雇用保険に加入している労働者が育児休業を取得した場合、一定期間、雇用保険から育児休業給付金が支給されることがあります。
では、このような育児休業給付金の支給が予定されている間に婚姻費用の請求があった場合、婚姻費用や養育費の計算において育児休業給付金は収入として扱われるのでしょうか?
大分家裁中津支部令和2年12月28日審判
この点に関しては、別居中の妻が夫に対して自分と子どもの分の婚姻費用の請求をしたが、夫には不貞相手との間に認知した子どもがいたというケースで、認知した子の母である不貞相手の育児休業給付金を収入として扱い、これをもとに妻と子の婚姻費用を算定した裁判例があります(大分家裁中津支部令和2年12月28日審判)。
このケースは、権利者や義務者自身が育児休業給付金を受給していた場合ではなく、婚姻費用の計算において考慮する必要のある認知した子の生活費を計算する際に、その母親である不貞相手の育児休業給付金を収入として計算したというイレギュラーなケースです。
もっとも、この裁判例は、育児休業給付金が婚姻費用の計算にあたって収入として扱うべきことを当然の前提としたものですので、たとえば妻が育児休業中に夫に婚姻費用を請求したようなスタンダードなケースでも、この裁判例と同様の立場に立てば育児休業給付金が収入として扱われるものと思われます(なお、この裁判例では、育児休業給付金が収入として考慮される理由について特段理由は述べていませんが、育児休業給付金が雇用保険給付の一つとして休業中の所得を補填とすることからすると、個人的にも収入として扱うことが妥当ではないかと考えます)。
職業費に注意を要する
ただし、婚姻費用や養育費の計算において育児休業給付金を収入として扱う場合には、育児休業期間中は職業費がかからない点を計算に反映させる必要があることに注意が必要です。
いわゆる標準算定方式では、総収入に応じた一定のパーセンテージを乗じて「基礎収入」を算出し、それをもとに婚姻費用や養育費を計算しますが(このパーセンテージを「基礎収入割合」といいます。)、通常のケースで用いられる基礎収入割合は、働いている人に一定の職業費がかかることを前提としています。
これに対し、育児休業給付金を受給している期間はこのような職業費が生じないため、このようなケースでは、基礎収入を計算するにあたり職業費がかからないことを前提に計算を修正する必要があります。
この点について、上記裁判例では、統計上の資料から実収入に占める職業費の平均値が概ね15%であることに着目し、通常の計算の場合に利用される基礎収入割合に15%を加算して基礎収入を計算するという計算方法を採用していますので、同様のケースではこの方法を参考にすることが考えられるところです。
たとえば、年額120万円の給与収入を得ている場合、通常の基礎収入割合は46%であるため基礎収入は120万円×46%=556,000円ですが、この120万円が育児休業給付金の場合、上記裁判例のような考え方だと46%に15%を加算し、基礎収入は120万円×61%=732,000円となり、これをもとに婚姻費用や養育費を算出します。
婚姻費用や養育費の計算において育児休業給付金が問題になる例はそこまで多くはないと思いますが、最大で子どもが2歳になるまで受給できるものであるため、元々の収入が高いケースだと、これを収入に加えるかどうかによって計算が大きく変わってくることもあり得ます。
今回ご紹介したように、育児休業給付金を受給していたりその予定がある場合には婚姻費用や養育費について特殊な計算が必要になる可能性がありますので、この点が問題となる場合には弁護士への相談をご検討いただければと思います。
弁護士 平本丈之亮