遺産分割で弁護士に相談・依頼した方が良いケース

 

 遺産分割については、必ずしも弁護士に依頼する必要はなく、多くの場合、相続人の間で円満には話し合いがなされて解決しています。

 しかし、遺産分割は限られた遺産を分けるものであるため本来相続人間の利害が対立する関係にあり、生前の関係も相まってひとたびトラブルが生じると深刻化することがあります。

 そのため、紛争が起きる可能性があったり既に紛争が発生している場合には弁護士に相談や依頼をして紛争の予防・解決を図ることが望ましい場合がありますので、今回はその点についてお話ししたいと思います。

 

 【相続人同士の関係が疎遠な場合】 

 一口に相続人といってもその関係は様々であり、場合によっては疎遠なこともあります。

 関係が疎遠になる理由は色々ですが、被相続人が再婚していて以前の配偶者との間に子どもがいる場合や、二次相続・三次相続が発生して相続人の数が増えてしまった場合などが良くあるパターンです。

 このようなケースでは、相続人同士の信頼関係が乏しいため意見の相違が生じることがありますので、疎遠な親族と折衝する場合の注意点についてあらかじめ弁護士のアドバイスを受けることが有益であり、また、直接疎遠な相続人に働きかけるのではなく弁護士をクッションとして挟むことによって余計な軋轢を避けることができ、利害調整の過程で生じる精神的ストレスを軽減できるメリットがあります。

 

 【相続人の間で遺産の分割を巡って意見の対立が起きそうな場合】 

 このパターンでは未だ紛争が生じているわけではないものの、今後、協議の段階で紛争化する可能性が具体的に予想されているという場合ですので、あらかじめどのような点が問題となるかを弁護士と検討したうえで協議に臨むことによって、紛争化を避けたり深刻化を防止することが期待できます。

 

 【相続人の間で既に遺産の分割を巡って意見の対立が起きている場合】 

 このケースではもはや相続人間で円満に分割協議を成立させることが困難であり、法的知識を駆使して相手と折衝したり調停や審判を見据えた対応が必要となりますので、弁護士に相談や依頼をすることが有益です。

 ただし、弁護士に依頼せず直接自分で協議を進めたり調停を申し立てる方もいらっしゃいますので、最終的に依頼するかどうかはご本人の時間的余裕や遺産規模などの諸事情を勘案して決めていただくことになります。

 

 【被相続人の財産を管理していた者のお金の使い方に疑問がある場合】 

 高齢の親の面倒を見ていた相続人がいる場合で良く見られるパターンですが、使途不明金の問題を遺産分割の内容に反映させることは難易度が高く、この点を巡って協議や調停が難航する場合が後を絶ちません。

 使途不明金の問題は、本来、現存する遺産の分割とは別個の問題であり、相続人間で折り合いがつかない場合には裁判手続によって解決すべき問題ですが、遺産分割の協議や調停の枠内でどこまでこの問題を扱うべきかといった点や、仮に訴訟を提起した場合にどの程度認められる可能性があるのかといった点について専門的な判断が要求されるため、適切な見通しをもって進めていかなければ最終的な解決までに長期間を要することになります。

 そのため、このような使途不明金問題がある場合には、弁護士への相談や依頼を検討していただいた方が良いと考えます。

 

 遺産分割は相続人間の利害調整が必要であり、事案によっては大きなストレスとなる場合がありますので、上記のようなケースでお困りのときは一度弁護士へのご相談を検討していただければと思います。

 

弁護士 平本 丈之亮

 

2020年7月9日 | カテゴリー : コラム, 相続 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

相続人の一部が行方不明の場合、どうやって遺産分割するのか?

