所有者が不明の土地建物を管理するための新たな制度について(所有者不明土地・建物管理制度)

 

 土地建物の所有者や共有者が不明の場合、その不動産の管理や売却、取得が難しくなります。

 

 このような場合、従来は所有者等が所在不明であれば不在者財産管理人を、所有者等が死亡して相続人がいるかどうか明らかでなければ相続財産管理人を裁判所に選任してもらい、管理人が土地建物の管理や処分を行ってきました。

 

 しかし、これらの制度は対象となる土地建物だけではなく人を単位とした制度であるためカバーする範囲が広く、管理期間の長期化や申立に必要な費用(予納金)の高額化といった問題があり、また、所有者等が誰であるかまったく特定できないと利用できないなど必ずしも使い勝手の良いものではありませんでした。

 

 そこで令和3年の民法改正により、管理対象を土地建物や敷地利用権・動産などに絞りこんだ新たな管理制度が設けられ、令和5年4月1日から施行されています。

 

所有者不明土地管理制度・所有者不明建物管理制度

 

 新たにできた管理制度では、所有者(共有者)が不明の土地建物(の共有持分)のほか、敷地利用権、土地建物にある所有者(共有者)の動産、対象財産の管理や処分などによって得られた金銭が管理の対象となります(改正民法第264条の2第2項、第264条の3第1項、第264条の8第2項、同第5項)。

 

 このように、この制度では管理対象が特定の土地建物に関連する財産に限られ、行方不明者の他の財産についての調査や管理は不要であるため、管理期間の短縮化や裁判所に納める予納金等の経済的負担が軽減されることが見込まれます。

 

管理人の権限

 

 この制度によって選任される所有者不明土地管理人・所有者不明建物管理人には、対象財産の保存行為のほか、対象財産の性質を変えない範囲内での利用行為・改良行為を行う権限が与えられ(改正民法第264条の3第2項)、第264条の8第5項)、対象財産に関する訴訟については管理人自身が原告又は被告として手続を行います(不法占拠者に対する明渡請求訴訟など。第264条の4、第264条の8第5項)。

 

 また、裁判所の許可は必要ですが、対象財産を売却したり建物を解体したりすることも可能です(改正民法第263条の3第2項、第264条の8第5項 )。

 

利用の条件

 

①利害関係の存在

この制度の申立をするには申立人に利害関係があることが必要となりますが、一般的には以下のような関係があれば利害関係が認められると思われます。

 

・公共事業の実施者など不動産の利用・取得を希望する者

・共有不動産の他の共有者

 

なお、国や地方公共団体の長については、特例で所有者不明土地・建物管理人の選任について申立権限が与えられています(所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法第42条2項、同5項)。

②所有者・共有者を知ることができないか、その所在を知ることができないこと

この条件をみたすには、登記簿のほか、住民票や戸籍、法人であれば商業登記簿上の事務所などを調査する必要がありますが、所有者の所在が不明な場合だけではなく、そもそも誰が所有者であるかを特定することができない場合でも利用は可能です。

③管理状況等に照らして管理の必要性があること

管理の必要性はケースバイケースですが、公共事業の実施のために不動産の取得を希望したり、行方不明者所有の建物が老朽化して危険であるため解体が必要な場合などが考えられます。

④対象が区分所有建物ではないこと

マンションなどの区分所有建物の専有部分と共用部分はこの制度の対象外となっています(建物の区分所有等に関する法律第6条第4項)。

 

手続の流れ

 

①管理命令の申立

【管轄】

対象となる土地建物の所在地を管轄する地方裁判所(改正非訟事件手続法第90条1項)

 

【収入印紙】

1,000円×申立ての対象となる土地・建物(共有持分の場合はその持分)の筆数

 

【切手】

6,000円

 

【予納金】

収入印紙・切手のほかに、管理費用や管理人報酬のための費用として、裁判所が命じる予納金を納める必要があります。

 

※東京地裁HPより

②異議届出期間等の公告

所有者の保護のため、裁判所はこの制度の申立があったことや、異議があるときは一定期間内に届出をすべきこと、届出がないときは管理命令が発令されることを公告します(改正非訟事件手続法第90条2項、同16項)。

 

この異議申出期間は1か月を下ることができないとされています(同上)。

③異議届出期間の経過

裁判所は、この異議届出期間が経過しないと管理命令を発令することができません(非訟事件手続法第90条2項、同16項)。

④管理命令の発令と管理人の選任

管理命令を発令する場合、裁判所は必ず管理人を選任しなければなりません(改正民法第264条の2第4項、第264条の8第4項)。

 

誰を所有者不明土地(建物)管理人に選任するかは裁判所が決めますが、事案に応じて弁護士や司法書士、土地家屋調査士などが選任されることが想定されます。

⑤嘱託登記

管理命令が発令されると、裁判所書記官は職権で対象不動産やその共有持分に対する管理命令の登記を嘱託します(改正非訟事件手続法第90条6項、同16項)。

⑥(処分する場合)裁判所の許可・供託・公告

管理命令の対象財産を処分する場合、管理人は裁判所から許可を得る必要があります(改正民法第264条の3第2項、第264条の8第5項)。

 

対象財産の管理や処分などによって金銭が生じた場合、管理人はその金銭を供託することができますが、供託したときはその旨を公告する必要があります(改正非訟事件手続法第90条8項、同16項)。

 

法律上は「供託することができる」とされているため供託は義務ではありませんが、不動産の売却後に金銭を預かったままでは管理業務が終了しませんので、通常は供託することになるのではないかと思います(私見)。

 

所有者不明土地建物の適切な管理や処分の促進に資する制度

 

 この制度の活用方法として想定されるのは不動産の維持管理や裁判所の許可を条件とした売却・解体であり、それ自体は従来の管理制度とさほど変わりません。

 

 もっとも、従来のような人を単位とした管理ではなく財産を単位とした管理であるため時間やコストの面で利用しやすくなると思われることから、今後、この制度の活用によって所有者不明の不動産の管理が適切になされ、また、処分の円滑化も進むのではないかと期待しています。

 

弁護士 平本丈之亮