財産分与で問題になるものとして、どの時点を基準に財産分与を決めるのかということがあります。
この点については原則として別居時に存在した財産が基準となりますが、ご相談を受けていると、実際に別居した時期よりも相当前から家庭内別居の状態だったので、家庭内別居が始まった時点を基準にするべきではないかというご質問を受けることがあります。
このような話は、別居時点を基準とするよりも家庭内別居を開始した時点を基準とした方が分与すべき額が少なくなるケースで生じるものであり、自分名義での財産を多く保有している側(多くの場合は夫)から呈される疑問ですが、このような主張がどこまで通るのかが今回のテーマです。
財産分与はそれまで夫婦が築き上げた財産を清算する制度であるため、財産形成に対する夫婦の経済的協力関係が終了した時点を基準に清算するのが公平です。
そして、夫婦が別居に至った場合、通常、その時点で夫婦間の経済的協力関係が終了するため、財産分与の基準時は原則として別居時とされています。
このように財産分与の基準時を別居時とする根拠は、通常は別居の時点で夫婦間の協力関係が終了するところに求められます。
そうすると、逆に言えば、たとえ同居していても既に財産形成に対する経済的協力関係が終了したといえる場合であれば、その時点を基準時とすることも不可能ではないことになります。
もっとも、曲がりなりにも同居を継続している場合に、家庭内別居であるとして夫婦間の経済的な協力関係が完全に終了していたと証明することは困難であるため、実際には家庭内別居との主張によって基準時を別居以前に遡らせることは難しいところです。
たとえば東京地裁平成17年6月24日判決は、「財産分与は、夫婦が協力して形成した財産を対象とするものであるから、本件においては、協力関係の終了したと考えるべき別居時点(平成15年○月○日)を一応の基準時として、財産分与の対象とすべきと考える。」「被告は、平成13年秋以降、原告において被告の食事を一切作らなくなった経緯を考慮し、同年○月の住宅ローンボーナス支払いの前の時点を基準時とすべき旨主張するが、平成15年○月○日までは同居しており、同居中は財産形成の協力関係は一応継続していたというべきであって、その間の財産の増減は、一切の事情として分与にあたり考慮すれば足りるというべきである。」と判断し、別居時点を基準時とする判断を下しています。
以上のように、家庭内別居を理由に財産分与の基準時を別居以前に遡らせるのはなかなか難しいところですので、この点について争う場合には単に家庭内別居であったという抽象的な話ではなく、夫婦間の経済的協力関係がなくなっていたことを裏付ける事実を丹念に拾い上げて主張・立証していくことが必要となります。
弁護士 平本丈之亮