 

 相続のご相談を受けていると一定の割合で発生するのが、相続人の一部に行方不明者がいるという問題ですが、今回は相続人の一部が見つからないという場合、どうやって遺産分割を進めるのかをお話ししたいと思います。

 

遺産分割は相続人全員でしなければならない

 まず、遺産分割は相続人全員が関与しなければならず、一部の相続人を除いた形での遺産分割はできないという原則を押さえていただきたいと思います。

 不動産の名義変更や預金の払い戻しなど、対外的に遺産を移すためには相続人の印鑑証明の提出や署名などの手続が必要であるため、相続人の一部が行方不明の場合には手続が進められません。

 

相続人を捜索する方法

 そのため、遺産分割をするためには、どこに住んでいるか分からない相続人を探し出すことからスタートしなければなりません。

 

戸籍の附票で捜索する方法

 この場合、一般的な方法は、亡くなった方の戸籍関係書類を取得して相続人が誰であるか確定した上で、各相続人の戸籍の附票を取り寄せることによって住所を捜索するというものです。

 

弁護士会照会を使って捜索する方法

 もっとも、住民票をきちんと移転していない場合だと、戸籍の附票を辿っても住所地にたどり着けないこともあります。

 この場合には一般の方が行方を調べるのは難しくなりますが、弁護士へ依頼した場合には「弁護士会照会」という方法によって所在が判明することがあります。

 弁護士会照会とは、受任事件を処理するために必要な場合、弁護士が所属する弁護士会に対して申出をすることにより、公務所その他公私の団体に必要な事項の報告を求める制度です。

 この方法によって相続人を捜索する場合、たとえば以下のような照会先に弁護士会照会をかけることで相続人の所在が判明することがあります。

 

 ①電話番号が分かっている場合 

→通信会社に住所地を照会する

 

 ②免許をもっている可能性がある場合 

→最後の住所地を管轄する警察の運転免許本部や公安委員会に免許更新時の住所地を照会する

 

 ①は住所地捜索の方法として良く使われますし、②についても実際に当職が照会をかけたところ相続人の所在が判明し、遺産分割協議を成立させることができたことがあります。

 

不在者財産管理人の選任

 このような方法を駆使しても相続人の所在が掴めない場合、裁判所に対して「不在者財産管理人」の選任を申し立て、選任された不在者財産管理人を相続人の代わりとして協議をすることになります(失踪宣告という方法もありますが時間がかかりますので、不在者財産管理人選任を使うケースの方が多いかもしれません)。

 

 【注意点① 法定相続分は確保する必要がある】 

 もっとも、ここで注意が必要なのは、不在者財産管理人は、あくまで不在者(=行方不明の相続人)のために選任されるという点です。

 不在者財産管理人は不在者の利益を図ることを任務としており、遺産分割の相手になるというのはあくまで副次的なものであるため、遺産分割を行うには不在者の権利を確保する必要があります。

 そのため、不在者財産管理人を選任して遺産分割を行う場合には、法定相続分以上の遺産を確保する必要があるため、その点の準備ができてから申立をするのが無難です。

 

 【注意点② 高額の予納金が必要になる場合がある】 

 また、不在者財産管理人は、通常、弁護士等の専門職が選任されるため、その者の報酬を確保するために数十万円の予納金を裁判所に納める必要があります。

 予納金は遺産規模や想定される管理業務によって異なり、ケースによってはかなりの額になることがありますので、このような負担が生じる可能性も考慮しておく必要があります。

 

早めに遺産分割をすることが有効

 以上のように、相続人の一部が行方不明でも最終的には遺産分割はできますが、それを実現するために生じるコストが非常に大変になる場合があります。

 このような事態に至る理由は様々ですが、相談を受けていると、最初の相続が発生した後、遺産分割を放置してしまったために途中で相続人が死亡して二次相続、三次相続が発生し、これが繰り返された結果、行方不明者が生じるというケースが散見されます。 

 二次相続、三次相続が発生していくと、相続人が誰であるかを把握すること自体が難しくなり、遺産分割協議を弁護士に依頼しなければならなくなったり、今回お話ししたとおり行方不明者の捜索のために多大なコストを払わなければならないなど不利益が大きくなりますので、相続が発生したら早期に処理するのが肝要です。

 

弁護士 平本丈之亮

 

 

 

 

2020年6月25日 | カテゴリー : コラム, 相続 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

遺産分割の前に預金を引き出すことはできるのか?~遺産相続③~

 

 遺産分割のご相談をお受けする中で、亡くなった方の相続手続(遺産分割)はまだ先になりそうだが、当面の対応のために預金を下ろしたいというお話があります。

 このような場合、以前であれば、各相続人はそれぞれの法定相続分に応じて単独で金融機関に支払いを求める裁判を起こすことができましたが、最高裁によって、預金については相続人全員の合意がない限り下ろすことができないという判断がなされましたので、以前のような方法はとれなくなりました。

