過去の未払婚姻費用を計算する場合、改訂前と改訂後、どちらの算定表を使用するのか?

 

 婚姻費用と養育費については、令和元年12月23日に算定表が改訂され、それ以降は改訂後の算定表によって婚姻費用や養育費が計算されています。

 

 ところで、改訂前の算定表と改訂後の算定表を比べると、改訂後の算定表を使用した方が金額が高くなる傾向がありますが、過去の未払婚姻費用を計算する際にその計算期間が算定表の改訂時期を跨いでいた場合、改定前の期間の婚姻費用はどちらの算定表を使用することになるのでしょうか?

 

 今回は、この点について判断した裁判例をひとつ紹介したいと思います。

 

宇都宮家裁令和2年11月30日審判

「改定標準算定方式及び改定算定表は、前記のとおり、税制等の法改正や生活保護基準の改定等を踏まえて、現状の社会実態を反映させたものであるところ、公租公課に関する税率及び保険料率については、平成30年7月時点のもの、職業費に関する統計資料としては、標準算定方式及び算定表の提案当時の資料に相当する資料のうち平成25年から平成29年までの平均値を用いたもの、特別経費に関する統計資料についても、職業費と同様に平成25年から平成29年までの平均値を用いたもの、ならびに生活費指数の算出のための生活保護基準及び学校教育費に関する統計資料については、基本的には平成25年度から平成29年度までのもの(ただし、学校教育費のうち子が15歳以上の区分については、平成26年度から平成29年度までのもの)をそれぞれ用いるなどして算出した結果を取りまとめたものである(前記司法研究報告書参照)。
 以上によれば、改定標準算定方式及び改定算定表は、本件において未払の婚姻費用を算定するに際しても、当時の社会実態を踏まえて、これを反映させた考え方であるといえ、十分な合理性を有するものと認められる。
 したがって、本件婚姻費用分担額を算定するに当たっては、未払分を含めて、改定標準算定方式及び改定算定表を用いるのが相当である。」

 上記裁判例では、改訂算定表のもとになった統計資料中、公租公課に関する税率や保険料率が平成30年7月時点のものを使用していることや、職業費・特別経費・生活保護基準・学校教育費に関しては基本的に平成25~29年度までのもの(学校教育費のうち子が15歳以上の部分は平成26~29年度までのもの)を利用していることなどから、算定表改訂前の期間にかかる未払婚姻費用(令和元年8月~11月分)についても、そのまま改訂後の算定表を使用するという判断をしています。

 

 この裁判例とは異なり、算定表の改訂前後で適用すべき算定表を変えるという考え方もあり得るところですが、そもそも婚姻費用は請求の意思を明確にした時点以降について認めるというのが裁判所の傾向であることからすると、いずれの見解をとるにせよ、今後、純粋な婚姻費用の計算においてこの点が問題となることはなくなっていくように思われます。

 

 なお、過去の婚姻費用は、財産分与の場面でも問題となることがあり、過去に婚姻費用の未払いがある場合、未払分を考慮して財産分与額が決められる場合があります。

 

 財産分与においてどこまでの期間の未払分を清算の対象とするか、あるいは未払分のうちどの程度の割合を清算の対象にするかは裁判所の裁量ですが、このように財産分与を決める際の材料として過去の未払婚姻費用が考慮される場合があることからすれば、事案によっては財産分与額を決定する際、どちらの算定表を参照して過去の婚姻費用を計算すべきかを巡り争いになる可能性もありますので、財産分与で過去の婚姻費用が問題となったときはこの点を意識しておくのも良いかもしれません。

 

弁護士 平本丈之亮