任意整理と自己破産、どちらをするべきか?

 

 債務整理のご相談を受けていると、任意整理(債権者との間で3年から5年の分割払いの合意をする債務整理の方法)が良いか、自己破産をするのが良いか迷っているという相談を受けることが多くあります。

 

 また、最近では、一度任意整理にチャレンジしたが、依頼した弁護士や司法書士に指示された積立ができず辞任されてしまい、やむなく別の専門家を探している、という流れで自己破産のご依頼を受けるパターンが増えています。

 

 そこで今回は、債務整理の方法について迷っている方や、任意整理を希望する方向けに、どのような点に気をつけるべきかについてお話ししたいと思います。

 

1 支払の原資を確保できる見込みがあるか

 

 まず、何よりも重要なのは、今後、3年ないし5年間程度、債権者に対して無理なく支払いを継続できるだけの原資を確保できるかどうかです。

 

 この点をクリアできない場合、任意整理にチャレンジして、たとえ一旦は合意ができたとしても、早晩破綻してしまい、それまでに弁護士や債権者に対して支払った額がすべて無駄になってしまうためです。

 

家計収支表の重要性

 そのため、任意整理ができるかどうかを検討するときには、まずはご自分の世帯収入と支出についてきちんと分析し、毎月一定の支払原資を捻出できるか、家計収支表を利用して計算してみることが有用です。

 

 ちなみに、家計収支表の書式はインターネットを検索すればすぐに出てきますのでどの様式を使っても問題ありませんが、自己破産の申立に使用するための書式を裁判所が公開していますのでそれが利用しやすいと思います。

 

 家計収支表を作成する場合に重要なのはどちらかというと収入よりも支出の方であり、特に、毎月は発生しないが一定のサイクルで必ず発生するもの(税金や車検代、アパートの更新料など)や臨時支出(冠婚葬祭費など)も考慮して、毎月問題なく返済に回せるであろう金額について厳しめに見積もる必要があります。

 

 このような家計収支表を作成した結果、黒字が発生し、現在の債務総額を一月あたりの黒字額で割った場合の年数が3~5年で収まるようであれば、任意整理がうまくいく可能性があります(例 債務総額:150万円 黒字:6万円 → 150万円÷6万円=25(2年1ヶ月))。

 

 もっとも、この計算は、あくまで現時点でのシミュレーションでしかないため、3~5年後までそのような計算が成り立つのか、今後の減収や生活費の増加の可能性も念頭において検討する必要がある点は注意が必要です。

 

 以上に対して、そもそも収支を計算したら±0に近い状態とか、黒字でも債務総額を黒字額で割った返済期間が5年を超えてくるようだと、方向性としては自己破産をするのが妥当ということになります(ただし、債権者によっては5年を超えた分割和解に応じてくれることもあるため、そのような債権者だけが対象であれば任意整理できる場合もあります)。

 

2 自己破産できない理由があるかどうか

 

 法律上、自己破産ができるのは支払不能の場合とされていますが、実際には、支払不能にも見えるが、頑張ればかろうじて支払いを継続していけそうだという場合もおり、任意整理、自己破産のいずれの方向性もあり得る方がいます。

 

 そのような方については、自己破産をすることができない特段の理由があるかどうかという点が、次の方針選択の基準となります。

 

 そのような理由として多いのは、たとえば、出勤用に使っている自動車にローンが残っていて自己破産をすると自動車を手放さなければならなくなるケースや、子どもの学資保険や自分の生命保険を解約されては困るケースなどがあります。

 

 もっとも、このうち保険についていえば、自己破産をしたとしても、解約返戻金と現預金などの他の資産を合計して99万円までなら「自由財産拡張」という制度を活用して残せることも多く、そもそも掛け捨ての保険であれば解約する必要もないいため、保険が自己破産の障害になるケースはあまりありません。

 

 また、自動車についても、親族に改めてローンを組んで買ってもらったり、家族が元々持っている車を利用させてもらう、安い中古軽自動車を現金で購入するなどによって対応可能な場合もあるため、そのような形で対応可能であれば、あえて無理な任意整理にチャレンジする必要がないこともあります。

 

※住宅ローンがあって残したいという場合には、別の法的手続である「個人再生」がありますが、今回は割愛します。

 

3 数年後、自分や家族がどうなっていたいか

 

 任意整理をした場合、3年から5年程度、毎月一定額の支払いを継続する必要があるため、その間、収入をストックすることができません。

 

 たとえば、振込手数料込みで毎月5万円を5年間支払う内容で任意整理した場合、5年間で300万円を債権者に対して支払うことになりますが、これだけの金額があれば、たとえば子どものために新たに学資保険に入ったり自動車を購入することも可能です。

 

 そのため、自己破産と任意整理のどちらでも可能性があるというケースでは、3~5年後に、自分や家族がどういう状況でいたいかということも重要な判断基準となります。

 

債務整理の方針選択は慎重に

 

 以上述べた視点以外にも、自己破産というものに対するイメージや、借りたものは返したいというお気持ち、家族の意向、保証人がいる場合の影響への懸念など、債務整理の方針を決定する上では考えなければならない点が多くあります。

 

 他方、昨今の債務整理の相談では、このような考えるべき事柄についてあまり深く検討されることなく、とにかく任意整理するということで進めた結果、失敗してしまったというケースが見られます。

 

 債務整理を検討している方は、精神的に追い詰められ、とにかく一刻も早く楽になりたいという一心で専門家に相談されると思いますが、むしろそのような状態だからこそ、安易に結論を出すのではなく幅広い観点から検討して決断していただきたいと思いますし、場合によっては複数の専門家に相談してから結論を出すという慎重さも必要になると思います。

 

弁護士 平本丈之亮