夫婦生活を営んでいると、夫婦のどちらかが相手のために支払いをするということは良くあることだと思いますが、その後に夫婦関係が破綻して離婚した場合、そのような結婚生活中の立替金を返してほしいという要望が出ることがあります。
そこで今回は、この点について判断した裁判例をひとつご紹介したいと思います。
この事案は、離婚した夫婦の一方が他方配偶者の負担する債務について特有財産から立替払いをしたとして、元配偶者にその分の返還を求めたというものですが、裁判所は以下のような一般論を示した上で、本件では立替金の原資が特有財産であると認められず(=夫婦共有財産が原資)、夫婦共有財産を原資とする立替金の清算は財産分与の問題として扱うべきものであるから返還請求することはできないとしました。
「夫婦の一方が婚姻期間中に実質的夫婦共有財産を原資として他方の債務を立て替えて支払った場合において、当該一方が離婚後に当該他方に対して民法702条1項の費用償還請求権又は不当利得返還請求権に基づいて立替金の返還を求めることは、当該離婚時における財産関係の清算のために法令に基づき当該他方に属する財産を当該一方へ給付することを求めるものであって、離婚に伴う財産分与として金員の支払を求めるものというほかない。」
この裁判例がどこまで一般化できるものかは分かりませんが、個人的には、支払いの原資が夫婦共有財産だったとすると、その支払いがなく財産として残っていた場合には離婚の時点で財産分与の対象になることから、このようなものについては財産分与の問題として取り扱うのが妥当だと考えます。
なお、この裁判例は、夫婦共有財産を原資として立て替え払いをした場合には財産分与の問題として扱うべきという判断をしたものですから、この裁判例を前提とすると、いわゆる特有財産を原資とした場合には、支払者は相手に対して直接返還請求ができるという結論になります。
そのため、夫婦間の立替金を財産分与ではなく直接請求したいという場合には、請求者側において立替金の原資が特有財産であったことを積極的に主張立証していくことが必要になると思われます。
弁護士 平本丈之亮