夫婦の一方が自己名義の不動産を賃して賃料を得ていた場合、財産分与ではどう扱われる?

 

 離婚事件を扱っていると、夫婦どちらかの単独名義の不動産を賃貸して賃料収入を得ているケースに遭遇することがあります。

 

 この場合、財産分与について、不動産そのものの処理だけではなく、そこから発生した賃料の取り扱いを巡って対立することもあることから、今回はこの点をテーマにお話ししたいと思います。

 

 

・不動産が夫婦共有財産だった場合

 

 まず、問題の不動産が夫婦の実質的共有財産のケースですが、これについては、賃料が何らかの形で残っている場合と、既に残っていない場合とに分けてお話しします。

 

賃料が残っている場合

 賃料が預金や現金の形で残っている場合、賃料は夫婦共有財産から発生したものですから、残存している賃料は財産分与の対象となります。

 

 なお、どこまでの期間の賃料が清算対象になるかは何とも言えないところですが、財産分与の基準時を離婚時とすることについて当事者間に争いがなく、裁判所の記録上からもその時点で夫婦間の経済的協力関係が終了したと判断されたケースにおいて、離婚後に生じた賃料は対象にはならないとする裁判例(東京家裁平成28年3月30日審判)があることから、財産分与の基準時(原則として別居時)が終期となるように思われます(私見)。

 

賃料が残っていない場合

 これに対して、基準時に賃料が財産として残っていない場合、財産分与は基準時に存在する財産を分けるものですから、基本的には財産分与の対象にはならないと思われます(なお、賃料を浪費してしまった場合には、他の財産を分与する際の分与割合に影響する可能性はあります)。

 

過去に受領した賃料を、財産分与とは別に不当利得として請求できるか?

 以上のように、既に賃料が残っていない場合、夫婦共有財産から生じた過去の賃料を財産分与の対象として清算を求めるのは難しいように思われます。

 

 しかしながら、対象となる不動産が夫婦共有財産であるにもかかわらず、時期を問わずに過去の賃料すべてを名義人に独占させることには疑問もあり、財産分与の基準時(多くは別居時)に夫婦共有財産である不動産の持分がいわば顕在化したと解釈して、少なくとも別居から離婚までの間の賃料については、その持分割合の限度で返還されるべきではないか、という考え方もあり得ます。

 

 もっとも、財産分与は協議や審判などによってはじめて具体的な範囲や内容が確定するというのが裁判所の基本的な考え方であり(最高裁昭和55年7月11日判決)、それまでの間、配偶者の一方は夫婦共有財産について他方配偶者に対する具体的な権利を有さないと考えれば、結婚中に受領し、かつ、既に残っていない過去の賃料の一部を財産分与とは別に支払うよう請求することは難しいことになります。

 

 この点については、別居から離婚までの間に名義人が受け取っていた賃料の一部を不当利得として請求したケースにおいて、上記の最高裁判決の判断をもとに請求を否定した裁判例が存在しますが(東京地裁令和3年2月17日判決)、財産分与の具体的内容が協議や審判等によって形成されるという前提に立つ以上、個人的にもこのような請求は難しいのではないかと考えます。

 

 

・不動産が特有財産だった場合

 

 たとえば、配偶者の一方が親から受け継いだ不動産(特有財産)を賃貸に出していたような場合、その不動産は夫婦が築きあげたものではない以上、そこから発生する賃料は財産分与の対象にならないようにも思えます。

 

 しかし、特有財産である不動産からの収入であっても、その不動産の維持や賃料の発生に対して他方配偶者の貢献があったと認められれば、特有財産からの収入も財産分与の対象になり得ます。

 

 もっとも、どの程度の貢献があれば財産分与の対象になるのかや、対象になるとしてもどの程度の分与割合とするかは、その不動産の維持等に対する他方配偶者の関わり方によって異なるところであるため、明確な基準はなくケースバイケースの判断となると思われます。

 

弁護士 平本丈之亮