むち打ちで後遺障害が認定された場合の示談交渉で注意すること~交通事故⑬~

 

 交通事故相談で多く当たる人身事故のケースとして、いわゆるむち打ち(頸椎捻挫)があります。

 

 むち打ちについて後遺障害が残った場合、そもそも自賠責の後遺障害等級に該当するかどうかのレベルで問題となることが多いのですが、無事に後遺障害等級の認定を受けられた場合でも、今度はその次の示談交渉で注意すべき点がありますので、今回はこの点についてお話しします。

 

 なお、むち打ちで認められる可能性がある後遺障害等級は、14級9号(局部に神経症状を残すもの)12級13号(局部に頑固な神経症状を残すもの)の2つですが、今回は当職が相談の中で出会うことの多い14級9号をもとにご説明したいと思います(着眼点そのものは12級の場合も同じです)。

 

後遺障害の慰謝料が適切に計算されているか

 むち打ちで後遺障害の等級認定がなされると、ケガで治療を要したことに対する慰謝料(傷害慰謝料)のほか、後遺障害が残ったことに対する慰謝料(後遺障害慰謝料)が発生します。

 

 しかし、後遺傷害に関する慰謝料についてきちんとした算定がなされていない場合がありますので、ここが一つ目のチェックポイントです。

 

 たとえば当職が過去に担当した事案では、14級9号の慰謝料について、裁判基準であれば110万円が相当であるところ、弁護士が介入する前に提示されていた金額は約58万円だったということがあり、交渉の結果慰謝料を増額した事案があります。

 

逸失利益が適切に計算されているか

 次に、後遺障害等級の認定がなされた場合、その等級に応じて、失われた利益(逸失利益)の支払いがなされますが、この点の計算が妥当かも検討する必要があります。

 

 逸失利益の計算は、 【基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数】 という計算式で求めることになっていますが、相手方からの示談案が妥当かどうかを判断するには、この計算式に用いるそれぞれの数字に問題がないかどうかを一つずつ見ていきます。

 

【point1 基礎収入は適切か】

 基礎収入については、事故の被害者の就業状況や年齢などにより様々な計算ルールがあるため、ここで全てのケースについて細かく解説することはできませんが、主婦(家事労働者)、自営業者、若年労働者(事故当時概ね30歳未満)、学生・生徒、幼児などについて問題となることが多くありますので、被害者がこのカテゴリーに入るケースには注意していただきたいと思います。

 

【point2 労働能力喪失率は適切か】

 14級9号の後遺障害等級認定がなされた場合、後遺障害により失われた労働能力は基本的には5%とされていますが、労働能力喪失率は具体的な職業との関係で判断されるものであり、5%という数字も一応の目安に過ぎません。

 

 そのため、(特にむち打ちに限った話というわけではありませんが、)保険会社から、後遺障害の仕事への影響は少ないとして低い数字が提示される場合がありますので、妥当な内容となっているか検討することが必要です。

 

【point3 労働能力喪失期間は適切か】

 さらに、むち打ちで14級9号が認定された場合、後遺傷害が労働能力に影響を及ぼす期間について5年程度とされる例が多いですが、保険会社からの示談案ではそれよりも短い期間になっていることがあります。

 

 当職が過去に担当したケースでも、弁護士が介入する前、保険会社から労働能力喪失期間が2年と提案されていた事案がありました。

 

 労働能力喪失期間が5年である場合と2年の場合とでは、先ほどの計算式に当てはめる数字(=ライプニッツ係数)が大きく異なるため(5年だと4.3295(令和2年4月1日以降の事故は4.5797)、2年の場合は1.8594(令和2年4月1日以降の事故は1.9135)。)、ここの違いが逸失利益の金額に大きな影響を与えることがあります。

 

 最終的には、後遺障害が仕事にどの程度の影響を与えるのかを事案毎に検討していくことになるため必ずしも5年にならない場合もありますが、さしたる理由もなく短い期間で提案されていないかをチェックするのも重要なポイントです。 

 

その他の費目にも注意

 以上、むち打ちのケースで主に後遺障害に関する慰謝料と逸失利益について注意点を説明しましたが、そのほかにも、傷害慰謝料(入通院慰謝料)や休業損害など、後遺障害以外の費目についても妥当な計算がなされていないケースがあるため、これらの点もきちんとチェックすることが大事です。

 

 交通事故による損害賠償問題は誰しもが遭遇する可能性のあるトラブルですが、いざ自分がその立場に立った場合に、保険会社からの示談案が妥当かどうかを検討するのは簡単なことではありませんので、自分では判断がつかない場合には、交通事故相談をご活用いただきたいと思います。

 

弁護士 平本丈之亮