債務整理のご相談を受けていると、既に時効期間が経過した後に消費者金融や債権回収業者が裁判所に支払督促を申し立ててきたというケースに遭遇することがあります。
この場合、決まった期限内にきちんと「督促異議」を申し立てて時効主張を行えば事なきを得ますが、中には裁判所からの手紙を無視してしまい、実際には時効が完成しているのにそのまま支払督促が確定してしまうという場合があります。
今回は、このような場合にそれでもなお消滅時効の主張ができるのかというのがテーマです。
この点については、支払督促には判決とは異なり「既判力」(=裁判所の確定判断と異なる主張を後になってからすることはできなくなる効力)がないため、消滅時効期間が経過した後で支払督促が確定してしまっても、改めて消滅時効を主張して支払義務がないと争うことは可能であるという見解があります。
ところが最近では、業者側において、債務者が完成した消滅時効の援用をしないまま支払督促が確定してしまった場合、もはや時効の援用はできなくなると主張してくる例があります。
しかし、この点について争点となった上記判決では、「時効が完成した後に・・・民法147条各号(注 改正前民法所定の時効中断事由)が生じても,時効が中断することはない」、「本件仮執行宣言付支払督促は,これが確定した後でも既判力がない以上,この確定前に完成した本件貸金債権の消滅時効を援用することにより,本件貸金債権が確定的に消滅する」として、時効完成後に支払督促が確定しても、依然として消滅時効の援用は可能であると判断しました。
また、このケースで業者側は、債務者が時効援用の機会を与えられておきながら援用しなかったにもかかわらず、その後に消滅時効の主張をするのは信義則に反するとも主張しましたが、裁判所は「そのような消極的な対応は,時効による債務消滅の主張と相容れないものとまではいえず,それゆえ,本件貸金債権の消滅時効の援用は,信義則に反するとはいえない」として信義則違反の主張も排斥しました。
支払督促の確定と時効の援用については業者側の主張を認める裁判例も存在するようですが、上記のように時効の主張を認める判決がありますので、もしもそのような事態に陥った場合でもすぐに諦めることなく、弁護士へ相談していただきたいと思います。
弁護士 平本丈之亮