辞めたいけど辞められない~辞職(退職)の自由①・期間の定めのある場合~

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 ここ数年、働いている会社やアルバイト先を辞めようとしても、人手不足などを理由になかなか辞めさせてもらえない、という相談が増えています。

 そこで、今回は、労働者の「辞職の自由」についてお話しします。

 なお、労働者側からの辞職については、大きく分けて、契約期間のある場合と、契約期間のない場合がありますが、今回は契約期間のある場合についてお話しします(契約期間のない場合については、後日、別のコラムでお話したいと思います)。

 

<労働者には辞職(退職)の自由がある>

 憲法上、労働者には職業選択の自由があり、奴隷的拘束が禁止されていますので、原則として労働者には辞職する自由があります。

 しかし、労働者に辞職の自由があるといっても、法律上、そのために必要な手続きが定められていますので、勤務先と話し合ったものの折り合いがつかず一方的な意思表示によって辞職せざるを得ないという場合には、法律に沿った形での対応が必要となります。 

 

<期間の定めのある雇用契約を途中で解消する場合の法律>

 

【民法628条】

 このケースについては民法628条が定めており、労働者は「やむを得ない事由」がある場合」には期間途中でも契約を解消することができるとされています。

 どのような事由があれば「やむを得ない事由」と言えるかは条文上必ずしも明確ではありませんが、労働者の病気や怪我、家族の介護、妊娠や出産、給料の未払い、違法な長時間労働等劣悪な労働環境であることなどが考えられます。

 また、近時、問題となっている学生のいわゆるブラックアルバイトについては、学生はあくまで学業が本分であり、雇い主側も労働者が学生であることを認識・理解した上で雇用していることが通常と思われること、辞職することは原則として自由であることなどから、当職の私見ですが、ある程度緩やかな事情でも「やむを得ない事由」に該当すると考えるべきであり、たとえば卒業準備など学業へ専念する必要があることやアルバイトによって学業に支障が生じているといった事情でも広く辞職は許されるべきと考えます。

 なお、民法628条には続きがあり、「やむを得ない事由」が「当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う」とされていますので、働けなくなった理由が労働者側の落ち度による場合には、勤務先から損害賠償の請求がなされる可能性がある点に注意が必要です。

 

【契約から1年以上勤務した後で辞める場合】

 たとえば、契約期間を2年とした雇用契約について、1年が経過した時点で辞めるというケースですが、この場合、基本的には「やむを得ない事由」がなくても自由に辞職することができます(労働基準法第137条)。

 ただし、労働基準法第137条は、①専門的知識・技術・経験を有する労働者をその専門的知識などを必要とする業務に就ける場合(医師、税理士、薬剤師、弁護士等の有資格者や一定の学歴及び実務経験を有するシステムエンジニアやデザイナー等で年収1075万円を超える者など)や、②満60歳以上の労働者との契約については適用されません。

 

【事前に示された労働条件と実際の労働条件が異なっていた場合】

 最近では、ハローワークや求人雑誌で示されていた労働条件(給料、労働時間、就業場所、従事する業務など)と実際の労働条件とが違っていたという相談もありますが、この場合、労働基準法第15条2項により、労働者は即座に辞職することができます。

 実際に辞職する場面では、事前に示された労働条件と食い違いがあったかどうかが問題になる可能性がありますので、働き始める際には事前にもらった労働条件通知書や雇用契約書、ハローワークの求人票を保管しておくなどの工夫をしておくと良いと思われます。

 

【就業規則で辞職についての定めがある場合】

 では、就業規則において「退職には会社の承諾を受けること」「辞めるには代わりの人員を見つけること」といった定めがある場合はどうでしょうか。

 民法628条と就業規則との関係については、就業規則で民法628条よりも条件を厳しくすることはできないが、民法628条よりも条件を緩やかにすることはできる、とされています(大阪地裁平成17年3月30日判決・・・※)。

 そうすると、先ほどのような就業規則は「やむを得ない事由」がある場合には辞職できるとする民法628条よりも厳しい条件をつけるものですので、無効になると思われます。

 

 ただし、逆に会社側から解雇する場合については、労働契約法第17条1項が「やむを得ない事由」がない限り期間途中に解雇できないと定めているため、会社側が解雇しやすくなる内容の就業規則を定めても、この部分は無効となります(※2)。

 

 ・労働者からの辞職

  →「やむを得ない事由」がなくても辞職できると定めるのはOK

 

 ・会社からの解雇

  →「やむを得ない事由」がなくても解雇できると定めるのはNG

 


※ 大阪地裁平成17年3月30日判決

「民法は,雇用契約の当事者を長期に束縛することは公益に反するとの趣旨から,期間の定めのない契約については何時でも解約申入れをすることができる旨を定める(同法627条)とともに,当事者間で前記解約申入れを排除する期間を原則として5年を上限として定めることができ(同法626条),同法628条は,その場合においても,「已ムコトヲ得サル事由」がある場合には解除することができる旨を定めている。
 そうすると,民法628条は,一定の期間解約申入れを排除する旨の定めのある雇用契約においても,前記事由がある場合に当事者の解除権を保障したものといえるから,解除事由をより厳格にする当事者間の合意は,同条の趣旨に反し無効というべきであり,その点において同条は強行規定というべきであるが,同条は当事者においてより前記解除事由を緩やかにする合意をすることまで禁じる趣旨とは解し難い。

 したがって,本件解約条項は,解除事由を「已ムコトヲ得サル事由」よりも緩やかにする合意であるから,民法628条に違反するとはいえない。」

 

※2 労働契約法第17条

(契約期間中の解雇等)
第十七条 使用者は、期間の定めのある労働契約(以下この章において「有期労働契約」という。)について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。

 

<辞職の申出をしても受け容れてもらえない場合の対応は?>

 辞職を考える際、まずは会社との間で話し合いをすることが通常と思われますが、会社が聞く耳を持ってくれないような状況では、そのまま話し合いを続けても埒があきません。

 このような場合には、やむを得ない方法として、内容証明郵便で辞職の申出をするという方法を採らざるを得ないことになります。

 内容証明郵便を送るようなケースでは、退職後に元の勤務先から損害賠償請求を受けるなど法的なトラブルに発展するケースも想定されますので、そのような場合には弁護士にご相談されることをお勧めします。

 

弁護士 平本丈之亮