非弁護士が関与して作成された不貞慰謝料の和解契約が公序良俗に反して無効とされたケース

 

 以前のコラムにおいて、不貞行為による慰謝料の合意をしても、そのような合意が無効となったり取り消されたりする場合もある、ということをお話ししました。

 

 不貞行為に基づく慰謝料の請求については、たとえ被害を受けた側であっても社会的に相当な方法によることが必要ですが、今回は、弁護士ではないにもかかわらず職業的に不貞関係に関する和解交渉について依頼を受け、交渉を行っていた者が関与していたケースにおいて、諸般の事情から和解契約が公序良俗に反して無効と判断されたケースを紹介します。

 

東京地裁令和3年9月16日判決

【関係者】

A:不貞行為を行った者(既婚者)

B:Aの配偶者(原告)

C:Bから有償で依頼を受けて和解交渉に関与した者(非弁護士)

D:Aと交際した者(被告)

 

【裁判所が認定した主な事実関係や評価など】

①Cは、職業的に不貞関係に係る和解交渉について有償で依頼を受け、本人と一緒に又は本人に代理して具体的交渉を行っていた者であり、本件についても、単なる立会人としてではなく具体的な交渉を含めて関与していた。

 

②Cは全く面識のないBの勤務先を訪問し、路上で突然声をかけるなどして交渉の場に同行させた。

 

③Cは、約8時間にわたってBと一緒にDと交渉を行った。

 

③②、③のような行動は交渉の場となった飲食店がある程度開放的な場所であったことを前提としても、一般人であるDにとって十分恐怖感を覚えるようなものであったといえる。

 

④和解合意書はBとCが準備したものであり、合意された慰謝料は500万円と一般的な不貞慰謝料に比して相当高額である。

 

⑤和解合意書にはDの父親の氏名や連絡先も記載させた。

 

⑥和解契約締結後、BとCは、ホテルの音声を出されるのは耐えられないと思うなどといったメッセージをDに送信しており、これは、Aとの関係やこれに関してDが望まない事実が公になる旨をあえて伝え、合意内容の履行を促すことを目的としたものといえる。

 

→「本件和解契約は、単にCが弁護士法に違反して関与したにとどまらず、Cにおいて具体的な交渉を含めて積極的に関与したものである上、その交渉態様は事後的な対応も含めて相当性を欠くものといわざるを得ないから、このような経緯で締結された本件和解契約は、公序良俗に反するものとして無効というべきである。」

 

 弁護士ではないものが報酬を得る目的で業として法律事務を取り扱うことは弁護士法72条で禁止されていますが(非弁行為)、不貞行為を理由とした慰謝料請求に関する交渉は法律事務にあたりますので、職業的に有償で依頼を受けて交渉に関与した場合は弁護士法に違反することになります。

 

 この裁判例では、和解交渉に関与した者が弁護士法に違反していることのみを理由として和解契約の効力を否定したわけではありませんが、関与者が弁護士法に違反していたことに加え、その関与の度合いが積極的なものであったことや、そもそもの交渉態様が相当性を欠くことを指摘して和解契約は無効と判断しています。

 

 和解の効力を否定した結論自体は正当であると思いますが、非弁護士がこのような示談交渉に関与した場合、裁判例が指摘したように社会的にみて相当性を欠く手段による請求行為がなされることがありますし、その結果、本来、取得し得ないはずの不当な利益を獲得させることにもつながりかねませんので、弁護士法72条に違反する者が和解交渉に関与した場合には、その者の関与の積極性や交渉態様如何にかかわらず、端的に公序良俗に反して無効と判断されるべきではないかと考えます。

 

 なお、この裁判例では、和解契約の効力が否定されただけではなく、結局DにはAが既婚者であったことについて故意も過失もなかったとして慰謝料請求自体も棄却されていますが、本件とは異なり、交際相手に故意過失があることが明らかで慰謝料を請求できる正当な権利が認められるケースでも、そのような違法な交渉を行った場合には権利実現にとってマイナスに働くことも想定されます。

 

 たとえば、違法な交渉を行ったばかりに、その後の裁判での慰謝料請求が権利濫用として否定されてしまうリスクや、そこまでいかずとも、社会的に不相当な方法によって請求したという事実が裁判において慰謝料額を低減させる事情として斟酌される可能性もありますので、慰謝料請求を検討している方は、知らない間に違法行為に巻き込まれたり、それによる不利益を受けないように細心の注意が必要と思われます。

 

 また、慰謝料を請求された側としても、素性の知れない第三者が関与している場合にはその場で合意するのではなく、いったん持ち帰って検討することが必要となりますが、万が一合意してしまったとしても、今回紹介した裁判例のように事情次第では和解が無効と判断される場合もありますので、そのようなときは弁護士へご相談されることをお勧めします。

 

弁護士 平本丈之亮

 

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