会社法では、取締役を含む役員(取締役、会計参与、監査役)や会計監査人は、いつでも株主総会の決議によって解任できるとされています(会社法339条1項)。
もっとも、このような自由な解任権を会社に与えることは、他方で取締役を含む役員等の任期に対する期待を害することにも繋がります。
そこで、会社法は、会社の解任権と役員等の利益の調和を図るため、「正当な理由」のない解任がなされた場合、会社法339条2項によって役員等が会社に対して損害賠償を請求することができるとしています。
請求できる損害の範囲は?
【役員報酬】
会社法339条2項における損害として典型的なものは、解任されなければ得られていたはずの残存任期分の役員報酬相当額です。
【退職慰労金など】
これに対して、たとえば退職慰労金や役員賞与については、全てのケースで必ず支給されるというものではないことから、支払いを受ける可能性が高い場合に損害に含まれます。
たとえば東京地裁平成27年6月22日判決は、定款に役員の退職慰労金について具体的な金額が定められていないことから、役員に対する退職慰労金は株主総会決議がなされた時以降に具体的な請求権として発生するものであるとして、退職慰労金は損害に含まれないと判断しています。
他方、東京地裁平成29年1月26日判決では、一人株主の了解を得て退職一時金の金額が具体的に決まっていたケースにおいて、退職一時金が損害に含まれるものと判断しています。
【弁護士費用】
会社に対して損害賠償を請求する際に生じる弁護士費用相当額については、会社法339条2項が解任がなければ得られたであろう利益の喪失を填補するものであるという趣旨に鑑み、「「解任がなければ当該役員が残存任期中及び任期終了時に得ていたであろう利益の喪失による損害」には含まれず、同項による補償の対象には含まれないと解するのが相当である。」と判示した裁判例があります(東京地裁平成29年1月26日判決)。
「正当な理由」があれば損害賠償責任は負わない
以上のような役員等からの請求に対して、同条項では、取締役等の解任に「正当な理由」がある場合、会社は損害賠償責任を負わないと規定しています。
ここでいう「正当な理由」の意味については、たとえば東京地裁令和2年3月2日判決では、「役員等に、職務執行上の法令定款違反行為があった場合、心身の故障のため職務執行に支障がある場合又は職務への著しい不適任となるべき事情がある場合等、株式会社が役員等に対し取締役としての責務の遂行を期待することが客観的に難しい状況がある場合をいう」とされています。
これをおおまかに分類すると、一般的には以下のような事由がこれにあたると考えられますが、このうち①のような比較的明確な事由以外は、具体的にどのような事情があれば「正当な理由」があるといえるかが事案によってケースバイケースであるため、実際に問題が生じたときは解任に至った具体的な事実関係が非常に重要となります。
①職務遂行上の不正行為や法令・定款違反行為 ②心身の故障 ③職務への著しい不適任(著しい能力の欠如) ④独断的な職務遂行 (⑤経営判断の失敗(争いあり)) なお、このような「正当な理由」は、取締役等を解任する会社がその存在を立証する必要があります。 以上のように、会社が任期途中で取締役等を解任した場合、後日、損害賠償請求を受ける可能性がありますので、会社が解任を検討するときは、訴訟に耐えうるだけの材料を質・量ともに揃えられるかどうかを事前に必ず検討し、危ういときは任期満了まで待つことも必要な対応となります。 これに対して解任された側としては、解任に「正当な理由」がないと考えるときは損害賠償請求をするかどうかを検討することになりますが、上記の通り「正当な理由」の判断は難しいところですので、必要に応じて弁護士へのご相談をお勧めします。 弁護士 平本丈之亮 【「正当な理由」は会社が立証する必要がある】