交通事故で入院・通院した場合の慰謝料の計算と注意点~交通事故②・入通院慰謝料~

 

 前回のコラム(「保険会社からの示談案は果たして妥当か?~交通事故・3つの基準~」)で、交通事故の損害賠償においては3つの基準があり、相手方の保険会社からの示談案が必ずしも適正な金額でないこともあり得る、とお話しました。

 

 もっとも、交通事故の示談案のなかにも様々な項目があり、「慰謝料」や「休業損害」「逸失利益」などの専門用語も並んでいるため、被害者の方にとっては、金額が妥当かどうかを判断する以前に、それぞれの項目がどのようなもので、どういう計算がなされるべきかを判断することすら簡単なことではありません。

 

 そこで、今回は、交通事故の示談案で示される項目の一つである「入通院慰謝料」について、具体的な事例をもとに、その意味や計算の方法などをご説明していきたいと思います(なお、交通事故の慰謝料には今回取り上げる「入通院慰謝料」以外にも、後遺障害がある場合の「後遺障害慰謝料」や被害者が死亡した場合の「死亡慰謝料」がありますが、こちらは別のコラムで説明したいと思います)。

 

そもそも入通院慰謝料とは何か?

 交通事故で怪我をした場合、それによって生じた肉体的・精神的苦痛を償うために金銭が支払われることになりますが、これを「入通院慰謝料」と呼んでいます。

 本来、肉体的・精神的苦痛を金銭評価することは困難ですが、少なくともケガの程度によって苦痛の程度は大きいと言えるため、交通事故では入院期間や通院期間を目安に慰謝料を計算するのが現在の実務となっています。

 

慰謝料の計算で実際にどこが問題となりやすいか?

 入通院に基づく交通事故の慰謝料は、怪我が治った時点、あるいは、これ以上治療を続けても症状の改善が期待できないと判断された時点(=「症状固定」といいます。)までの入院期間と通院期間に応じて計算しますが、当職の経験上、相手方からの提案はこの金額が低く抑えられているケースがあります。

 

<事例>(架空の事例ですが、主張自体は実際にあったものです)

 交通事故で骨折などの怪我をし、10日間入院したほか、完治するまでの総通院期間が70日(実通院日数6日)だった(被害者の落ち度(=過失割合):10%)。

 このようなケースで、相手方保険会社と当職がそれぞれ慰謝料を計算したところ、以下のような結果となった(なお、慰謝料以外の損害は割愛します)。

 

 ①保険会社の示談提示額 

 慰謝料相当額 134,400円

 

 ②当職の計算による損害額 

 慰謝料相当額 600,000円

 

どうしてこのような差が生じるのか?

 上記のケースでは、ご覧のように相手方の計算と当職の計算との間で慰謝料の額には大幅な差が生じています。

 これは、保険会社と当職の計算のやり方とでは、以下のように根本的な違いがあるからです。

 

 【保険会社の計算方法(自賠基準)】 

 このケースにおいて、保険会社は以下のような自賠責保険における計算方法を採用して慰謝料を計算しています(なお、自賠責保険では、被害者に過失があっても重過失がない限り支払額が減額されないため、実際の事案でも、慰謝料の計算にあたってこちら側の過失による減額の主張はしてきませんでした)。

 ちなみに、全ての事案で必ず自賠基準で計算してくるというわけではなく、事案によって自社の任意基準で計算した額を提示してくることも多々あります。

 

 入通院実日数16日×2×4,200円=134,400円(※)

 

※ここでは入通院実日数×2をもとに計算していますが、総治療期間が入通院実日数×2よりも短いときは、そちらの日数をもとに計算することになっています。

 

 【当職の計算方法(裁判基準)】 

 これに対して、当職は、日弁連交通事故相談センター東京支部が発行している「民事交通事故訴訟 損害賠償算定基準」(通称「赤い本」)の別表Ⅰの基準、いわゆる裁判基準に基づき計算し、こちら側の過失による減額(10%)も考慮すると、本件で認められるべき慰謝料は60万円であるとの結果となりました。

 

被害者の注意点と対策

 以上のケースは架空のものですが、実際、保険会社が示談案を出す際には上記のような計算方法を主張し、裁判基準から見れば低めの金額を提示してくることがあります。

 保険会社が裁判基準よりも低い金額の示談案を提示すること自体は違法ではありませんし、このような基準の存在を進んで教えてくれるということもありませんので、当初の案で示談したとしても有効であり、後で本当はもっと支払われるはずだったと主張しても争うのは困難です。

 無論、様々な事情から保険会社の示談案の方が有利と判断して示談することもないではありませんが、被害者がご自分で有利・不利をきちんと判断して交渉するのは困難な場合もありますので、保険会社から示談案が提示された場合には、慰謝料を含めた全体の損害額が適正に計算されているかどうか、弁護士に確認をしてもらった方が良いと思います。

 

 弁護士 平本丈之亮