離婚について協議がまとまった場合、夫婦における権利義務関係を確定するために離婚協議書を作成することがあり、この場合、紛争が蒸し返されないよう、当事者間ではこの協議書に定めたもののほか、互いに債権債務がないといった条項(清算条項)を記載するのが一般的です。
このような清算条項は紛争の蒸し返しを目的とするものですから、清算条項を入れた離婚協議書の作成後に追加請求がなされることは通常ありませんが、相手方が何らかの理由によって離婚協議書の内容を争い、後日、財産分与などの請求を行うというケースは存在します。
相手方が離婚協議書の効力を争う理由は様々ですが、この場合、任意の請求を拒否されれば、通常は相手方が財産分与を求めて調停・審判を申し立てるため、被請求側は相手方が申し立てた手続の中で財産分与請求権が既に存在しないことを主張していくことになります。
ところが、相手方がこのような正規のルートにより請求するのではなく、事実上、直接の請求行為を繰り返すというケースもあり、このような場合には被請求側は対応に苦慮することになります。
このようなケースにおいて、事実上の請求を受けている側としては、財産分与の義務が既に存在しないことを裁判で公的に確定してほしいというニーズが生じますが、他方、財産分与は一般の民事事件とは異なり、家庭裁判所において取り扱われる事件(家事審判事項)であることから、このような義務が存在しないことを裁判で確認してもらうことはできない(不適法)のではないかが問題となります。
東京地裁令和3年11月30日判決
この点についてはあまり議論されていないところですが、東京地裁令和3年11月30日判決は、家事審判事項に該当する夫婦間の同居義務等も法律上の実体的権利義務であり、これを終局的に確定するには公開の法廷における対審及び判決によるべきとした最高裁昭和40年6月30日決定を援用し,「財産分与義務自体の不存在の確定を求めて民事訴訟を提起することは妨げられない」と判断しています。
先ほど述べたとおり、離婚協議書の効力を争って財産分与を請求したい場合、任意請求が功を奏しなければ調停や審判の申立をするのが筋ですが、中にはそのような正式手続を踏まずに当事者間の交渉で強引に解決しようとするケースもあり、被請求側としてはきちんと決着をつけたいニーズもあると思われます。
したがって。万が一このようなトラブルに巻き込まれた場合は、財産分与義務の不存在確認の裁判を起こすということも選択肢に入ってくると思います。
弁護士 平本丈之亮