 もっとも、遺産分割は終了するまで時間がかかることが多く、他方、葬儀費用や当面の支払いなどを行うために一定額を引き出したいというニーズがあるのも事実ですので、この点に対処するため、法改正によって以下のような手段を講じることができるようになりました。

 

遺産分割前の相続預金の払い戻しの制度(民法909条の2)

 各相続人は、【相続開始時点の各口座の預貯金額の3分の1×法定相続分】(かつ、1金融機関ごとに合計150万円)の限度で、直接、金融機関に対して支払いを請求することができます。

 この制度は、あくまで金融機関に対して直接支払いを請求するというものであり、裁判所に対する申立など特別な手続は不要なため、少額のケースであれば使い勝手は良いと思います。

 この制度を利用して預金を払い戻しをした場合、払い戻した金額は遺産の一部分割によって取得したものとみなされ、最終的な遺産分割の時点でその分が控除されることになります。

 なお、この制度は、令和元年7月1日から施行されていますが、7月1日以前に相続が開始した場合でも利用することができるとされています。

 

 【払い戻しすぎに注意】 

 上記のとおり、払い戻しの限度額は法定相続分を基準に決められていますので、生前贈与などの特別受益や他の相続人の寄与分によって、実は払戻した額がもらいすぎだったことが判明した場合、後日、その超過分を他の相続人に返還しなければならなくなりますので、払戻額については慎重に考える必要があります。 

 

仮分割仮処分(家事事件手続法200条3項)

 この制度は、家庭裁判所に遺産分割の調停・審判の申立をしているケースで、裁判所に払い戻しを認める審判を申し立て、裁判所の審判を得た上で払い戻すというものです。

 裁判所が関与するため、さきほどの制度と異なり上限について具体的な決まりはありませんが、その代わり以下の条件を満たす必要があります。

 

 ①遺産分割の調停・審判の申立がされていること 

 

 ②亡くなった人の生前の債務の支払いや相続人自身の生活費の支払いなど、遺産に属する預貯金を払い戻す必要性があること 

 

 ③他の相続人の利益を害さないこと 

 

 ④相続人全員の意見を聞くこと 

 

 正式な遺産分割前に預金を払い戻しする必要性があり、かつ、他の相続人の利益を害さないこと、という絞りがかけられている分、条件は厳しめになっていますが、150万円を超える金額を払い戻す必要があるケースでは検討する価値のある方法です(この改正がなされるまでは、②の条件について「急迫の危険」を避ける必要があるとき、という厳格な条件があり使い勝手が良くなかったため、条件が一部緩和されたものです)。

 

 以上のとおり、相続預金についてはこれまでの取り扱いからの変更がありますので、相続預金の払い戻しが必要な場合にはご注意いただければと思います。

 

弁護士 平本丈之亮

2019年9月6日 | カテゴリー : コラム, 相続 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

相続法の改正について・その3~自筆証書遺言の方式の緩和・遺言書保管制度~

 

 相続法の改正に関するコラムも3回目ですが、今回で最後となります。

 今回取り上げるのは、自筆証書遺言に関する改正です。

 


 第1回(相続法の改正について・その1~配偶者(短期)居住権

 第2回(相続法の改正について・その2~親族の特別の寄与制度 


 

自筆証書遺言の方式の緩和(財産目録の代書など)

 これまでの自筆証書遺言は、「自筆」とあるとおり、遺言書の全文・日付・氏名を自分で書いて印鑑を押す必要があり、代書やパソコンで遺産の目録を作成することも認められていませんでした。

 しかし、このような取り扱いだと、遺産がいくつもある場合に目録を作るのが大変であり、遺言書を作成したいという人のニーズに必ずしも応えられていない部分がありました。

 そこで、今回の改正によって自筆証書遺言の方式が一部緩和されることになりました。

 

 具体的には、財産目録について自筆が不要となり、目録をパソコンによって作成することや代書も良いことになったほか、目録を作る代わりに、不動産の全部事項証明書(いわゆる登記簿謄本)や通帳のコピーを遺言書に添付しても良いことになりました。

