婚姻費用については、双方の収入によって金額を算定する標準算定方式が浸透しています。
そのため、婚姻費用を計算する場合には双方の収入をどこまで考慮するかが重要な課題となりますが、この点について、結婚前から保有していたり相続・贈与によって取得した「特有財産」からの収入(不動産収入や株式配当金などの果実)を婚姻費用の計算においてどう扱うべきかが問題となることがあります。
この点は過去にいくつかの裁判例が存在しますが、近時も高裁決定が出ているところですので、今回はそのような裁判例を紹介したうえで、婚姻費用と特有財産の関係についてお話したいと思います。
裁判例
以上のように過去の裁判例では、婚姻費用の計算において、特有財産からの収入(果実)を特段の制限なく収入として算入するもの(東京高裁昭和42年5月23日決定、東京家裁令和元年9月6日決定)と、婚姻中の生活の原資になっている場合には婚姻費用の計算において収入に算入するもの(東京高裁昭和57年7月26日決定、大阪高裁平成30年7月12日決定)に分かれています。
婚姻費用について定める民法760条は「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。」と規定し、婚姻費用の算定について互いの資産を考慮することを明らかにしているほか、「収入」についても特段限定はされておらず、また、婚姻費用分担義務が生活保持義務(=自分の生活を保持するのと同程度の生活を保持させる義務)であることからすると、個人的にはこのような特有財産からの収入も当然に収入に算入されるべきように思われます。
婚姻中の生活の原資にあてられていた場合には特有財産からの収入も婚姻費用の計算において考慮(算入)するとした裁判例が何故そのような限定を施すのかはいまいち判然としませんが、財産分与の場面では特有財産が対象外であることとの整合性を図る趣旨なのかなと想像しています。
いずれにしても、特有財産からの収入が生活の原資にあてられていたかどうかがポイントになるという裁判例がある以上、このような収入が婚姻費用の計算において問題となる場合には、権利者側であれ義務者側であれ、この収入が実際上どのように使われていたのかについて積極的に主張立証していく必要があると思われます。
弁護士 平本丈之亮