個人再生手続の利用を希望する場合、その時点で既に退職が間近に迫っているケースがあります。
もっとも、個人再生は債務の一部を免除してもらい、一定額を3~5年で支払うという手続であるため、このように退職の近い時期にある方が利用できるのかが問題となります。
個人再生の基本的要件の一つとして、継続的に又は反復して収入を得る見込みがあることが必要ですが、仮に退職が迫っていたとしても、退職後もそのような収入を得る見込みがあれば利用することは可能です。
もっとも、退職が近いことによって、個人再生の利用に次のような問題が生じる場合があります。
個人再生には、債権者の議決を要する「小規模個人再生」と、そのような議決を要しない「給与所得者等再生」の2つがあります。
このうち給与所得者等再生については、最低弁済額の計算において2年分の可処分所得以上であることを求められるため、小規模個人再生よりも最低弁済額が増える場合がありますが、単独で過半数の債権額を有する債権を持つ債権者がいるようなケースでは再生計画が否決されるリスクを避けるため、給与所得者等再生を選択せざるを得ないことがあります。
しかし、給与所得者等再生では、給料やこれに類する定期的な収入を得る見込みがあり、かつ、収入の変動の幅が少ないという条件が必要であり、収入に5分の1以上の変動があると変動の幅が大きいと判断されやすいことから、退職後の収入の見込みによっては給与所得者等再生の利用が難しくなる可能性があります。
個人再生で再生計画案を立案する場合、破産した場合に債権者に配当される額以上の支払いができることが必要(=清算価値保障原則)ですが、退職金が存在するとその支給見込額を最低弁済額の計算に組み込む必要があります。
通常、退職金についてはその時点における支給見込額の8分の1相当額で評価すれば足りるため、実際には退職金を考慮しても返済額に影響がないか、影響があっても微々たるものであることが多いのですが、退職がもう決まっているなど退職金の支払いが具体化したタイミングだと清算価値の計算においては4分の1として評価しなければなりません(なお、実際に支給されてしまった場合には全額で評価します)。
そのため、退職までの期間が近いと最低弁済額が跳ね上がってしまい、再生計画を履行できなくなったり、弁済計画の履行自体は可能であっても毎月の負担額が大きく上がってしまう可能性があります。
たとえば、負債総額が500万円のケースだと、その5分の1である100万円と本人の財産額を比べて高い方が最低弁済額になりますが、仮に財産は退職金しかなく、その時点で退職したら800万円の退職金が支払われる見込みという場合、退職金は8分の1の100万円と評価すれば足りるため返済総額は100万円になりますが、4分の1として評価しなければならない場合には返済総額は200万円になってしまうため、退職金の支払いがどの程度現実化しているのかによって負担額が大幅に変わることになります。
このように、退職間近であっても個人再生を利用できる可能性はあるものの、状況によっては様々な問題が生じることがあります。
そのため、個人再生の利用をお考えの方で退職が徐々に近づいている方については、時機を逸することで結果に大きな違いが生じる可能性があるため、決断のタイミングには注意を要します。
弁護士 平本丈之亮