 なお、代書やパソコン作成などが可能となるのはあくまで遺産の目録だけであり、それ以外の部分(本文・日付・氏名)はこれまでと同じく自署が必要ですので、遺言書のすべてを代書やパソコンで作ることはできません(体力の衰えなどによって自署できないケースでは、これまでどおり公正証書遺言が適しているといえます)。

 また、このような取り扱いを認めると、以前よりも遺言書の偽造の危険が高まりますので、そのようなことが起きないよう、遺産目録や添付した通帳などの各ページにはそれぞれ自署と押印が必要とされています。

 

自筆証書遺言の保管制度

 自筆証書遺言は、自分で作ることができ費用もかからないため、公正証書遺言と比べて作りやすいタイプの遺言です。

 しかし、作りやすい反面、公正証書遺言に比べ、紛失したり、相続人の一部によって隠されたり破棄されてしまう危険性も高く、作成した遺言書をどのように保管するかについては課題がありました。

 これまでは、自宅で保管する方法以外にも、たとえば遺言書を信頼できる推定相続人に託したり、金融機関の貸金庫に保管しておくという対応がなされていましたが、今回、このような方法に加えて、自筆証書遺言を法務局に保管してもらえるという制度ができました(法務局における遺言書の保管等に関する法律)。 

 この制度は、法務局内に設置される「遺言書保管所」に本人が来所し、保管の申請をすることによって利用することができますが、この制度を利用した場合の特徴は以下のとおりです。

 

 1 家庭裁判所の検認手続が不要となる 

 この制度を利用していない自筆証書遺言は、これまでどおり家裁での検認が必要ですので、この制度を利用すると、相続発生後の手続が少し軽くなります。

 

 2 遺言者の死亡後、相続人(や受遺者)が全国の遺言書保管所において、遺言書が保管されているかどうか調べること(遺言書保管事実証明書の交付請求)、遺言書の写しを請求すること(遺言書情報証明書の交付請求)、遺言書の閲覧を請求することができる 

 これにより、遺言書の存在や内容が不明になるリスクがある、という自筆証書遺言の弱点をカバーすることができます。

 

 なお、遺言書の保管申請や閲覧請求、遺言書保管事実証明書・遺言書情報証明書の交付請求にはそれぞれ手数料が必要ですが、具体的な金額は以下の通りです(2020年7月9日追記)。

 

手数料一覧

①遺言書の保管申請        3,900円/1件

②遺言書の閲覧請求(モニター)  1,400円/1回

③遺言書の閲覧請求(原本)    1,700円/1回

④遺言者情報証明書の交付請求   1,400円/1通

⑤遺言書保管事実証明書の交付請求   800円/1通

⑥申請書等・撤回書等の閲覧請求  1,700円/書類の通数

 

遺言書保管所一覧(岩手県)

盛岡地方法務局本局

同宮古支局

同水沢支局

同花巻支局

同二戸支局

 

施行日

 自筆証書遺言の方式の緩和は、2019年1月13日から施行されています。

 遺言書の保管制度については、2020年7月10日からのスタートです。

 

弁護士 平本 丈之亮

 

 

 

 

 

 

2019年3月14日 | カテゴリー : コラム, 相続 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

相続法の改正について・その2~親族の特別の寄与制度~

 

 前回(「相続法の改正について・その1~配偶者(短期)居住権」)に引き続き、今回も相続法の改正についてお話していきます。

 今回取り上げるのは、親族の特別の寄与制度(改正民法第1050条)についてのお話です。

 

<親族の特別の寄与制度とは?>

 この制度は、相続人以外の親族が、亡くなった方(被相続人)に対して無償で療養看護などの特別の貢献をし、そのことによって遺産が維持されたり増えたような場合に、「特別寄与料」を請求することを認める制度です。

 

<要件①~親族(相続人などを除く)>

 この制度の対象となるのは、相続人(・相続放棄者・相続欠格者・排除者)以外の、被相続人の「親族」(=6親等内の血族・配偶者・三親等内の姻族(民法752条))です。

 相続欠格者や排除者などはレアケースだと思いますので通常は相続人以外の親族が対象ということになりますが、具体的には以下のような場合が想定されています。

 

例1 被相続人=義理の母親 特別寄与者=長男の妻 

 長男である夫の死亡後、長男の妻が義理の母親の面倒を見ていたケース(夫が義母より先に亡くなると、妻は義母の相続について相続権がない)

