所在等が不明の共有者がいる不動産を処分する新たな方法について(所在等不明共有者持分譲渡制度)

 

 不動産の名義が共有状態であり、自分以外の共有者が行方不明であるため処分することができないというご相談があります。

 

 このような場合、これまでは行方不明者の代わりとなる「不在者財産管理人」を裁判所に選任してもらい、その管理人と共同して不動産を処分するといった方法がとられていましたが、不在者管理人を選任してもらうためには数十万円の予納金を納めなければならないなど問題があったため民法が改正され、令和5年4月1日より、管理人の選任を要さずに直接不動産を処分できる制度が裁判所で始まりました。

 

所在等不明共有者持分譲渡制度

 

 新たに設けられた制度は不在者財産管理人との共同売却といった流れとは異なり、裁判所での裁判手続によって直接不動産を処分できるというものです(改正民法第262条の3第1項)。

 

 なお、今回の法律改正では共有持分の譲渡だけではなく、不明者の共有持分を取得する制度も新設されましたが、今回はその点の説明は割愛します(その制度については後記の関連コラム参照)。

 

利用の条件

 

①対象は不動産に限られること

不動産の共有持分に限らず、不動産を使用収益する権利が共有状態にある場合も利用することが可能です(改正民法第262条の3第4項)。

②他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないこと

この条件をみたすためには単に登記簿謄本で共有者を調査するだけでは足りず、住民票等の調査などを行って裁判所に所在等が不明であると認めてもらうことが必要です。

③所在等不明共有者以外の共有者全員が自己の持分を特定の者に全部譲渡する場合であること

この制度は、不明者以外の共有者の全員が自分の持つ共有持分の全てを特定の第三者に譲渡することを停止条件として不明者の共有持分も一緒に譲渡する権限を与えるものです。

 

そのため共有者の一部が共有持分の譲渡を拒んだ場合には、不明者の共有持分を譲渡することもできません。

④対象の共有持分が相続財産のときは相続開始から10年以上超過していること

この制度は遺産分割未了の状態(遺産共有)の不動産も対象となりますが、遺産共有状態の不動産については相続開始から10年が経過していないと利用できません(改正民法第262条の3第2項)。

 

手続の流れ

 

①地方裁判所への申立

【管轄裁判所】

不動産の所在地を管轄する地方裁判所(改正非訟事件手続法第88条1項)

 

【申立手数料】

印紙1,000円×対象となる持分の数

 

【予納金(官報公告費用)】

原則5,489円

 

【郵便切手】

6,000円分(東京地裁の場合)

 

※東京地裁HPより

②異議届出期間等の公告

所在不明等共有者のため、この手続の申立てがあったことや一定期間内に異議の届出ができること、異議の届出がなければ申立人に不明者の共有持分の譲渡権限を与える旨の裁判をすることを公告することが必要であり、裁判所はそれらの期間が経過しなければ譲渡権限を付与する旨の裁判をすることができません。

 

この異議届出期間は3か月を下回ることはできないとされています(改正非訟事件手続法第87条2項、同第88条2項)。

③異議届出期間等の経過

先ほど述べたとおり、裁判所は異議届出期間等が経過しないと共有持分の譲渡権限を付与する裁判をすることができません。

 

所在等不明共有者が期間内に異議を出した場合は利用条件を欠くことになるため却下されます。

④時価相当額の決定と供託

時価相当額は、第三者に売却する金額などを考慮して裁判所が決定します。

 

その後、取得希望者は裁判所が決めた額を一定期間内に供託し、かつ、裁判所に届け出をする必要があります(改正非訟事件手続法第87条5項、同第88条2項)。

⑤譲渡権限付与の裁判

供託後、裁判所が所在等不明共有者の共有持分について譲渡権限付与の裁判を行います。

 

この裁判が確定すると、申立人には他の共有者の有する共有持分をすべて譲渡することを停止条件として所在等不明共有者の共有持分を譲渡する権限が与えられることになります。

⑥2か月以内の譲渡

不動産の譲渡行為はこの裁判が効力を生じてから原則として2か月以内にしなければならず、期間を経過すると譲渡権限付与の裁判は効力を失います(改正非訟事件手続法第88条3項)。

 

ただし、裁判所はこの期間を伸長することはできます(同上)。

 

共有のスムーズな解消に資する制度

 

 不動産が共有状態のままでは処分の場面で問題が出てくることがあり、代替わりによって権利者が交代した結果、何代にもわたって身動きがとれないまま不動産が放置されてしまうケースもあります。

 

 共有不動産の処分ができない状態が長く続くと地域の安全や景観等にとって好ましくない事態を招くこともありますが、この制度をうまく活用できれば処分に要する費用も節約できるようになりますので、今後はこの制度の活用によって共有状態がスムーズに解消できるケースが増えることを期待しています。

 

弁護士 平本丈之亮