交通事故の被害に遭われたとき、多くの場合、相手方の保険会社から損害賠償について示談案が示されますが、その金額が果たして妥当なのかという点について、大半の方は判断できないものと思います。
交通事故で生じる損害賠償の項目には、治療費、通院交通費、慰謝料、休業損害、逸失利益など様々のものがあり、それぞれの項目には計算方法など特有の問題点がありますし、また、当事者間で過失の割合が争いになる場合も多く、その結果、賠償額の計算が複雑になりがちだからです。
しかしながら、これまでの当職の経験上、保険会社からの提案額が本来裁判であれば認められるであろう金額よりも低くなっているケースは相当数ある、というのが実感です。
たとえば、交通事故による怪我で入院や通院したことに対する慰謝料(=「入通院慰謝料」)や、後遺障害が残ったことに対する慰謝料(=「後遺障害慰謝料」)、将来得られたはずの収入が後遺障害によって失われたことに対する補償(=「逸失利益」)について、妥当な水準を下回った内容となっているケースが典型例ですが、これらについてきちんと計算しなおした結果、実際の賠償額が数十~数百万円、場合によって1000万円以上も変わるということがあります。
それでは、同じ事故に対する賠償問題について、どうしてこのような違いが起きるのでしょうか? それは、交通事故による損害額を計算する基準には、①裁判所が使用する基準(裁判基準)と、②保険会社内部の独自の基準(任意基準)、③自賠責保険の基準(自賠基準)の3つがあり、示談交渉の段階では、通常、保険会社は自社にもっとも有利な基準にしたがって提案をしてくるためです。 一般的に、この3つの基準の中で被害者にとって一番有利なものは裁判基準であり、被害者側の弁護士は裁判基準をもとに損害額を計算し、示談交渉や訴訟を行います。 もっとも、裁判基準もあくまで一つの目安であり、この基準で計算する前提となる事実関係(たとえば治療を必要とした期間や休業を必要とした期間など)について裁判所がこちらの主張を認めなければ、結果的には当初の示談案の金額を下回るということもあり得ます。 そのため、様々な角度から検討した結果、最終的には保険会社の示談案が妥当と判断して解決するケースもありますし、裁判をすればどれだけ少なく見積もっても保険会社の示談案以上の額が見込めるだろうということで強気で交渉し、当初の提案から相当程度増額して解決できるケースも多くあります。 このように、一口に保険会社の示談案が妥当かどうかといっても、その判断には交通事故に関する損害の計算方法や過失割合などについての知識・経験が必要であり、弁護士の専門的判断が要求されるところです。 また、裁判基準についてはインターネットの情報からご存じの方も多いですが,その基準を当てはめ、さらにこれをもとに実際に示談交渉することも簡単なことではありませんので、保険会社から示談案が出たら、一度弁護士への相談をご検討いただければと思います。 弁護士 平本丈之亮