くいらっしゃいます。

 しかし、簡易算定表はあくまで一般的・標準的な事案を前提にしたものですから、婚姻費用や養育費としてどの程度の金額が妥当であるかは、夫婦それぞれの事情によって変わります。

 

 今回は、婚姻費用や養育費の計算において比較的問題になりやすいものとして、別居中の妻(夫)あるいは離婚後の元妻(元夫)の住居費(家賃・住宅ローン)を相手方が負担している場合に、婚姻費用や養育費の計算にどのような影響が出るのかをお話したいと思います。

 

 なお、婚姻費用や養育費については、従来の簡易算定表では金額が少なすぎるという批判があり、日弁連から見直すべきという意見とともに新算定表の活用が提言されていますが、現状では必ずしも家裁に浸透しているはいえない状況であると言われているため、この記事は従来の簡易算定表のもとでの考え方をご紹介します。

 

<相手の住む家の家賃(アパート代など)を負担している場合>

 簡易算定表は(元)夫婦がそれぞれ住居費を負担することを当然の前提として作られていますので、どちらかの負担によって一方が家賃支出を免れている場合には、その分の利益を婚姻費用や養育費の計算で考慮する必要があります。

 

 この場合、原則として簡易算定表のもとになっている計算方式(標準算定方式)で計算した婚姻費用・養育費から、一方が負担している家賃額を全額差し引き、残った金額のみを支払うことになります。

 これは、賃貸住宅については家賃の安いところへの転居が可能であるため、それをせずに今までの借家に住み続けることを選択する以上は、婚姻費用・養育費から家賃額の全額を差し引かれても不当とまではいえないと考えられているためです。

 

<相手が住宅ローンを支払っている家に住んでいる場合>

 相手が住居費を負担するケースには、相手名義の住宅に住まわせてもらい、住宅ローンを相手が負担しているというケースもあります。

 

 住宅ローンも賃貸住宅と同じ住居費であると考えるならば、先ほど説明した賃貸住宅と同じように全額が差し引かれることになります。

 しかし、住宅ローンの支払いには住居費の負担という側面だけではなく、支払いをしている側の資産形成という側面もあるため、住宅ローン全額を差し引くことは資産形成を生活保持義務に優先させることになり不当です。

 そのため、このようなケースでは、婚姻費用(や養育費・・・※)から差し引くべき金額が一定の範囲で制限されることになります(ただし、別居の原因が相手の不倫であるなど住宅ローン負担者の有責性が高い場合や相手が高収入の場合には、まったく差し引かれない場合もあるようです)。

 

※養育費の場合、通常は離婚の時点で住宅は財産分与の問題として清算されているはずですから、住宅ローンを考慮する必要は基本的にはありません。もっとも、財産分与の問題が解決しないまま離婚だけした場合や、住宅がオーバーローンのため財産分与の対象にならなかった場合には、養育費の計算において住宅ローンを考慮することがあります。

 

【具体的な計算方法は?】

 次に、具体的にどの程度の金額を差し引くべきかについては様々な計算方法がありますが、大きく分けると

 

 ①住宅ローンを負担している側の収入から住宅ローンの一部を差し引いた後、簡易算定表に当てはめて計算する方法

 

 ②簡易算定表で算定した金額から、住宅ローンの一部を直接差し引いて計算する方法

 

の2通りがあります。

 計算方法を全て紹介すると複雑になりますので、ここでは、①②のうち、比較的単純な計算方法をもとに、婚姻費用についての計算例をご紹介するにとどめます。

 

【事例】

 夫:年収650万円 

 妻:年収100万円

 子ども:1名(10歳)

 住宅ローン:月額9万円

 住宅:夫名義。妻と子が居住を継続。

 

【①:夫の年収から住宅ローンの一部を控除し、総収入として計算する方法】

 この方法では、まず、夫が負担している住宅ローン9万円のうち、夫の年収650万円から差し引くべき金額を計算する必要があります。

 具体的な計算は、判例タイムズ1111号294頁に記載されている「平成10~14年 特別経費実収入比の平均値」という統計資料から、夫の実収入に応じた標準的な住居関係費を抜き出し、これを住宅ローンの毎月の支払額から差し引いて算出します(用いるべき金額をこの統計資料以外の資料で計算する可能性もありますが、ここでは割愛します)。

 そうすると、年収650万円(月額54万1666円)の方の標準的な住居関係費は、前記統計資料によると57,640円となりますので、これをもとに夫の年収から差し引くべき金額を計算すると、

 

 90,000円-57,640円=32,360円(月額)

 

となります。

 この金額は月額ですので12を掛けて年額にし、その上で婚姻費用の計算に用いるべき夫の総収入をあらためて計算すると、

 

 6,500,000円-32,360円×12=6,111,680円

 

となります。

 そして、今度は、双方の収入(夫:約611万円 妻:100万円)を簡易算定表(表11 婚姻費用・子1人表(子0~14歳))に当てはめると、このケースにおける婚姻費用は、概ね10万円となります。

 

【②:妻側の世帯の標準的な住居関係費を簡易算定表の金額から控除する方法】

 この方法は、妻が夫名義の住宅に住んでいることによって住居費の支払いを免れていることに注目し、先ほど述べた統計資料によって本来妻が負担すべき住居費を抜き出し、これを簡易算定表によって計算した金額から直接差し引くというシンプルなものです。

 

 まず、夫婦双方の年収を機械的に簡易算定表に当てはめると、このケースでは、婚姻費用は概ね11万円になります。

 次に、差し引くべき妻側の住居費についてですが、先ほどの統計資料によると、最も低い住居費は、年収約197万円(月収164,165円)までの者を対象とした月27,940円しかありません。

 そうすると、年収100万円(月収83,333円)の妻について、年収197万円までの者を前提とした住居費をそのまま当てはめて良いのかが問題となりますが、ここではその点の検討は省略し、このケースにおいて差し引くべき住居費は27,940円が妥当であるとして話を進めます(実際にはこのような問題点から、統計資料ではなく住んでいる家と同等程度の賃貸物件の賃料を基準にすることもあります)。

 そうすると、この計算方法を取った場合の婚姻費用は、

 

 110,000円-27,940円=82,060円 → 概ね8.2万円

 

となります。

 

 実際の事案では、上記のような様々な方法による計算結果を参考にしながら、夫婦の具体的な事情を考慮したうえで協議して決めていくことになりますが、どうしても夫婦間で話がまとまらないときは裁判官が裁量で決めることになります。

 どのような計算方法を採用するかについても裁判官の裁量に属する部分であり、必ずしもこちらの主張する計算方法を採ってもらえるとは限りませんが、当事者としては、なるべく自己に有利な計算方法を採用してもらえるよう、どれだけ自分の計算方法が合理的であるかを説得的に主張していく必要があります。

 

弁護士 平本丈之亮