新型コロナウイルス感染症が市民生活に大きな影響を与えていることに鑑み、各地で特別定額給付金と子育て世帯臨時特別給付金の支給手続が始まっています。
今回は、このような特別定額給付金・臨時特別給付金が差押えや自己破産との関係でどのように取り扱われる可能性があるのかについてお話ししたいと思います。
本年4月30日、「令和二年度特別定額給付金等に係る差押禁止等に関する法律」が公布、施行されました。
この法律によれば、以下の2つは差押が禁止されますが、差押えが禁止されるということは破産手続上も処分を必要としない「自由財産」として扱われるということですので、この2つは自己破産をしても処分されることはありません(個人再生手続における最低弁済額の算出のための清算価値にも含まれないと思われます)。
①国民一人当たり一律10万円の特別定額給付金
②児童手当を受給する世帯に対し,児童一人当たり1万円を上乗せする子育て世帯臨時特別給付金
この法律では、支給を受ける前の段階の権利(受給権)だけではなく、支給された後の金銭についても差押えが禁止されています。
そのため、既にお金を受け取っている人であっても差押えや破産によってこれらの給付金を処分されることはありません。
以上のように、特別定額給付金と子育て世帯臨時特別給付金は差押えが禁止されますが、既に支給を受けて口座に振り込まれると預金債権に転化します。
差押禁止債権が預金債権に転化した場合、差押禁止債権としての性質を受け継がないのが原則であるというのが裁判所の考え方であり、給付金を預金として保管している場合には口座の差押えという形で不利益を受ける危険性がありますので、リスクを減らすには現金で保有しておくのが無難と思われます。
とはいえ、10万円から数十万円ものお金を現金で持っているのは難しい場合もあり、預金として保管せざるを得ない方も多いと思います。
もし、給付金の入っている口座の差押えが行われてしまった場合には、「差押禁止債権の範囲変更の申立」を行い、預金の原資が給付金であることを立証することによって事後的に差押えを免れることができる可能性があります。
もっとも、一旦給付金が口座に入金され、その後、給料など他の収入と混じり合ってしまった場合には、どこまでが給付金なのか分からなくなってしまうことがあり、このことが理由で変更の申立が認められなくなる可能性もありますので、口座に保管せざるを得ないという場合には、せめて、他に収入が入らない口座に入れておくことが望ましいと思います。
これに対して、差押えを行ったのが一般債権者ではなく税務署や自治体などの場合、差押禁止債権の範囲変更の手続きは利用できません。
万が一このようなことがあった場合には、過去に本HPでご紹介した裁判例に基づき滞納処分は違法であるとして争う余地も残されているとは思いますが、そもそも一旦滞納処分がなされた後で交渉などするにしても時間がかかり、本当に必要なときに使えないというデメリットが大きすぎますので、やはり現金での保有が無難であると思います。
弁護士 平本丈之亮