衣類や装身具は財産分与の対象となるのか?

 

 離婚協議の中で財産分与が問題になる場合、通常は不動産や預金、有価証券などの処理を巡って話し合いがなされることが多いところですが,まれに、婚姻中に夫婦それぞれが購入した衣類や装身具(指輪など)が財産分与の対象になるかを巡って議論になることがあります。

 

 では、このような物が果たして財産分与の対象になるのか、というのが今回のテーマです。

 

夫婦それぞれの専用品は基本的に財産分与の対象にはならない

 

 以下の裁判例でも触れられているとおり、衣類や装身具など、社会通念上、夫婦それぞれの専用品とみるべき物は、基本的には財産分与の対象にはならないと考えられています。

 

名古屋家裁平成10年6月26日審判

「本件記録によれば、本件内縁期間中に申立人が相手方から買い与えられた宝石類は、ネックレス一点、指輪三点であり、その購入価格は、指輪一点が約八〇万円、他の指輪一点が約三〇万円であったことが認められ、なお、その余の価額は不明である。
 これらの宝石類は、社会通念に従えば申立人の専用品と見られるから、申立人の特有財産であるというべきであり、したがって、本件財産分与の対象とはならない。」

 

東京地裁平成16年2月17日判決

「前記美術品は夫婦共同財産であり、現在被告が管理している。この点について、被告は、被告の特有財産によって被告の好みにより購入したもので、被告の特有財産であると主張する。しかし、衣類や装身具等とは異なり、社会通念上これを被告の専用品とみることはできないうえ、相続財産を原資として取得されたと認めるに足りる証拠はないから(相続した預貯金あるいは現金等によって購入されたと認めるに足りる証拠はないから)、被告の特有財産ということはできない。」

 

 このように、衣類や装身具は、通常それぞれの専用品、すなわち特有財産として扱われるため基本的には財産分与の対象にはなりません。

 

 ただし、裁判例によれば、専用品として扱われるかどうかの基準は結局のところ「社会通念」という曖昧なものであるため、たとえば装身具ひとつみても、それ自体が非常に高額であったり、購入目的が着用という装身具本来の目的ではなく資産形成であったようなケースであれば、例外的に財産分与の対象となる可能性は残ります

 

 多くの場合、この点は話し合いによって解決されていると思われますが、専用品かどうかを巡って離婚協議等が難航する可能性もありますので、装身具などの処理を巡って本格的に問題が生じたときは、一度弁護士へのご相談をご検討いただければと思います。

 

 弁護士 平本丈之亮