交通事故で受傷し、不幸にして後遺障害が残ってしまった場合、認定された後遺障害等級に応じて慰謝料が支払われることになります(「後遺障害に対する慰謝料はどのように計算されるのか?~交通事故③・後遺障害慰謝料~」)。
しかし、後遺障害によって生じるのは精神的な苦痛だけではなく、以前と同じようには働けなくなるという重大な不利益も生じることになります(労働能力の喪失による減収)。
このように、被害者は、後遺障害によって労働能力を失う結果となりますが、この場合の補償として認められるのが「後遺障害逸失利益」です。
後遺障害逸失利益は、金額が高額になることや、不確実な事柄をもとに計算するものであることといった理由から、保険会社との争いも激しくなりがちなところです。
計算にあたっての方法や用語も難しく、専門的な話となりますが、今回はその基本的な考え方についてご説明してみたいと思います。
後遺障害逸失利益は、以下の計算式によって算出されることとされています。 【基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数】 原則として、事故前の現実収入を基にします。 もっとも、現実に収入がなければまったく逸失利益が認められないというわけではなく、たとえば学生や専業主婦、年少者など、現実収入がない場合でも、統計資料を利用して一定の逸失利益が認められています。 給与所得者以外の方について基礎収入をどのように計算するかは被害者の有する属性によってまちまちですので、今回は基本的な考え方を説明するにとどめ具体的に問題となる事例はまた別のコラムでお話ししたいと思います。 これは、後遺障害によって失われた労働能力の割合を意味するもので、「後遺障害別等級表・労働能力喪失率」という表により、各等級毎に割合が定められています。 この表では、認定された後遺障害等級毎に100%(1級)から5%(14級)まで細かく労働能力喪失率が記載されていますので、後遺障害等級が認定された場合には、まずは認定された等級に応じた労働能力喪失率をもとに計算することになります。 もっとも、外貌醜状や腰椎の圧迫骨折、鎖骨の骨折、歯牙障害など、直ちに労働能力の喪失に結びつかない可能性のある後遺障害については、保険会社から労働能力喪失率の割合について争われることがありますし、また、被害者の職業等との関係で、等級表に記載のある喪失率以下の割合しか認めないとして争われる事例もあります。 そのような場合は、被害者の具体的な職業や生活実態との関係で後遺障害が労働能力にどの程度影響しているかを立証することが必要となりますので、場合によっては逸失利益が否定されてしまったり、パーセンテージが低くなってしまうこともあります(なお、その場合でも、後遺障害慰謝料の増額事由として考慮してもらえる場合があります)。 逸失利益は、後遺障害によって失われた労働能力の程度に応じて賠償してもらうというものですから、後遺障害が残ったとき(=症状固定)から、働けなくなる年齢までの期間に限って認められます。 このような逸失利益の対象となる期間を「労働能力喪失期間」と呼んでいます。 労働能力喪失期間は、基本的には症状固定から67歳までの期間とされていますが、以下の①~④のようなケースでは異なる計算をするとされています。 特に、むち打ちの場合には、労働能力喪失期間が制限されることに注意が必要です。 ①未就労者の場合 原則として18歳から67歳まで ②症状固定時に67歳を超えている場合 原則として簡易生命表記載の平均余命の2分の1 ③症状固定から67歳までの期間が平均余命の2分の1より短くなる場合 原則として簡易生命表記載の平均余命の2分の1 ④むち打ちのケース ・12級の場合、10年程度 ・14級の場合、5年程度 先ほど述べたとおり、逸失利益は労働能力が失われた期間に応じて計算されるものですから、単純に考えれば【基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間(年数)】という形で計算すれば良いようにも思えます。 しかし、逸失利益というものは、将来受け取れるはずであった減収分を、将来になってからではなく、現時点で先取りしてもらうというものです。 そうすると、たとえば、本来は10年後にもらえるはずだった100万円を現時点で先取りした場合、もらった人はその100万円を運用し、10年後には100万円を超える金額を手にすることが可能となります。 このように、逸失利益は将来得られるはずであった利益を先取りするものであることから、先取りして運用した結果、得られるであろう利息分は賠償から差し引くと考えるのが公平であると考えられます。 そこで、先取りした分の運用益を差し引くために考案されたのが中間利息控除という考え方であり、その計算に当たって使用される係数が「ライプニッツ係数」です。 実際に逸失利益を計算するにあたっては、単に労働能力喪失期間を掛けるのではなく、その期間に対応する一定の係数(ライプニッツ係数)をかけて計算することになります。 最後に、典型的な事例について、基本的な計算例をお示ししたいと思います。 ・症状固定時の年齢:50歳 =労働能力喪失期間17年 ・労働能力喪失期間17年に対応する ライプニッツ係数:11.2741 ・事故前の年収:400万円(会社員) ・後遺障害等級:11級7号 =労働能力喪失率:20% 400万円×20%×11.2741 =9,019,280円 以上、後遺障害が残った場合の逸失利益の計算方法をご説明しましたが、逸失利益の計算が複雑ということはお分かりいただけたかと思います。 このように逸失利益の計算は、日常的に交通事故を扱っていない一般の方が正しい計算かどうかを判断するのが難しく、保険会社からの提案の妥当性を判断するには弁護士の専門的知識が必要な場合がありますので、後遺障害が認定された場合には、示談する前に弁護士へのご相談をご検討ください。 弁護士 平本丈之亮 基礎収入
労働能力喪失率
労働能力喪失期間
労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
計算例
【計算】