被相続人の生前贈与や遺言によって遺留分を侵害された相続人は、遺留分を侵害した相続人や第三者に対して遺留分侵害額請求(改正前民法では遺留分減殺請求)をすることが可能です。
このうち、遺留分の請求を受けたのが相続人である場合、被相続人の生前に故人の療養監護に努めたり家業に尽力した等の理由で自分には「寄与分」があるはずだとして、これを理由に遺留分の請求額を減らせないか、という質問が出ることがあります。
そこで今回は、被相続人のために尽くしたこと(=寄与分)が遺留分の請求に対して抗弁として機能するのかどうかについてお話ししたいと思います。
結論から言えば、遺留分の請求に対して寄与分を抗弁として主張しても意味はないと考えられています(東京高裁昭和60年9月26日判決、東京高裁平成3年7月20日判決、東京高裁平成10年3月31日判決(上告審の最高裁平成11年12月16日判決も原審の判断を是認。))。
直接的な理由は、寄与分について定める民法904条2を遺留分の計算に準用する規定が存在しないためですが、そのほかにも寄与分は家庭裁判所での審判で具体化されるものであり訴訟手続になじまないとか法技術的に困難である、といったことも理由としてあげられています。
寄与分は遺産分割の場面では法定相続割合を修正する上で意味を持ちますが、今回お話ししたとおり、少なくとも遺留分の場面で寄与分の主張をしても抗弁としての意味をなさないため、相続人が生前贈与や遺贈を受けることを検討する際には、この点を踏まえて慎重に行動する必要があると思います。
弁護士 平本丈之亮