再婚と養子縁組のパターン
①親権者(=権利者)が再婚し、子どもと再婚相手が養子縁組した場合
(←前々回のコラム)
②親権者(=権利者)が再婚し、子どもは再婚相手と養子縁組しない場合
(←前回のコラム)
③非親権者(=義務者)が再婚し、再婚相手の連れ子と養子縁組した場合
(または、再婚相手との間で子どもが生まれた場合)
④非親権者(=義務者)が再婚し、再婚相手の連れ子と養子縁組しない場合
子どもを引き取らなかった側(非親権者=義務者)が再婚し、再婚相手の連れ子と養子縁組した場合、義務者は、①前の配偶者との間の子どものほかに、新たに②再婚相手、③養子、を扶養する義務を負います。
このように、義務者が再婚して連れ子と養子縁組した場合には、義務者は扶養しなければならない人数が増えるため、前のパートナーとの間で取り決めた養育費が減額される可能性があります。
ただし、一旦取り決めた養育費の減免が認められるには、取り決めをした当時、義務者が予想できなかった事情の変更があった場合に限られるとされていますので、たとえば、離婚の当時すでに再婚相手と交際していたとか、離婚後、短期間のうちに再婚相手と交際を開始して再婚したようなケースだと、そもそも再婚と養子縁組は義務者の予想の範囲内であったとして養育費の減免が認められないことがありますので、その点には注意が必要です。
これに対して、義務者が再婚したものの再婚相手の連れ子と養子縁組しなかった場合には、連れ子の生活費が生じていることを理由にして前のパートナーとの間の子どもの養育費が減額されることはないのが原則です。
このようなケースでは、義務者は法的に連れ子を扶養する義務を負わないからです。
ただし、再婚相手に収入がないなど、新たに扶養義務を負うことになった再婚相手の生活費負担が生じる場合には、連れ子の生活費負担を理由とするのではなく、再婚相手の生活費負担を考慮して養育費が減額される可能性はあります。
その場合には、義務者の収入から子どもと再婚相手のそれぞれに生活費を振り分けるための計算を行うことになりますが、今回のメインテーマは養子縁組による養育費への影響であることから、この点の詳細な説明は割愛します。
再婚+養子縁組で養育費はどの程度の影響を受けるか?
では、義務者が再婚して養子縁組したことが、前のパートナーとの間の子どもの養育費を減免する理由になり得るとして、果たしてどれくらいの影響があるのでしょうか?
この点は、本来、再婚した時点で義務者や再婚相手、あるいは権利者にどの程度の収入があるか、また、子どもたちの年齢はいくつかなどの事情によって異なりますが、ここから先は具体例をもとに計算してみて、どのような変化が生じる可能性があるかをわかりやすく説明するため、義務者と権利者の収入には変動がないものとします。
なお、婚姻費用と養育費の計算については、令和元年12月23日に新たな算定表が公開され従来の算定表から金額が変更された部分がありますが、計算の基礎として用いられる統計資料が最新のものに更新されたものの、基本的な計算方法に変更はありません。
そのため、本コラムでは、新算定表によって変更が生じた部分以外は従来の議論がそのまま妥当するものと判断して説明しますが、新算定表は公開されたばかりであり、今後、具体的な事案において従来とは異なる考え方が採用されて結論が変わる可能性もありますので、その点はあらかじめご了承いただきますようお願い申し上げます。
【設例】
A 権利者:元妻
年間総収入:250万円(給与)
B 義務者:元夫
年間総収入:500万円(給与)
C 権利者と義務者との間の子ども
1名(離婚時:7歳 再婚時:10歳)
D 再婚相手
E 再婚相手の連れ子
1名(再婚時:15歳)
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再婚前のCの養育費
まず、BがDと再婚する前の、Cに対する養育費は、標準算定方式では以下のような式で算出します。
Cへの養育費(年額)
=義務者の基礎収入
×Cの生活費指数
÷(Bの生活費指数+Cの生活費指数)
×Bの基礎収入
÷(Bの基礎収入+Aの基礎収入)
<基礎収入>
総収入から税金や職業費、住居費、医療費等を除いたもの。
実務上は総収入に一定の「基礎収入割合」(%)をかけて計算する。
250万円の給与所得者であれば概ね43%、500万円だと概ね42%
のため、AとBの基礎収入はそれぞれ以下の通りとなる。
A 250万円×43%=107万5000円
B 500万円×42%=210万円
<生活費指数>
両親の間で子どもの養育費を按分計算する際に用いる指数で、生活保護基準
や教育費に関する統計から以下の通り導き出される。
義務者(B):100
15歳未満の子(C):62
15歳以上の子(E):85