 

例2 被相続人=兄 特別寄与者=妹

 兄には妻子がいたが折り合いが悪かったので別居しており、代わりに妹が兄の面倒を見ていたケース(兄の相続人は妻子のため、妹は兄の相続について相続権がない)

 

例3 被相続人=義理の父親 特別寄与者=妻の連れ子

 義理の父親が母と結婚したが、母の連れ子とは養子縁組していなかったところ、母の死後に連れ子が義理の父親の面倒を見ていたケース(母の連れ子には義理の父親の相続権はない)

 

【内縁の妻は対象外】

 また、法律で「親族」の範囲が決まっているため、内縁の妻が内縁の夫の母親の看病をしていた場合にはこの制度の対象にはなりません。

 

<要件②~療養看護その他の労務を提供したこと>

 特別寄与料が認められるには、被相続人のために療養看護その他「労務を提供したこと」が必要です。

 労務の提供が必要ですので、金銭的に援助した場合は対象になりません(この点で、相続人自身の「寄与分」の制度とは異なります)。

 

<要件③~無償であること>

 労務の提供は「無償」であることが必要です。

 したがって、面倒を見る代わりに金銭的な対価を得ていた場合(生活費を負担してもらっていた場合など)や、被相続人の所有する建物に住まわせてもらっていたなどの場合には対象にならない可能性があります。

 

<要件④~財産の維持又は増加に「特別の寄与」をしたこと>

 「特別の寄与」、すなわち、親族間で通常期待される程度を超える貢献をしたことが必要であり、ここでいう「特別」とは、貢献の程度が一定程度を越えることを意味するとされていますが、どの程度のことをすれば特別の寄与をしたことになるかは現時点では何とも言えないところです。

 また、たとえ無償で労務を提供していたとしても、財産の維持・増加に寄与したとはいえない場合には、この制度による特別寄与料の請求はできないことにも注意が必要です(たとえば、交通事故で死亡し、多額の賠償金が支払われた場合などが考えられます)。

 

<特別寄与料は誰にどうやって請求するのか?>

 特別寄与料は、相続人に対して請求できる権利ですが、それぞれの相続人に対しては、法定相続分(あるいは指定相続分)の割合で請求することができます。

 具体的な請求方法について、法律では、まずは相続人と話し合いをすることとしていますが、折り合いがつかないときやそもそも話し合いができないときは、家庭裁判所に協議に代わる処分を求める審判の申立をすることができ、家庭裁判所に金額を決めてもらうことができます。

 なお、この申立は、遺産分割と同時に行う必要はありません(遺産分割の審判が係属しているときに、裁判所の裁量で遺産分割と同時進行とされる場合はあると思いますが、あくまで遺産分割とは別の問題です)。

 

<特別寄与料には上限がある>

 特別寄与料は無制限に認められるものではなく、【相続開始時の遺産額-遺贈の額】が上限となっています。

 したがって、たとえば相続開始時の遺産が全体で1000万円だったが、その中から700万円を誰かにあげるという遺言があった場合には、特別寄与料の上限は300万円となります。

 要するに、親族の特別寄与料よりも、被相続人の最後の意思である遺贈の方が優先されるということです。

 

<期間制限に注意>

 特別寄与料の請求は、①又は②のいずれかまでに家裁に申立をすることが必要ですが、期間が短いので注意を要します。

 

 ①相続開始及び相続人を知ったときから6ヶ月 

 ②相続開始から1年間

 

<施行時期>

 この改正については、2019年7月1日が施行日となっています。

 

弁護士 平本 丈之亮

 

2019年2月8日 | カテゴリー : コラム, 相続 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

相続法の改正について・その1~配偶者(短期)居住権~

 

 平成30年7月6日、相続に関する法律を改正する法律案が2つ成立しました(「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」・「法務局における遺言書の保管等に関する法律」)。

 この改正の内容は多岐にわたりますが、改正によって相続手続に大きな変更がありましたので、これから数回に分け、重要な改正についてご説明していきたいと思います。

 今回は、第1回目として、「配偶者居住権」と「配偶者短期居住権」についてご説明したいと思います。

 

配偶者居住権とは?

