離婚に伴う財産分与の具体的方法については、当事者間で合意する場合は基本的にどのような方法でも自由ですが、裁判所によって財産分与を命令してもらうときは一定の金額の支払いか、不動産等の名義そのものを変更する内容となるのが一般的です。
そして、このうち金銭の支払いについて相手の支払能力や支払意思に問題があったり、何らかの理由によって現時点ではなく将来の一定時点での支払いとせざるを得ないことが想定される場合には(将来の退職金など)、相手の支払いを確保するために相手名義の不動産に担保(抵当権)をつけたいというニーズがあります。
そこで今回は、財産分与の内容として、金銭の支払いとともに相手名義の不動産への抵当権の設定を命じた裁判例を一つご紹介します。
このケースでは、財産分与として一定額の清算金の支払いを命じるとともに、その清算金の履行の確保のため、併せて支払義務者名義の不動産に対する抵当権の設定を命じました。
「そして、原告が平成〇〇年〇月〇〇日に成立した家事調停に基づく婚姻費用の支払を一部怠っていること(第〇回口頭弁論調書参照)等を考慮し、右清算金の支払を担保するため、人事訴訟法一五条二項により、原告の取得する本件マンションに抵当権を設定し、その旨の登記手続を命じることとする。」
※この判決のいう人事訴訟法15条2項は旧法であり、現在は改正後の同法32条2項がこれに相当します。
この判決が金銭の支払いに加えて抵当権の設定まで命じたのは、相手が過去に裁判所で取り決めた婚姻費用の支払いを一部怠っていたということが主な理由でしたが、そのような場合でなくても、財産分与の方法として、たとえば退職金をそれが実際に支給された将来の時点で分与することを命じたり、扶養的財産分与として、一定期間、定期的に金銭を支払うことを命じるようなときは、相手が支払いをしない場合に備えて担保権を設定する必要がある場合もあります。
金銭給付に加えて相手の不動産に抵当権を設定するかどうかは、相手の財産状況や履行意思、金銭給付の内容(将来における給付や定期金給付など)といった事情を考慮して裁判所がその必要性を認めるかどうかにかかわると思われますが、そもそもこのような担保権設定は命じるべきではないとして反対する見解もあるようですので、求めれば必ず認められるというものではありません。
もっとも、相手の支払意思などに具体的な問題があったり必要性が高いようなときは、その必要性を積極的に示して抵当権の設定を求めるのも一つの方法と思われます。
弁護士 平本丈之亮