支払い困難な状況に陥った場合、貸金業者や債権の回収を委託された債権回収会社から厳しく督促されることがあります。
しかし、法律上、以下のような手続に入った場合には、貸金業者等からの直接の請求を停止させることが可能です。
弁護士等が債務整理の依頼を受けて貸金業者等に受任通知を送付した場合、貸金業者等は正当な理由がない限り直接の請求を停止しなければなりません(貸金業法21条1項9号、債権管理回収業に関する特別措置法(サービサー法)第18号第8項)。
そのため、支払い困難な状態に陥った場合には、速やかに受任通知を送付して請求をいったん停止してもらい、生活を落ち着かせながら債務整理を進めていくことが可能となります。
なお、貸金業法とサービサー法では禁止される内容には微妙に違いがあり、貸金業法では受任通知後の訪問・電話・電報・FAXが禁止されているのに対して、サービサー法では訪問と電話のみが禁止されています(ただし、少なくとも当職は、受任通知後に電報やFAXで請求されたという事例に遭遇したことはありません)。
一応、「正当な理由」がある場合には直接の請求も可能という定め方にはなっていますが、貸金業法に関する金融庁の監督指針では、正当な理由の例として①弁護士等からの承諾がある場合と②弁護士等又は債務者等から委任が終了した旨の通知があった場合が示されており、債務整理を開始した時点でそのような条件をみたすことはあり得ませんので、相手が貸金業者と債権回収会社であれば債務整理の依頼中に直接の請求が来る可能性はまずないと思います(サービサー法の審査・監督に関する事務ガイドラインでは正当な理由の例示は見当たりませんでしたが、貸金業法と同様に解して良いと思います(私見))。
裁判所で負債の返済方法を話し合う手続が特定調停です。
貸金業法とサービサー法では、債務者がこの手続きを申し立て、その旨の通知を受け取った場合にも直接の請求を停止するよう求めています。
特定調停では裁判所への申立のための準備があり、また、申立から債権者への通知までライムラグがあるため受任通知に比べると即効性では劣りますが、弁護士費用を節約したいケースや一部の強硬な債権者を相手とする場合には選択肢に入ります。
ただし、特定調停によって作成される調停調書は「債務名義」といって差押えを可能とする文書になるため、支払いを怠った場合のリスクには要注意です。
このように、受任通知あるいは特定調停によって貸金業者と債権回収会社からの直接の督促は停止されますが、これらには裁判手続(訴訟・支払督促)の申立てを止める効果まではありません。
そのため、弁護士へ依頼して受任通知を発送したり特定調停の申し立てをしても、その時点で滞納がかなりの額にのぼっているようなケースでは、裁判や支払督促などを起こされる可能性があります。
もっとも、滞納がかさんでいる場合でも、受任通知等によって事実上何か月間か裁判手続の申立てを猶予する業者もありますし、すでに裁判手続に着手した後でも業者によっては手続を取り下げることもあります(特定調停であればそのほかに強制執行停止の申立という手段もあります。)から、滞納がかさんでいたり裁判手続を起こされたからといってすぐに諦める必要はありません。
いずれ方法をとるにせよ、早期に対応することが肝心ですので、支払いに困難を感じるようになったら速やかに専門家のところへ相談に行くことをお勧めします。
弁護士 平本丈之亮