後部座席でシートベルトを着用せずに事故に遭った場合、過失相殺されるのか?

 

 平成20年6月1日から、一定の例外(疾病・負傷・障害・妊娠中などのためシートベルトを着用することが適当ではない場合や著しく肥満している者等)を除いて、運転者は後部座席に乗る者にシートベルトを着用させる義務が課せられました(道路交通法法第71条の3第2項)。

 

 このように、法律では後部座席のシートベルトの着用義務は運転者に課せられたものであり、後部座席に乗車した者自身に課せられたものではありませんが、シートベルトを着用せずに後部座席に乗車した者が交通事故によって損害を受けた場合、加害者側からシートベルト不着用という事実を減額事由(過失相殺)とすべきである、という主張がなされることがあります。

 

 今回は、後部座席のシートベルトの不着用と過失相殺についてお話しします。

 

過失相殺されるケースが多い

 結論から述べると、改正道路交通法施行後の裁判例では、後部座席に乗っていた者がシートベルトを着用していなかった場合、その事実が不利な事実として評価されて過失相殺されることが多いと思われます。

 

 具体的な割合は被害者側の落ち度の程度によって増減しますが、2016年版・民事交通事故訴訟損害倍書額算定基準(下巻)の裁判官の講演録によると、過去の裁判例では5~30%程度の範囲で判断され、典型的なシートベルト不着用の事案では5~10%の範囲内で収まっているかもしれないと指摘されています。

 

 また、当職においてもいくつか近時の裁判例を探してみましたが、見つけられた範囲では以下のとおり10%とする例がありましたので、被害者の落ち度が非常に大きいような特殊なケースを除くと、裁判例の傾向としては10%程度とされるケースが多いかもしれません。

 

シートベルト不着用で被害者の過失割合を10%と判断した事例

①大阪地裁令和2年10月23日判決

②大阪地裁平成31年2月27日判決

③仙台地裁平成29年11月27日判決

④横浜地裁平成29年5月18日判決

 

過失相殺されないこともある

 このように、後部座席のシートベルト不着用は被害者の落ち度と評価され、過失相殺されてしまうことがありますが、他方、以下のようなケースでは不利に扱われない場合もあります。

 

加害者の過失が非常に重大な場合

 

【大阪地裁令和元年10月29日判決】

 加害者がセンターラインをオーバーして被害者の乗用車両に正面衝突したケース

 

【大阪地裁令和元年10月2日判決】

 被害者は腰ベルトのみをして肩ベルトをしていなかったが、事故原因が加害者の赤信号無視であったケース

 

【京都地裁平成29年7月28日判決】

 死亡事故において、加害者の運転する車両の後部座席に乗っていた死亡被害者の遺族が、加害者である運転者を訴えたケース。

 加害者は、路面が滑りやすい状況のもと、制限速度50キロメートルの一般道路トンネルを時速約144.2キロメートルまで加速させるなどし、無謀運転によって事故を起こしたことや、加害者が被害者にシートベルトの着用を求めていなかったことから、過失相殺を否定した。

 

シートベルトを着用していても同じような怪我を負ったと考えられる場合

 

【名古屋地裁一宮支部平成30年12月3日判決】

 被害者の乗っていた車両は事故で横転し、水田に落下したところ、被害者の怪我は右顔面打撲、前額部挫創、両肩関節挫傷、両肋骨挫傷、腰椎捻挫及び頸椎捻挫であり、シートベルトを着用していなかったことによって損害を発生あるいは拡大させたとまで評価できないと判断されたケース

 

シートベルト装着義務が免除されている場合

 

 その他にも、先ほど紹介した講演録では、疾病等の事情によりシートベルトの装着義務を免除されている者が被害者になった場合にも、事案によるものの過失相殺するのは相当ではないとして、助手席に関する事案で過失相殺を否定したケースが紹介されています(東京地裁平成7年3月28日判決)。

 

 

 今回ご紹介した通り、後部座席に乗る者自身にはシートベルトの着用義務はありませんが、ひとたび事故が起きたときは損害賠償請求の場面で不利に扱われることがありますし、それよりも前に、まずはご自分やご家族の身を守るためにシートベルトを着用する(させる)ことを心がけていただければと思います。

 

弁護士 平本丈之亮

2021年5月16日 | カテゴリー : 過失割合 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所