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上記の式をもとに計算すると、BのCに対する養育費は以下の通りです。
210万円
×62÷(100+62)
×210万円
÷(210万円+107.5万円)
=531,583円
(月額44,298円)
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再婚+養子縁組後のCの養育費
以上に対して、義務者Bが再婚相手Dと再婚し、Dの連れ子であるEと養子縁組した場合には、Cの養育費に変更を生じることがあります。
Bは、Eとの養子縁組によって、C以外に新たにEを扶養する義務を負うためですが、実際の計算においては、再婚相手であるDに収入があるかどうかによって、さらに計算方法が変わってきます。
【再婚相手が無収入の場合】
この場合、Bは配偶者として再婚相手のDも扶養する義務がありますので、このようなケースでは、Cに対して払うべき分からDとEの生活費に振り分ける分を差し引くことになり、結果としてCへの養育費が減額されることになります。
具体的には、Cの養育費について、以下のような計算式によって修正を図ります。
Cへの養育費(年額)
=Bの基礎収入
×Cの生活費指数
÷(Bの生活費指数+Cの生活費指数
+Dの生活費指数+Eの生活費指数)
×Bの基礎収入
÷(Bの基礎収入+Aの基礎収入)
<生活費指数>
義務者(B):100
15歳未満の子(C):62
15歳以上の子(E):85
再婚相手(D):62(仮)
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なお、再計算にあたって使用する再婚相手Dの生活費指数は、旧算定表のときは15歳未満の子どもと同じとする扱いがされていました(当時の指数は55)。
本コラム執筆時点において、再婚相手の生活費指数がどう扱われるかは不明瞭ですが、子どもの生活費指数を改訂する際に使用された平成25年度から29年度までの基準生活費の平均額に関する統計資料から試算してみたところ、義務者と再婚相手の2名世帯の基準生活費は127,669円(=20~59歳の居宅第1類費38,956円×2名+2人平均の居宅第2類費49,757円)となり、ここから義務者1人の基準生活費(80,289円)を控除して再婚相手の最低生活費を計算すると47,380円となったため、この計算に誤りがなければ、義務者の生活費指数を100とした場合における再婚相手の生活費指数は59という結果になります(80,289:47,380≒100:59)。そうすると、15歳未満の子どもの生活費指数62とは3程度異なるわけですが、この3の違いを大きなものとみるか小さなものとみるかは現時点では何ともいえないところですので、ここではとりあえず、再婚相手の生活費指数は15歳未満の子どもの生活費指数とはあまり差がないものと評価して、便宜上、再婚相手の生活費指数は15歳未満の子どもと同じ62が妥当であるという前提で説明したいと思います。
上記の式をもとに計算すると、再婚と養子縁組後のCに対する養育費は以下の通り,それ以前に比べて約2万1000円ほど減額されるという結果になりました。
210万円×62
÷(100+62+62+85)
×210万円
÷(210万円+107.5万円)
=278,694円
(月額2万3224円)
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【無収入でも収入がある場合と同視される場合もある(潜在的稼働能力)】
なお、再婚相手Dが無収入であっても、働くことに支障がない(連れ子Eが大きいなど)場合には無収入として扱うのではなく、稼働能力を考慮して、以下のような収入がある場合と同視して計算されることもあります。
【再婚相手に十分な収入がある場合】
1.再婚相手Dの生活費は考慮しなくて良い
次に、Dが自分の生活費を賄うだけの十分な収入を得ている場合(あるいは十分な収入があると同視できる場合)には、BはDを扶養する必要はありませんので、Cの養育費を計算するにあたってDの生活費は考慮しません(=Dの生活費を理由にCの養育費が減額されることはない)。
2.養子Eの生活費は考慮するが、制限される可能性あり
また、このような場合、Dに十分な収入がある以上、Eの生活費は養親Bと実親Dがそれぞれの収入に応じて負担すべきであるという理由から、Dが無収入のケースの場合よりもEの生活費指数を減らすべきである、という考え方があります(Eの生活費指数が少なくなると、その分、Eに振り分ける金額が少なくなるため、結果的にCの養育費の減額幅が小さくなる)。
他方で、Dに収入があったとしても、Eの生活費指数を修正する必要まではないという考え方もあるようです。
