お金を貸す際にどのような条件とするかは原則として当事者の自由ですが、その条件があまりにも行き過ぎているときは公序良俗に反して契約が無効と判断されることがあります(民法90条)。
金銭消費貸借契約が公序良俗に反して無効と判断される典型的なケースは超高金利での貸付ですが、今回は金銭の貸付条件と男女関係が結びついたケース(東京簡裁令和4年6月29日判決)を紹介します。
事案の概要
このケースは男性(貸主)から女性(借主・既婚)に貸付が行われたものですが、特徴的なのは貸付条件であり、返済が終了するまでの間、月に数回、貸主と性的行為を伴うデートを行うことを条件に貸付利率を年利0.001%とし、この条件が守られなかった場合は金利を上げるといった約束がなされた点です。
東京簡裁令和4年6月29日判決
その後、貸主は支払督促を申し立て、これに対して借主側が督促異議を申し立てたため裁判手続に移行しましたが、裁判所は以下のとおり貸主の請求を認めませんでした。
判決の要旨
【貸金契約の目的】
・原告(=貸主)は「月に数回会ってデートをする約束」があるため金利(利息)が低額に抑えられていると説明し、デートが約束どおり履行されない場合は金利(利息)が上がることの了解を契約内容としている。
原告が当初からこの行為を求めることを意図して契約を締結したことは明らかであり、原告の被告に対する説明や実際に原告が求めた行為は性道徳に反するものとして公序良俗に反する。
【利息契約の内容】
・借用書によれば利息は年0.001%であり、被告において約束どおりのデートが行われない場合は金利が上がることが定められている。
・原告は被告との口論の中で利子を上げ100%にしたい旨をLINEの会話で被告に宣言したと主張し、督促異議後の口頭弁論において貸金元金とこれに対する利息(=元金と同額)を追加する訴えの変更をしており、宣言したとおり100%の利息を請求したことになる。
・原告には「月に数回会ってデートをする」との約束が履行がされなかったときは元本と同額の利息を請求する意思があったと認められるが、本件の利息契約は性道徳に反するものとして公序良俗に反する。
・さらに原告は、元金に対する11日分の利息として元金と同額の利息を請求しており、これを年利計算すると年利3318%(出資法5条の4第1項では貸付期間が15日未満のときは15日として計算されるためこれをもとに計算すると年利2433%)となるが、これは利息制限法に大幅に抵触するだけでなく出資法5条1項にも大幅に抵触しており極めて違法性が高い。
【結論】
契約書に記載されたデートの約束は金銭消費貸借契約の付随的内容であるが、上記各事実を総合的に考慮すれば、公序良俗に反すると判断した貸金契約の目的及び利息の内容は本件契約においては核心的内容であって本質的要素であるとみられる。
請求棄却
性的行為を条件とした融資契約は俗に「ひととき融資」などと呼ばれていますが、このような取引については出資法や貸金業法に違反する違法行為として刑事処罰されたケースもあります。
今回ご紹介した判決はお金の請求という民事の場面における判断ですが、貸主に利益を与えることの不当性は明らかであり、本判決が民事においても違法性があることを明快に判断したことには大きな意味があると思われます。
弁護士 平本丈之亮