財産分与と税金の話

 

 離婚問題を取り扱っていると避けて通れないのが財産分与ですが、それに関連するものとして問題になることがあるのが税金関係です。

 

 最近では財産分与と税金の問題についてもご存じの方が多い印象ですが、知らないと落とし穴もあるところですので、今回はこの問題について取り上げたいと思います。

 

お金と不動産では取り扱いが違う

 離婚時に財産分与を行った場合の課税関係については、大きく分けると、分与した財産がお金の場合と不動産の場合とに分けられます。

 

お金の分与

 【お金の場合、原則として税金はかからない】 

 財産分与として離婚後に金銭を分与した場合には、原則として税金(贈与税)はかかりません。

 

 離婚の際に「解決金」という名目で金銭を支払うこともありますが、離婚事件において合意する場合には基本的には財産分与(ないし慰謝料(←非課税)あるいはそれらが合わさったもの)として取り扱われますので、贈与税はかからないと言われています(この点が気になるのであれば、明確に「財産分与として」という名目にしておくことをお勧めします)。

 

 もっとも、このような取り扱いには例外もあり、以下の場合には贈与税が課せられます(相続税法基本通達9-8但し書き)。

 

①課税を免れる目的で、財産分与という名目で金銭を渡した場合

 →渡した金額全額が贈与として扱われ、課税される

②分与した金銭が、婚姻中の夫婦の協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮してもなお過当であると認められる場合

 →過当と認められる部分が贈与として扱われ、課税される(※)

  ※全額ではなく、あくまで過当な部分のみ

 

 【離婚前のお金の分与には注意が必要】 

 これに対して、離婚する前に金銭を分与した場合には、たとえ「財産分与」という名目であっても財産分与とはみなされず、単なる贈与となります。

 

 この場合、婚姻期間20年以上の夫婦間で行った居住用不動産取得資金の贈与の特例(2000万円の特別控除)が適用されない限り、110万円の基礎控除を超える部分について贈与税が課税されます。

 

 離婚前の金銭の分与についてこの特例の適用を受けるには、婚姻期間20年以上の夫婦であること、居住用不動産の取得資金の贈与であること、贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅を取得して実際に居住すること、その後も居住し続ける見込みがあること、といった各条件のほか、税務署への申告が必要です。

 

不動産の分与

 【不動産の場合、分与者側に譲渡所得税と住民税がかかる場合がある】 

 離婚時に不動産を分与した場合には、分与した側に譲渡所得税と住民税が課税される可能性があります(分与された側ではありません)。

 

 一般的な感覚だともらった側が課税されるのではないかと思いがちですが、譲渡所得税と住民税の場面では分与した者が不動産を時価で譲渡したとみなされることから、分与者側に課税の問題が生じます。

 

 もっとも、譲渡所得税が課税されるのは、分与したときの時価が取得費と譲渡費用とを超えた場合(値上がりした場合)ですので、不動産の時価が取得時の価格より値下がりしている場合には課税されません。

 

 また、分与時の不動産の時価が取得費と譲渡費用を超えてしまうケースでも、居住用不動産を財産分与するときは3000万円まで非課税とする特例の適用を受けられる可能性があります(対象が居住用不動産であることや確定申告が必要であること、先に離婚届を出してから財産分与を行う必要があるなどいくつか注意点があります)。

 

 【離婚前の不動産の分与は?】 

 これに対して、離婚する前に不動産を分与した場合には、譲渡所得税や住民税ではなく贈与税の問題が生じます。

 

 ただし、離婚前に居住用不動産を分与したときは、お金と同じように贈与税の特別控除の制度がありますので、要件をみたせば2000万円の特別控除と110万円の基礎控除の合計額までは贈与税がかかりません。

 

 【その他の税金(不動産の場合)】  

 その他、不動産を財産分与した場合には、名義変更に際して登録免許税がかかります(固定資産評価額×2%)。

 

 これに対して、不動産取得税については、夫婦共有財産の清算を目的として行われたものは基本的には課税されないようですが、それに当てはまらないケース(婚姻前に取得した不動産や相続で取得した不動産を分与した場合、慰謝料代わりや将来の扶養のために分与した場合)には課税されることがあるようですので、気になる方は自治体に確認しておいた方が良いと思います。

 

 以上のように、財産分与については様々な税金が問題となりますが、基本的にはお金のやりとりであれば問題は少ないと言えます。

 

 不動産を財産分与の対象とする場合は、これまで述べたとおり離婚後の分与・離婚前の分与のいずれのパターンでも税金の問題が生じる可能性がありますので、そのようなケースでは税理士さんへも相談することをお勧めします。

 

弁護士 平本丈之亮