遺留分を考慮した遺言書の重要性について

 

 遺言は、被相続人の最後の意思を示すものですが、お世話になった者に財産を譲りたい、あるいはこの者にだけは財産を渡したくないなど、様々な理由から遺留分を侵害するような遺言を作ってしまい、そのような遺言によって被相続人の死後、関係者の間で紛争になることがあります。

 

 遺言がトラブルのもとになるケースは、大きく分けて、①遺言書の効力が問題となる場合と、②遺言の有効性を前提として相続人の遺留分が問題となる場合ですが、②が問題となるのは、被相続人が相続人の遺留分を考慮しない内容の遺言書を作成してしまうためです。

 

 たとえば、相続人である数人の子どもの一部にのみ財産のすべてを渡すといった極端な遺言書を作成し、財産を受け継ぐ者と受け継がない者との間で大きな格差が生じるケースがよく見られ、このような遺言書を作成してしまうと、相続発生後、親の遺産を巡って大きなトラブルに発展するこがあります。

 

・遺留分に配慮した遺言書を作ることが重要

 

 被相続人は遺留分制度について十分な知識があるとは限らないため、単純に特定の方に財産を譲りたいという思いから遺留分を侵害する内容の遺言を作ってしまうことがあると思います。また、遺留分を侵害する遺言であっても、権利者が遺留分を行使しない限り問題にならないため、遺留分を請求されないことを期待してそのような遺言を作るケースもあり得ます。

 

 もっとも、相続人の一部が遺留分を請求した場合には、請求された側は金銭で支払いをしなければならないため(令和元年7月1日以降の事案の場合)、遺産に預金などの流動資産が乏しいケースだと、遺産の評価額によっては大きな負担を強いられられるリスクがありますし、相続人間で遺留分が問題となったときは単なる経済的得失だけではない感情的なもつれが生じ、深刻なトラブルに発展することもあります。

 

 そのため、遺言書を作成する場合には、後日遺留分を請求される可能性があることを想定して、はじめから遺留分を確保する内容で作った方がトラブル防止の観点からは望ましく、遺言書作成についての相談を受けた場合、当職は遺留分に配慮した内容の遺言書作成を勧めています。

 

・遺言書に付言事項を記載する方法

 

 このように、遺言書を作成する場合は基本的には遺留分に配慮した内容にすることが望ましいと考えますが、何らかの理由によってそれができない場合には、次善の策として、そのような遺言書を作成した理由を付言事項として記載しておくことが考えられます。

 

 たとえば、法的な意味はないものの、財産を受け継ぐ者が重い障害を抱えており自宅で生活する必要性が高いため、遺産の大部分を占める自宅不動産をその者に相続させざるを得ないという理由を記載したり、少ない遺産しか受け取れない相続人に対する感謝や労い、謝罪などを丁寧に記載しておくことによって感情的な対立を和らげられる可能性があるため、そのような点を記載しておくことが考えられます。

 

 また、遺言によって財産をもらえなくなった側が被相続人から多額の生前贈与を得ていてこれが特別受益に該当するようなケースであれば、後日、遺留分侵害が問題となったとしても支払うべき金額が少なくなったり、そもそも遺留分侵害がないと判断される可能性があるところ、生前贈与の事実や金額などについて遺族は正確に分からないことがあるため、遺言書の中に生前贈与の時期、贈与した財産の種類や金額、贈与した財産の使用目的などについて記載しておくという対応も考えられます。

 

・専門家に相談しながら慎重に遺言を作る

 

 遺言を作成するほどの相続財産がある場合には遺留分の金額も高額となる可能性があり、被相続人や受遺者の当初の想定を超えて深刻なトラブルに発展するケースが実際にありますので、遺言書を作るときは、専門家に相談しながら慎重に進めることをお勧めします。

 

弁護士 平本丈之亮

 

2022年6月24日 | カテゴリー : 遺留分 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所