妻(夫)の住居費用を夫(妻)が負担している場合の婚姻費用・養育費の計算方法~離婚②~

 

 離婚に関するご相談の中でポピュラーなものとして、離婚成立までの生活費(婚姻費用)や離婚後の養育費の問題があります。

 

 婚姻費用や養育費については、裁判所が公開している婚姻費用・養育費算定表(いわゆる簡易算定表)が広く浸透しているため、簡易算定表についてはご存知という方も多くいらっしゃると思いますが、簡易算定表はあくまで一般的・標準的な事案を前提にしたものですから、婚姻費用や養育費としてどの程度の金額が妥当であるかは夫婦それぞれの事情によって変わります。

 

 今回は、婚姻費用や養育費の計算において比較的問題になりやすいものとして、別居中の妻(夫)あるいは離婚後の元妻(元夫)の住居費(家賃・住宅ローン)を相手方が負担している場合に、婚姻費用や養育費の計算にどのような影響が出るのかをお話したいと思います。

 

 なお、婚姻費用と養育費の計算については、令和元年12月23日に新たな算定表が公開され従来の算定表から金額が変更された部分がありますが、計算の基礎として用いられる統計資料が最新のものに更新されたものの、基本的な計算方法に変更はありません。

 そのため、本コラムでは、新算定表によって変更が生じた部分以外は従来の議論がそのまま妥当するものと判断して説明しますが、新算定表は公開されたばかりであり、今後、具体的な事案において従来とは異なる考え方が採用され結論が変わる可能性もありますので、その点はあらかじめご了承いただきますようお願い申し上げます。

 

相手の住む家の家賃(アパート代など)を負担している場合

 簡易算定表は(元)夫婦がそれぞれ住居費を負担することを前提として作られていますので、どちらかの負担によって一方が家賃支出を免れている場合には、その分の利益を婚姻費用や養育費の計算で考慮する必要があります。

 

 1 婚姻費用 

 この場合、原則として簡易算定表のもとになっている計算方式(標準算定方式)で計算した婚姻費用から、一方が負担している家賃額を全額差し引き、残った金額のみを支払うことになります。

 これは、賃貸住宅については家賃の安いところへの転居が可能であるため、それをせずに今までの借家に住み続けることを選択する以上、婚姻費用から家賃額の全額を差し引かれても不当とまではいえないと考えられるためです。

 もっとも、別居に至った責任がもっぱら義務者側にある場合には、後述の住宅ローンのケースと同様に信義則違反として住居費の控除が否定されたり制限される可能性があります。

 

 2 養育費 

 これに対して養育費については、離婚したあとも相手が家賃を負担し続けるケースは多くないと思いますが、仮にそのような状態が続くことが想定される場合には、婚姻費用と同様に家賃が控除されると思われます(住居費の負担額の限度で養育費の支払いをしていると同視できるため)。

 離婚に至った有責性が相手方にある場合に、婚姻費用のように養育費からの家賃控除が制限される可能性があるかは明確ではありませんが、離婚に対する有責性は慰謝料で解決すべき問題であり子どもの生活費の計算とは無関係であるため、養育費の場面では有責性を理由に家賃の控除を制限するのは難しいのではないかと考えます。

 

相手が住宅ローンを支払っている家に住んでいる場合

 相手が住居費を負担するケースには、相手名義の住宅に住まわせてもらい、住宅ローンを相手が負担しているというケースもあります。

 

 1 婚姻費用 

 住宅ローンも賃貸住宅と同じ住居費であると考えるならば、先ほど説明した賃貸住宅と同じように全額が差し引かれることになります。

 しかし、住宅ローンの支払いには、住居費の負担という側面だけではなく、支払いをしている側の資産形成という側面もあるため、婚姻費用から住宅ローン全額を差し引くことは資産形成を生活保持義務に優先させることになり不当です。

 そのため、このようなケースでは、婚姻費用から差し引くべき金額が一定の範囲で制限されることになります(なお、別居の原因が相手の不倫であるなど住宅ローン負担者の有責性が高い場合や、相手が高収入の場合には、まったく差し引かれないこともあるようです)。

 

 【具体的な計算方法は?】 

 婚姻費用の計算において、具体的に住宅ローン支払額のうちどの程度の金額を差し引くべきかについては様々な計算方法がありますが、大きく分けると

 

①住宅ローンを負担している側の総収入から、住宅ローン支払額の一部を差し引き、標準算定方式に当てはめて計算する方法

 

②標準算定方式で算定した婚姻費用額から、住宅ローン支払額の一部を直接差し引いて計算する方法

 

の2通りがあります。

 ①②の中でも細かな計算方法がありますが、すべての計算方法を紹介すると複雑になりますので、ここでは比較的単純な計算方法をもとに、計算例をご紹介するにとどめます。

 

【事例】

夫:年収650万円(給与) 

妻:年収100万円(給与)

子ども:1名(10歳)

住宅ローン:月額10万円

住宅:夫名義。妻と子が居住を継続し、別居中。

 

