最近の裁判例に見る不貞による(離婚)慰謝料

 

 弁護士として離婚問題を扱っていると必ず出会う相談に、不貞による離婚と慰謝料に関するものがあります。

 

 もっとも、不貞によって離婚する場合に慰謝料の請求ができることは皆さんご存知ですが、ではその金額はいくらが妥当なのかと言われると、なかなか分からないという方が多いと思います。

 

 正直に申し上げると慰謝料の金額は弁護士でも判断が難しいところなのですが、今回は、慰謝料を請求する側、あるいは請求された側の解決のヒントとして、最近の裁判例ではどの程度の金額が認められているのかを紹介してみたいと思います。

 

 なお、今回ご紹介する判決は、夫婦の一方が他方に対して、不貞行為により婚姻関係が破綻したことを理由に慰謝料を請求した事案をピックアップしたものであり、近時重要な最高裁判決の出た不貞相手に対する慰謝料請求や、婚姻関係が破綻に至らなかったケースについては参考になりません。

 

 また、あくまで当職が利用可能な判例集で見つけた範囲のものにすぎず、慰謝料の算定にはそれぞれの判決で認定された個別の事情が大きく影響していると思われますので、ここで紹介した判決が認めた金額がすべてのケースで妥当するとは限らないこともあらかじめお断りしておきます。

 

東京地裁平成30年2月22日判決

【慰謝料】

 150万円

 

【婚姻期間】

 不貞行為が開始されたと思われる時点で約17年

 

【不貞行為の期間】

 約9か月間

 

【離婚】

 未成立(ただし、双方離婚の意向あり)

 

【その他判決で指摘された事情(一部)】

①不貞行為者は不貞相手との結婚まで考えていたこと

 

②夫婦間に実子がいなかったこと

 

③他方配偶者側の言動や不貞発覚後の対応にも問題があったかのような指摘(詳細は割愛)

東京地裁平成30年2月1日判決

【慰謝料】

 200万円

 

【婚姻期間】

 約39年(ただし、そのうち約18年弱が別居期間)

 

【不貞行為の期間】

 離婚成立まで約18年(うち不貞相手との同居期間約12年)

 

【離婚】

 成立

 

【その他判決で指摘された事情(一部)】

①離婚調停において、約530万円の財産分与が約束されたこと

 

②不貞行為者が、別居後、約15年強で5000万円を超える生活費を支払ったこと

東京地裁平成30年1月12日判決

【慰謝料】

 200万円

 

【婚姻期間】

 約5年

 

【不貞行為の期間】

 不明確

 

【離婚】

 成立  

 

【その他判決で指摘された事項(一部)】

①原告が再婚であったこと

 

②不貞行為者が複数の者と不貞行為に及んでいたこと(少なくとも3名以上)

東京地裁平成30年1月10日判決

【慰謝料】

 150万円

 

【婚姻期間】

 婚姻関係破綻時までで約6~7年 

 

【不貞行為の期間】 

 約1ヶ月

 

【離婚】

 不明(ただし、婚姻関係が破綻したことは認定)

 

【その他判決で指摘された事情(一部)】

①不貞行為者が短期間で別居を決意するに至っており、不貞行為が破綻の決定的要因になったこと

 

②不貞行為者である実親が、自分の実子に対して、他方配偶者は実の親ではないという事実(養子縁組したこと)を明かしたこと

 

③不貞行為者は、離婚を切り出してからわずかの間に、秘密裏に家財等の財産を持ち出し、これによって他方配偶者は子どもとの別居生活を余儀なくされたこと

 

④不貞行為に及ぶ前の段階で婚姻関係は破綻に近づいていたこと

東京地裁平成28年11月8日判決

【慰謝料】

 200万円

 

【婚姻期間】

 婚姻関係破綻まで約4年弱

 

【不貞行為の期間】

 少なくとも約1年3か月

 

【離婚】

 成立

 

【その他判決で指摘された事情(一部)】

①不貞行為者が不貞相手の裸の写真を所持し、これを他方配偶者が発見したこと

 

②夫婦間に子どもがないこと

 

 以上、慰謝料についていくつかの裁判例をご紹介しましたが、離婚が成立している、あるいはまだ離婚に至っていなくても婚姻関係が破綻しているケースでは、判決で150~200万円程度の金額が認容される可能性があることはお分かりになったかと思います。

 

 もっとも、冒頭でもご説明した通り、慰謝料は個別の事情によって変わるため最終的には事案次第としか言いようがありません。また、不貞がからむ離婚問題は非常にデリケートであるため裁判に至らず協議や調停で解決することも多く、早期あるいは穏便な解決のためやむを得ず金額にこだわらない形で処理せざるを得ないこともあるため、具体的にどのような金額が妥当かは悩ましい問題です。

 

 一口に慰謝料といっても、金額のみならず、具体的な請求の仕方や支払いの方法、履行の確保など検討しなければならないことが多くありますので、不安がある方は弁護士へのご相談をご検討ください。

 

弁護士 平本丈之亮