このとおり、この部分は議論があるところですが非常に細かい話ですので、ここではDに十分な収入があるという事情はEの生活費指数を減らす方向で考慮する、という考え方(札幌高裁平成30年1月30日決定)をもとに計算例を示すにとどめます(具体的には、Eの生活費指数85を養親の収入と実親の収入で按分し、85から再婚相手が負担すべき指数分を差し引くという計算例を紹介します)。
【設例】
A 権利者:元妻
年間総収入:250万円(給与)
B 義務者:元夫
年間総収入:500万円(給与)
C 権利者と義務者との間の子ども
1名(離婚時:7歳 再婚時:10歳)
D 再婚相手
年間総収入:500万円(給与)
E 再婚相手の連れ子
1名(再婚時:15歳)
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Cへの養育費(年額)
=Bの基礎収入
×Cの生活費指数
÷(Bの生活費指数+Cの生活費指数
+Dの生活費指数+Eの生活費指数)
×Bの基礎収入
÷(Bの基礎収入+Aの基礎収入)
<生活費指数>
義務者(B):100
15歳未満の子(C):62
15歳以上の子(E):42.5→※
再婚相手(D):0
∵Dは自分の収入で生活できる
<Eの生活費指数の修正>・・・※
義務者Bと再婚相手Dそれぞれの収入で養子Eの生活費割合を按分し、
元の指数85からDが負担すべき部分を差し引く
Eの生活費指数
={Bの収入÷(Bの収入+Dの収入)}
={500万円÷(500万円+500万円)}
=42.5
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210万円
×62÷(100+62+42.5)
×210万円
÷(210万円+107.5万円)
=421,107円
(月額3万5092円)
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上記の通り,再婚相手Dに義務者Bと同程度の十分な収入があり、Eの生活費指数を修正するのが妥当であるとした場合、Cへの養育費は、再婚前に比べて約9000円ほど減額されるという結果になりました。
【再婚相手に収入はあるが不十分な場合】
このケースでは、Cの養育費を再計算するにあたってEの生活費指数を加算するほか、Dの生活費指数も加算する点はDが無収入の場合と同じです。
ただし、Dには不十分とはいえ、一応、収入があるため、Dの収入を計算に反映させる必要があります。
Dの収入をどのように反映させるかは考え方が分かれているようですが、ここでは分かりやすい計算方法として、Dの基礎収入をBの基礎収入に合算して計算する方法とそれに基づいた計算例を示すにとどめます。
なお、Dに不十分ながらも収入があるとすると、Dに十分な収入がある場合と同じようにEの生活費指数を減らす必要があるではないかが一応問題になりそうですが、このケースでは、結局Dは自分の生活費を賄うだけの収入を得ておらず、Eの生活費まで負担できる状態ではないことが前提ですから、Dの収入が不十分な場合にはEの生活費指数を修正する必要はありません。
A 権利者:元妻
年間総収入:250万円(給与)
B 義務者:元夫
年間総収入:500万円(給与)
C 権利者と義務者との間の子ども
1名(離婚時:7歳 再婚時:10歳)
D 再婚相手
年間総収入:50万円(給与)
E 再婚相手の連れ子
1名(再婚時:15歳)
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Cへの養育費(年額)
=(Bの基礎収入+Dの基礎収入)
×Cの生活費指数
÷(Bの生活費指数+Cの生活費指数
+Dの生活費指数+Eの生活費指数)
×Bの基礎収入
÷(Bの基礎収入+Aの基礎収入)
<基礎収入>
A 250万円×43%=107万5000円
B 500万円×42%=210万円
D 50万円×54%=27万円
<生活費指数>
義務者(B):100
15歳未満の子(C):62
15歳以上の子(E):85
再婚相手(D):62(仮)
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(210万円+27万円)
×62
÷(100+62+62+85)
×210万円
÷(210万円+107.5万円)
=314,526円
(月額2万6210円)
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上記の通り,再婚相手Dに不十分ながら収入がある場合、Cへの養育費は、再婚前に比べて約1万8000円ほど減額されるという結果になりました。
以上述べてきたところは、義務者が再婚相手の連れ子と養子縁組した場合を想定した話ですが、義務者と再婚相手との間で子どもが生まれた場合も養子縁組した場合と同じですので、同じような計算で修正を図ることになると思われます。
弁護士 平本丈之亮