 配偶者居住権とは、夫や妻が亡くなったときに、配偶者である妻あるいは夫が被相続人所有の建物に住んでいた場合、その建物を無償で使うことができるという権利です(固定資産税など通常の経費は負担が必要です)。

 

 【どのような場合に権利が発生するのか?】 

 配偶者居住権が発生するケースは以下の場合とされています。

 

 ①遺産分割手続(協議・調停・審判) 

 ②遺贈・死因贈与 

 

 このように、配偶者居住権は相続の発生によって当然に取得できるというものではなく、被相続人の意思表示によるか(遺贈・死因贈与)、相続人との間の話し合い(協議・調停)、あるいは裁判所の判断(審判)が条件となっています。

 また、家裁での審判の場合は、①共同相続人がこの居住権を付与することについて合意している場合、②配偶者が居住権の取得を希望し、かつ、建物を取得することになる者の不利益を考慮してもなお配偶者の生活維持のため特に必要な場合のいずれかに限定されており、ハードルが高くなっています。

 

 【共有物件の場合は?】 

 建物が元々被相続人と第三者との共有だった場合には、第三者の負担が大きいため配偶者居住権は取得できません。

 これに対して、元々被相続人と配偶者の共有だった建物については、配偶者居住権を取得できる可能性があります。

 

 【配偶者居住権の財産評価について】 

 配偶者居住権は、財産的価値のある建物を無償で使用できる権利ですから、居住権自体に財産的価値があります。

 そのため、建物以外にも預金などの遺産があるケースであれば、居住権の価値を適正に評価して、居住権を得る配偶者と他の相続人との間が公平になるように分配内容を調整していくことが必要となります。

 また、土地建物以外にめぼしい財産がないケースでも、配偶者居住権を設定するのであれば、遺産としては、配偶者居住権、居住権の負担のついた建物所有権、そして敷地がありますから、相続人間での公平を保つためにはやはり居住権の評価が重要となります。

 もっとも、居住権は目に見えないものであることや、新しく創設された制度であるため、現時点で具体的な評価方法は確立されていません。そのため、将来的には居住権の財産価値を巡って紛争になることも予想され、弁護士としてはこの点が気になるところです。

 

配偶者短期居住権

 以上で説明したところは、あくまで遺産分割や遺言などによって配偶者が権利を取得するというお話でした。

 もっとも、遺産分割の手続が終わり建物の所有者が決まるまでの間、配偶者としては一体どこに住めばいいのか困るケースもあるでしょうし、遺贈などによって建物が配偶者以外の人に相続された場合には、配偶者に退去までの準備期間を与えて保護する必要があります。

 そこで、相続によって不安定な立場におかれる配偶者を保護するために新設されたのが配偶者短期居住権です。

 

 【どのような場合に発生するのか?】  

 配偶者短期居住権は、配偶者が、相続開始時に被相続人所有の建物に無償で住んでいた場合に、法律上当然に発生します。

 配偶者居住権のように、遺産分割手続や遺言の結果発生するわけではありません。

 

 【存続期間は?】 

 配偶者短期居住権は、先ほどの配偶者居住権と異なり、相続開始後のある程度の範囲に限り居住権を保護しようというものですので、その観点から期間制限が設けられています。

 配偶者短期居住権が発生するケースは、①遺産分割が必要な場合と、②遺産分割が不要な場合の2パターンがあり、いずれのパターンかによって存続期間が異なります。

 

 ・遺産分割が必要な場合 

 特に遺言などがなく、単純に建物について遺産分割手続をする場合です。 

 この場合、配偶者には、①と②のいずれか長い方まで居住権が認められます。

 

 ①遺産分割が成立するまで 

 ②相続開始から6ヶ月のいずれの期間まで 

 

 したがって、たとえば遺産分割協議が終了するまで1年かかれば、短期居住権は1年間となり、その間、配偶者は賃料を支払う必要はありません(固定資産税など通常の経費負担が必要なのは配偶者居住権と同じです)。

 また、遺産分割協議が3ヶ月で成立し、配偶者以外の相続人が建物を取得したとしても、配偶者は残り3ヶ月はその建物に無償で住み続けることができます。

 

