以前、借金問題の解決の手段の一つとして個人再生をご紹介しました。
法的な債務整理の方法としてはほかにも自己破産がありますが、個人再生には自己破産にない独自の利点がありますので、今回は自己破産にはない個人再生のメリットについてご紹介したいと思います。
個人再生の最も大きなメリットが、住宅ローンを払って自宅を確保しながら、それ以外の債務の圧縮が可能になる点です。
同じく自宅を残すことが可能な方法としては個別に債権者と交渉する任意整理がありますが、分割払いの任意整理では債務の圧縮は期待できないため、これを両立できる点が個人再生の大きなメリットです。
もちろん、住宅ローンについては支払いを続けることが大前提ですが、このメリットがあるため、当事務所では、住宅ローンのある方についてはまずもって個人再生を検討します。
ただし、このメリットを受けるためには居住用の不動産(床面積の2分の1以上を専ら自己の居住の用に供していること)であることが必要ですので、たとえば投資用マンションやセカンドハウスのケースでは対象になりませんし、不動産に住宅ローン以外の担保権がついている場合も対象にならないことには注意が必要です。
また、上記の条件を満たしても、不動産の評価額が高く、逆に住宅ローン残高が少ない場合(アンダーローン)には、債権者に最低限弁済しなければならない金額(最低弁済額)が高くなり、個人再生が利用できない場合もあります。
個人再生で住宅ローン債権者以外の一般の債権者に支払う必要のある最低弁済額は、多くの場合、100万円~負債額の5分の1か、債務者の財産評価額の合計額(清算価値)のどちらか高い方となります(詳しくはこちら→「個人再生をすると、負債はどれくらい減るのか?~個人再生②・最低弁済額~」)。
これは要するに、財産を処分して債権者に分配したのと同等以上の金額を支払えば足り、必ずしも手持ちの資産をお金に換えて返済に充てなければならないわけではない、ということを意味しています(ちなみに、あえて財産の一部を処分してこれを頭金として初回の返済に充て、2回目以降の返済額を大幅に減らすという返済計画も可能です)。
そのため、たとえば以下のような保険がある事案だと、自由財産である99万円の現金を除いて計算した最低弁済額は200万円となり、これを原則3年(最大5年)で分割返済していく必要はあるものの(3年だと毎月約5.5万円+送金手数料)、毎月の返済資金さえ捻出できるのであれば保険そのものを処分されることはありません。
これに対して、自己破産のケースだと、合計299万円の資産のうち99万円までは手元に残せる可能性があるものの(自由財産の拡張)、特別の事情がない限りそれを超える金額を残すことは難しい場合が多いため、保険は諦めざるを得ないことがあります。
債務額:600万円
保険解約返戻金:200万円
現金:99万円
※自由財産のため清算価値には計上しない
最低弁済額:600万円÷5<200万円
→ 200万円
借金の原因がギャンブルや飲食などの散財であり、その程度があまりにもひどい場合、自己破産では解決が難しいことがあります。
もちろん、免責不許可事由があっても多くの場合には免責が許可されているため(詳しくはこちら→「免責不許可になる割合は?~自己破産⑧~」)、浪費があるから即個人再生をすべきということではありませんが、弁護士からみてもあまりにもひど過ぎるという場合には、自己破産ではなく個人再生で進める方がよい場合もあります。
というのも、個人再生については、自己破産に比べて借金の原因が問題になることが少なく(もちろん、不正な目的で個人再生を申し立てた場合は却下されるため限界はあります。)、最低弁済額以上の返済ができるだけの収入がある場合には、自己破産は難しくても個人再生は認可される可能性があるためです。
当職自身が過去に担当したケースでも、負債のほとんどがギャンブルであり、それによって作った負債額も非常に多額であったという事案で、ご本人が個人再生を選択したというものがあります。
自己破産の場合、警備員や宅地建物取引士など一定の資格に制限がかかりますが、個人再生ではそのような制限がかかりません。
実際には資格制限のかからない職業に就いている方も多いため、そのような方にとっては関係のない話ですが、職業の関係で自己破産を選択できない場合でも債務を圧縮できるというのも個人再生のメリットの一つです。
これはメリットといえるかどうか評価が分かれるところではないかと思いますが、自己破産という言葉の持つネガティブなイメージを避けたいということで、あえてご本人が個人再生を選択なさる場合もあります。
個人再生も自己破産と同様に信用情報や官報に載りますし、保証人に影響が出るというデメリットも共通なのですが、残念ながら自己破産に対してはマイナスイメージがあることは否めませんので、経済的なメリットよりもそちらを重視したいという方には個人再生をお勧めすることがあります。
以上、個人再生について思いつく限りのメリットをご紹介しました。
個人再生は、うまくはまれば経済的な立ち直りに大きな威力を発揮する制度ですが、破産に比べて最低弁済額の計算や弁済計画案の作成などの面で難しいところがありますので、手続を希望する場合には専門家への依頼をお勧めします。
なお、弁済計画の認可決定が確定した後、債権者への配当についても代行してもらえるかどうかは依頼先によって異なります。
当事務所では認可決定確定後の弁済代行までお引き受けしていますが、依頼先によっては配当自体は自分でしなければならない場合もあり、長い弁済期間のため債権者数が多いと配当作業が大変なこともありますので、認可決定後の配当代行まで希望する場合には、事前に依頼先に確認しておいた方が良いと思います。
弁護士 平本丈之亮