遺産分割を早めに行うべき3つの理由

 

 相続が発生し、故人に遺産があるときは遺産分割の手続が必要になります。

 もっとも、遺産分割が必要だとはわかっていても、その手続きの煩わしさからついつい後回しになってしまうということも珍しくありません。

 しかし、弁護士として相続の相談を受けていると、本当は遺産分割が必要なのにこれを放置した結果、後になってからもっと面倒なことになったという例が多くみられます。

 そこで今回は、遺産分割を早めに行うべき理由についてお話ししたいと思います。

 

理由1 相続人が増えることによる弊害

 時間が経過すると、相続人の死亡によって相続人の数が増えることがあります(数次相続の発生)。

 たとえば、兄弟姉妹が元々の相続人である場合に、遺産分割前にそのいずれかが死亡してしまい、死亡した兄弟姉妹の配偶者や子どもが相続人になる、といったことが良く見られます。

 このように、時間の経過によって相続人が増えると、以下のような問題が生じることがあります。

 

①単純に交渉しなければならない相手が増え、手間やコストが増える。

 

②交渉相手が変わった結果、当初とは異なった意見が出てきてしまい、協議がまとまらなくなる。

 

 時間の経過によって相続人が増えてしまうことは良くあることですが、一次相続が発生してから何年も経過してから相談に来られる方の相続関係を確認すると、当初よりも大幅に相続人が増えてしまい、相続人全員の所在をつかむこと自体が一苦労、どうにか所在を掴めても関係が希薄なため交渉も難航、という事例があります。

 

理由2 行方不明の相続人の発生

 相続発生から時間が経過すると、相続人の一部がどこにいるか分からなくなってしまうことがあります。

 また、理由1にも関係するところですが、相続人の一人が死亡して相続関係が変わった結果、新たに相続人になった者がどこにいるかわからないというケースもあります。

 

 このようなケースが本当にあるのかと思われるかもしれませんが、当職の受ける相談のうち相続人の所在が分からないというケースはかなり多く、そのような事態に陥る原因の相当部分が、当初の相続発生から時間が経過しているところにあります。

 相続人の一部が行方不明の場合、まずは親族からの情報収集や戸籍関係の調査によって現在の所在地を探ることから始めますが、それでも見つからない場合はご本人が自力で探すのは困難であり、弁護士による調査や交渉が必要になるなど余計なコストが生じる原因にもなります。

 

 当職自身、相続人の一部が行方不明のため「弁護士会照会」という手続を利用してどうにか所在地を探り当てた経験がありますが、弁護士といえども確実に見つけられるとは限らず、そのような場合は別途裁判所に数十万円の費用を支払って不在者財産管理人の選任を申し立てなければならなくなる、というケースもあります。

 

理由3 認知症の相続人の発生

 時間の経過によって相続人自身の年齢が上がり、事案によっては相続人が認知症に罹患しているケースも見られます。

 

 相続人の中に認知症の方がいると、そのまま相続人間で話し合いをまとめることはできず、家庭裁判所で成年後見人を選任してもらい、成年後見人がご本人に代わって遺産分割協議を行う必要がありますが、このような状況になると、成年後見の申立という手続きが必要になるだけではなく、遺産分割の内容についても制限がかかります。

 本来、遺産分割は相続人の間で自由に取り決めができるものですから、たとえば相続人の一人が自分は遺産はいらないとか、法定相続分を下回っても良いと言っても、それはその相続人の自由です。

 しかし、相続人の中に後見人の選任が必要な方がいるとき、後見人は本人の利益を保護しなければならないため、遺産はいらないとか相続分を下回る内容でも良いとはいえません(家庭裁判所も容認しません)。

 

 このように、ひとたび認知症の相続人が生じたときは、それまでであれば比較的自由に分割内容を決められたのに、それができなくなってしまうことになります。 

 

 

 以上のような理由から、遺産分割については面倒であっても早期に手を付けるのが重要であり、これを怠って放置してしまうと後々になってかえって面倒なことになりますので、ご自分で進めることが難しいときは専門家に相談し、早めに手続に着手していただければと思います。

 

弁護士 平本 丈之亮

 

2021年5月3日 | カテゴリー : コラム, 相続 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所