 ・遺産分割が不要な場合 

 配偶者の住んでいた建物が、被相続人の遺言によって他の者に遺贈された場合が典型例です。

 この場合、配偶者は建物それ自体について権利を持ちません(遺留分を侵害するような遺贈だった場合、従前、遺留分を侵害された者は建物に対して一定の持分を取得するとされていましたが、改正法によって、このようなケースでも建物に対する権利が発生するのではなく、あくまで遺留分侵害額に相当する金銭の支払請求権が発生することになりました)。

 しかし、遺贈などによって突然住居を失うことになると配偶者にとって酷なことがあることから、この場合には、権利を取得した者から退去の申し入れがあったときから6ヶ月間、配偶者はその建物に居住することができます。

 

施行日

 この制度が施行されるのは、2020年4月1日からとなっています。

 

 

弁護士 平本丈之亮

 

 

 

2019年1月30日 | カテゴリー : コラム, 相続 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

遺産分割の登場人物~遺産相続②・法定相続人~

 

  弁護士の川上です。

 

 前回のコラム(「遺産は自由に分けられます!」)の中で、「相続人全員が合意できるのであれば、どのような分け方をしようとも自由なのです」とご説明しました。

 今回は、遺産をもらうことのできる相続人(そうぞくにん)とは誰なのかについてお話しします。

 

  1. 亡くなった人のことを「被相続人」(ひそうぞくにん)といいます。
  2. 被相続人の配偶者(夫、妻)は常に相続人となります。内縁の場合は「配偶者」にはあたらないので、相続の権利はありません。
  3. 被相続人に子がいる場合には、子が相続人となります(第1順位)。被相続人が再婚している場合、前の配偶者との間の子も相続人となります。また、子には養子も含まれますし、養子に出た実子も含まれます。
  4. 被相続人に子がいない場合には、被相続人の「直系尊属」(ちょっけいそんぞく)、すなわち父母や祖父母が相続人となります(第2順位)。
  5. 被相続人に子がいない場合で、更に直系尊属もいない場合には、被相続人の兄弟姉妹が相続人となります(第3順位)。
  6. なお、これら相続人となるべき人が被相続人よりも先に亡くなっている場合、「代襲相続」(だいしゅうそうぞく)といって、先に亡くなっている相続人の子が相続人となります。なお、兄弟姉妹が相続人となる場合の代襲相続は一代(甥、姪)に限り認められています。

 

 コラムという性質上、あまり細かな具体例まではお話できませんので、詳しくは当事務所までご相談ください。

 

2018年1月31日 | カテゴリー : コラム, 相続 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

遺産は自由に分けられます!~遺産相続①・遺産分割の基本~

 

 弁護士の川上です。

 

 最近、「高齢社会に合わせた相続制度の見直し」についての報道がありました。当事務所でお受けするご相談の中でも、遺産相続に関するご相談が相当の割合を占めています。今回は遺産相続の基本的な考え方についてお話しします。

 

 遺産相続というと、「妻が1/2、子が3人だから1/2を3で割ると1/6ずつ」の権利がある、といった「法定相続分」(ほうていそうぞくぶん)を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。

 法律で割合が決まっている以上、それに従わなければならないようにも思われますが、法定相続分はあくまでも遺産の分け方に関する話し合いがまとまらない場合の基準であり、相続人全員が合意できるのであれば、どのような分け方をしようとも自由なのです。

 たとえば、亡くなった父親が残した遺産が自宅の土地・建物だけで、二男夫婦が両親と同居しており、長男は県外に自宅を構え、今後戻ってくる予定はないといったケースで、母親と長男が相続の権利を主張せず、全て二男に相続させるということも良く行われています。

 この場合、母親は今後も二男夫婦にまかせることを考慮して権利を主張せず、長男は①二男がこれまで両親の面倒を見てくれたこと、②今後も母親の面倒を見てもらうこと、③自分が権利主張すると土地・建物を処分することにもなりかねず、帰省する実家がなくなってしまうおそれがあることなどを考慮し、権利を主張しないというわけです。

 

 なお、話し合いがまとまらない場合、基本的には法定相続分に従って分けることになりますが、法定相続分に従ったのでは不公平が生じる場合、それを修正する制度として「特別受益」(とくべつじゅえき)「寄与分」(きよぶん)があります。これらについても、追々ご説明して行きたいと思います。

 

2018年1月29日 | カテゴリー : コラム, 相続 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所