離婚調停に弁護士は必要か?

 

 離婚調停を考えている方や相手方から離婚調停を申し立てられた方からのご相談の際によく聞かれるのが、弁護士を頼んだ方がよいかというものです。

 

 そこで今回は、離婚調停と弁護士への依頼をテーマにお話してみたいと思います。

 

絶対に必要ということはない

 離婚調停は当事者だけで手続を進められるように書類の書き方や裁判所での受付体制が整っていますし、実際にご自分で対応して解決されている方も多くいらっしゃいますので、どのような場合でも弁護士が必要というわけではありません。

 

 そのため、離婚調停に弁護士が必要かというご質問を受けた場合には、弁護士をつけずに離婚調停を行っている方も多いこと、要所要所で弁護士からアドバイスを受けながら離婚調停そのものはご自分で対応されている方もいらっしゃること、をお伝えするようにしています。

 

弁護士への依頼が有効なケースもある

 もっとも、たとえば以下のよう場合においては弁護士への依頼が有効と思われますので、依頼を検討されても良いと考えます。

 

協議すべき事柄が多岐にわたる場合

 

 養育費、慰謝料、財産分与、年金分割など協議事項が多い場合については、調停委員の力量に左右される部分もあるため弁護士が必須とまではいえないものの、そもそも話し合うべき事柄が多いため、お互いの言い分や必要な資料を整理して提出するだけでかなりの時間を費やすことがあります。

 

 調停期日は基本的に1~1ヶ月半に1回程度しか入りませんので、具体的な話し合いに入る前の準備だけで期日が繰り返されて解決が遅くなることがあり、当初から弁護士が関与して、うまく交通整理しながら手続を進めることで無駄な時間を減らせる可能性があります。

 

親権について争いがある事案

 

 この場合はそもそも調停で解決できず訴訟に移行する可能性も高いケースですが、弁護士が親権者の適格性を適切に主張した結果、相手方を説得して解決できる場合もあります。

 

 また、たとえ調停がまとまらなくても、調停段階で相手方の考えがある程度わかっていれば、後の訴訟に備えて対策を検討しておくことも可能となりますので、弁護士の関与が有効な場面です(はじめから訴訟が視野に入っているなら、調停の段階から弁護士を関与させた方がスムーズに訴訟に移行できるという面もあります)。

 

財産分与について、財産の範囲や評価、分与割合などに争いがある場合

 

 

慰謝料について不相応な提案がなされている場合

 

 ③④のような場合では、適正な金額をもとに合理的な話し合いを進めるうえで弁護士の知識・経験が有効なケースと思われます。

 

書類作成や資料整理の時間が取れなかったり苦手な場合

 

 これは、主にご本人の負担の軽減を目的に弁護士を利用する場合です。

 

 離婚調停では、申立書等の作成作業や、必要な書類を整理して適切に提出することを求められる場面がありますが、仕事等で時間がとれず十分に対応することが難しかったり、そのような作業が得意ではない場合には弁護士に代行してもらうことが有効です。

 

要望を伝えたり決断することに不安がある場合

 

 調停期日では相手方や調停委員から様々な要望や意見が出され、それに対して判断したり、反対にこちら側の要望を適切に伝えたるために工夫が必要となる場合がありますが、そのすべてを自分だけですることが不安な場合にも弁護士を関与させた方が良い事案といえます。

 

法律的に妥当な条件かをきちんと検討した上で離婚したい場合

 

 離婚調停はあくまで話し合いで解決を目指す手続であり、どちらが正しいかを決める手続ではないため、客観的に見れば必ずしも妥当な離婚条件ではなかったとしても、当事者双方が合意すれば原則として調停は成立することになります。

 

 しかし、後になってから離婚調停で取り決めた内容が不利な内容であったことが分かったとしても、やり直しは困難です。

 

 また、調停委員は中立な立場であり、立場上、どちらか一方に有利になるような働きかけはできませんので、調停中に協議されている離婚条件が妥当かどうかについてアドバイスを期待することはできません。

 

 そのため、離婚条件の妥当性について自分で調べたり判断することが難しく、かつ、この点をきちんと検討し納得した上で離婚したいという場合にも、弁護士を関与させた方が良いと思います。

 

相手方が復縁について望みを持っている場合

 

 弁護士をつけることによって離婚の意思が固いことを相手方に示すことができるため、復縁を諦めてもらい、離婚の方向に流れを持っていく一つの材料として弁護士を活用する方法です。

 

相手方に大きな問題がある場合(特にDV事案)

 

 DV事案など相手方に問題が多い事案では、依頼者の安全を図りながら慎重に手続を進める必要がありますし、不調に終わった場合の訴訟も見据えた上での対応が必要になるため、調停段階から弁護士が関与した方が良いケースであると思われます。

 

 なお、DV事案については、現在は各地の相談窓口が充実してきており、各相談窓口と弁護士との連携も進んできていますので、離婚についてアクションを起こす前には、まずはどのような進め方をしたら良いかを事前に十分相談することが望ましいと思います(場合によっては関係先の援助を得てシェルターへの避難や保護命令の申し立てなどの事前措置を講じた方が良い場合があるため)。

 

10相手に弁護士がついている場合

 

 相手が弁護士に依頼した場合、法律知識の差から調停で不利な流れになることは否定できません。

 

 間に調停委員が入るため協議離婚に比べればまだ良いですが、協議すべき事項について法律上の問題が生じた場合に、相手の弁護士が述べる内容が妥当なものかどうかを自分だけで判断することは難しく、先ほど述べたとおり調停委員も中立でありこちらの味方ではないため、適切にアドバイスできる弁護士が身近に板方が良い場面です。

 

 

夫婦関係の調停で弁護士を利用した人の割合は?

 2019年版の日弁連の統計資料によると、2018年に離婚調停と夫婦円満調整調停において申立人と相手方のどちらかに弁護士がついたケース、双方に弁護士がついたケースを合わせると約51.7%のケースで弁護士が関与していたとのことですので、夫婦間の関係を取り扱う調停においては、相当数、弁護士の利用が進んでいるようです。

 

 

 以上のとおり、離婚調停の段階からでも弁護士に依頼することが有効と思われる場面はありますが、他方で、訴訟から依頼するのに比べて費用がかさむ場合があることは否定できません。

 

 そのため、離婚調停の段階で弁護士に依頼するかどうかは費用との兼ね合いで決めざるを得ない面がありますが、そもそもご自分のケースで弁護士に依頼する必要があるかどうかを判断すること自体が簡単なことではありませんので、実際に依頼するかどうかは別として、判断に迷われたときはまずは相談だけでも受けてみることをお勧めしたいと思います。

 

 また、弁護士へ依頼するとそれなりに長い付き合いになるため、弁護士と依頼者の相性は非常に重要なポイントです。

 

 したがって、依頼を具体的に検討し始めたら、場合によっては複数の弁護士へ相談してみて、自分にとって一番合う(信頼できる)と思える弁護士を探してみることも考えて良いと思います。

 

弁護士 平本丈之亮

 

2020年3月23日 | カテゴリー : 離婚, 離婚一般 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所