 【①:夫の年収から住宅ローンの一部を控除し総収入を計算する方法】 

 この方法では、まず、夫が負担している住宅ローンのうち、夫の年収650万円から差し引くべき金額を計算する必要があります。

 具体的な計算方法の一例としては、平成25年から29年までの家計調査年報・第2-6表の平均値をもとに夫の収入区分に応じた住居関係費を抜き出し、それを住宅ローンの毎月の支払額から差し引き、次に、その差額を夫の総収入から差し引くという方法があります(用いるべき住居関係費をこの統計資料以外の資料で計算することが妥当な場合もあり得ますが、ここでは割愛します)。

 なお、ここで用いる住居関係費は、「平成25~29年 特別経費実収入比の平均値」という資料に記載がありますが、新算定表に用いられているこの資料は一般の方はなかなか接する機会が少ないと思いますので、詳しいことを知りたい場合は弁護士にご相談いただいた方が良いと思います。

 

(住宅ローン-収入に応じた標準的な住居関係費)×12=夫の総収入から差し引くべき金額

 

 この方法によると、年収650万円(月額54万1666円)の方の標準的な住居関係費は、前記資料によると63,085円となりますので、これを住宅ローンから差し引き、夫の年収から控除すべき金額を計算すると、

 

100,000円-63,085円=36,915円(月額)

 

となります。

 次に、この金額は月額であるため12を掛けて年額にし、今度はそれを夫の総収入から差し引いて、婚姻費用の計算に用いる夫の収入をあらためて計算しなおすと、

 

6,500,000円-(36,915円×12)=6,057,020円

 

となります。

 そして最後に、双方の収入(夫:約605万円 妻:100万円)を簡易算定表(表11 婚姻費用・子1人表(子0~14歳))に当てはめると、このケースにおける婚姻費用は、概ね11万円となります(住宅ローンを一切考慮しないと12万円)。

 

 【②:妻側の世帯の標準的な住居関係費を算定表の金額から控除する方法】 

 この方法は、妻が夫名義の住宅に住んでいることによって住居費の支払いを免れていることに注目し、先ほど述べた統計資料に基づき、本来妻が負担すべき住居関係費を抜き出し、これを簡易算定表によって計算した金額から直接差し引くというシンプルなものです。

 まず、夫婦双方の年収を機械的に簡易算定表に当てはめると、このケースでは婚姻費用は概ね12万円になります。

 次に、差し引くべき妻側の住居費については、先ほどの統計資料によると、最も低い住居費は年収約177.7万円(月収148,113円)までの者を対象とした月22,247円です。

 そうすると、年収100万円(月収83,333円)の妻について、年収177.7万円までの者を前提とした住居費をそのまま当てはめて良いのかが問題となりますが、ここではその点の検討は省略し、このケースにおいて差し引くべき住居費は22,247円が妥当であるとして話を進めます。

 

 そうすると、この計算方法を取った場合の婚姻費用は、

 

120,000円-22,247円=97,753円 → 概ね9.8万円

 

となります。

 

 2 養育費 

 これに対して養育費の場合には、住宅ローンを考慮する必要はありませんが、一定の場合には考慮すべき場合もあります。

 考慮する必要がないとする主な理由は、住宅ローンは財産分与で清算されるべき問題であり、不動産を含めた分与対象財産全体の評価額を計算する際に考慮されるため、それ以外に養育費の場面で改めて考慮する必要がないためです(たとえば、財産分与の額を算定する際に住宅ローン額を差し引いて分与対象額を算定した場合、養育費の場面で改めて義務者の住宅ローンの支払額を差し引くと、ひとつの住宅ローンを二重に控除することになり、義務者を不当に利することになります)。

 もっとも、離婚時に住宅ローンの清算をしなかった場合には、本来、夫婦が共同して負担すべきであった住宅ローンについて相手方のみが負担し続けることは不公平であるため、住宅ローンの支払額を養育費の計算において考慮する場合があり得ます。

 また、財産分与の際に住宅ローンを一切考慮せず、不動産そのものの評価額のみを前提に分与額を決めたような場合にも、権利者は本来負担すべき住宅ローンの負担がない評価額を前提に財産分与を受け、さらにその住宅に住み続けることによって居住費相当の利益を受けることになり不公平ですので、個人的には、そのようなケースについても住宅ローンを考慮することはあり得るのではないかなと思っています。

 

 

 実際の事案では、上記のような様々な方法による計算結果を参考にしながら、夫婦の具体的な事情を考慮したうえで協議によって決めていくことになりますが、どうしても夫婦間で話がまとまらないときは裁判官が裁量で決めることになります。

 どのような計算方法を採用するかという部分についても裁判官の裁量に属する部分であり、必ずしもこちらの主張する計算方法を採用してもらえるとは限りませんが、当事者としては、なるべく自己に有利な計算方法を採用してもらえるよう、どれだけ自分の計算方法が合理的であるかを説得的に主張していく必要があります。

 

弁護士 平本丈之亮

 

 

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