離婚した場合、夫婦は互いに扶養義務を負わなくなるため、原則として離婚後は生活費の支払いをする必要はありませんが、離婚の際の条件として、夫婦共有財産の清算や慰謝料、養育費といったものとは別に、相手方の離婚後の生活保障(=扶養的財産分与)として、一定期間、金銭を支払い続ける旨(定期金)を合意することがあります。
しかしながら、当初、このような定期金の合意をしても、事後的に事情の変更が生じ、合意した金額や支払期間を少なくしたいというニーズが生じることがあります。
では、扶養的財産分与として定期金の合意をした後、当初の合意内容の変更を求めることはできるのでしょうか?
民法880条の類推適用
扶養的財産分与に基づく定期金は、上記の通り本来の扶養義務に基づくものではありません。
しかし、上記のような合意をした後、それを維持することが当事者の衡平を欠くといえるような事情の変更を生じたときは、民法880条の類推適用によって扶養的財産分与に基づく定期金の合意の変更や取消が認められる可能性があります(東京高裁平成30年8月31日決定参照)。
具体的にどのような場合に変更を求められるかについては、上記裁判例では「それを維持することが当事者の衡平を欠くといえるような事情の変更を生じたとき」としか判示されていないため、事案に応じてケースバイケースというほかはありませんが、婚姻費用や養育費の増減額請求の場合には合意当時予測可能であった事情は変更理由にならないとされていますし、軽微な収入変動等で安易に変更を認めると離婚後の生活保障という扶養的財産分与の本来の趣旨が没却されるため、ハードルは相応に高いものと思われます。
他方、扶養的財産分与の趣旨が離婚後の生活保障であることに鑑みると、たとえば権利者が定期金の支払期間中に再婚し、再婚相手の収入によって安定的な生活を送ることができるようになった場合であったり、合意当時の予想に反し、権利者が相当額の収入を得られるようになった場合であれば、事情変更があったとして当初の合意内容が変更される可能性があるように思われます(私見)。
離婚の条件として、一定期間の生活費の支払いを合意するケースはそれなりにありますが、今回ご説明したとおり定期金の合意をした場合でも事後的な事情の変更によって変更される可能性があります。
事情変更が認められるかどうかは義務者側に生じた事情の内容やその事情による義務者の生活への影響の程度、権利者側の保護の必要性など様々な事情を総合的に検討する必要があると思われますので、事情変更による変更を求めたい場合、あるいは変更を求められた場合には弁護士への相談をお勧めします。
弁護士 平本丈之亮