自動車保険の酒気帯び運転免責条項における「酒気帯び」の意味

 

 自動車保険には、通常、酒気帯び運転をした場合には保険金を支払わないといういわゆる「酒気帯び運転免責条項」が定められています。

 飲酒運転が許されないことは当然のことであり、今日、この点について異論を差し挟む余地はないと思いますが、酒気帯び免責条項が適用されると、その運転者は一切保険金の支払いが受けられないという重大な不利益を受けるため、酒気帯び免責条項の適用について、処罰対象となるアルコール濃度が検出された場合に限るなど制限を加えるべきではないかという議論があります。

 そこで今回は、この点について、過去の高裁判決においてどのような考え方が取られているのかをご紹介したいと思います。

 

名古屋高裁平成26年1月23日判決

 このケースでは、運転者側が「酒気を帯びて(道路交通法第65条1項違反またはこれに相当する状態)」との免責条項について、処罰対象である血中アルコール濃度0.3mg/ml程度、呼気アルコール濃度0.15mg/lが適用基準となるべきと主張したのに対して、裁判所は以下のように判示しています。

 

「(中略)酒に酔うことには個体差もあるし、通常の状態で身体に保有する程度にも個体差があるため、道路交通法は、酒に酔った状態、すなわちアルコ-ルの影響により正常な運転ができないおそれがある状態にあったもの(道路交通法117条の2第1号)及び身体に政令で定める程度以上にアルコ-ルを保有する状態にあったもの(同法117条の2の2第3号)に対してのみ、罰則を設けることにした。したがって,政令で定めるアルコ-ル濃度呼気1リットル中のアルコ-ル濃度0.15mg以上(血中アルコ-ル濃度0.30mg/ml)に達しない場合であっても、道路交通法65条1項に該当することになる。
 本件免責特約は、飲酒運転の根絶という世論が刑法や道路交通法の改正に影響を及ぼしたことを受けて、平成16年に、「酒に酔って正常な運転ができないおそれがある状態」で被保険自動車を運転しているときに生じた傷害や損害が免責の対象とされていたのを、「酒気を帯びて」と改定し、「酒気を帯びて」の意味について、道路交通法65条1項違反またはこれに相当する状態と注釈したものである。
 また、一般の保険契約者は、道路交通法の規定を具体的に知らなくても、常識的に見て、酒気を帯びているといわれる状態での運転が同法によって禁止され、かつ本件免責特約では、そのような状態での運転の事故が免責の対象となると理解するのが通常であって、政令の数値以上の酒気帯び運転中の事故に限り免責されると考えていない。そのように考えないと、酒気を帯びても、酒気帯び運転の罪で処罰されうる程度を超えなければ事故を引き起こしても保険金の支払を受けられることを期待するという不当な結論が導かれることになってしまう。
 このような本件免責特約改定の経緯や一般保険契約者の合理的意思を総合勘案するならば、呼気検査でアルコ-ルが通常保有する程度以上に検知されたり、顔色等により外観上認知することが出来る状態にあれば、道路交通法65条1項にいう酒気帯び運転に該当することになり、特段の事情がない限り、本件免責特約が適用されると解するべきである。」

 

大阪高裁令和元年5月30日判決

 このケースにおいても、「道路交通法第65条(酒気帯び運転等の禁止)第1項に定める酒気帯び運転またはこれに相当する状態」との免責条項について、処罰対象となるアルコール濃度が検出された場合に限って適用されるべきかどうかが争われ、裁判所は以下のように判断しました。

 

「酒気帯び運転の場合、運転者が身体に保有するアルコールの量が刑事罰の対象とならない程度であったとしても、認知力、注意力、集中力及び判断力等が低下し、反応速度が遅くなるなどして、交通事故の発生の危険性が高まることは公知の事実である。そして、酒気帯び運転の結果、数々の悲惨な事故が惹起されたことなどから、酒気帯び運転をしてはならないということは、社会全般の共通認識であり、公序を形成しているといえる。本件免責条項は、こうした点を踏まえた上で設けられたものと推認される。
 そうとすれば、本件免責条項にいう「道路交通法(昭和35年法律第105号)第65条(酒気帯び運転等の禁止)第1項に定める酒気帯び運転」とは、文言どおりに解するのが相当であり、刑事罰の基準と同程度のアルコールを身体に保有している状態で車両を運転する場合とか、酒気を帯びることにより正常な運転をすることができないおそれがある状態で車両を運転する場合などと限定的に解釈するのは相当とはいえない。
 そして、上述した本件免責条項の趣旨目的等に照らせば、本件免責条項にいう酒気帯び運転とは、通常の状態で身体に保有する程度を超えてアルコールを保有し、そのことが外部的徴表により認知し得る状態で車両を運転する場合を指すと解するのが相当である。
 もっとも、本件免責条項が適用されると、被保険者は、交通事故による損失を一切填補されないという過酷な状況に置かれることとなる。この点に、本件免責条項の趣旨目的が上述のとおりであることなどを併せ考慮すれば、酒気帯び運転をするに至った経緯、身体におけるアルコールの保有状況、運転の態様及び運転者の体質等に照らして、酒気帯び運転をしたことについて、社会通念上、当該運転者の責めに帰すことができない事由が存するなど特段の事情がある場合には、本件免責条項は適用されず、保険者は免責されないと解すべきである。」

 

 以上の通り、上記2つの高裁判決では、酒気帯び運転免責条項について処罰対象となる程度のアルコール濃度に達しなくても、およそ酒気を帯びて運転した場合には原則として保険金は支払われないというスタンスを取っています(他の裁判例として仙台高裁平成31年2月28日判決、東京地裁平成23年3月16日判決等)。

 

 もっとも、上記2つの高裁判決でも、特段の事情がある場合には酒気帯び免責条項が適用されないことがあると述べています。

 このうち名古屋高裁の判決では、その具体的な判断要素について触れられておらず、最終的には証拠上、運転者が酒気を帯びて運転していたとまで認めることができないという理由で免責条項の適用が否定されているため、どのような場合が特段の事情にあたるかは判然としません。

 これに対して大阪高裁の判決では、特段の事情の有無について「酒気帯び運転をするに至った経緯、身体におけるアルコールの保有状況、運転の態様及び運転者の体質等に照らして、酒気帯び運転をしたことについて、社会通念上、当該運転者の責めに帰すことができない事由が存するなど」の場合であるとし、運転者が前日の晩に少なくとも500ミリリットル入りの缶ビール1本と焼酎の水割りを3杯飲み、翌日午前8時30分頃に車両を運転して事故を起こしたこと、飲酒検知において呼気1リットルにつき0.06ミリグラムのアルコールが検出されたという事実関係について、運転者は前日の晩に決して少量とはいえない程度の飲酒をしたのであるから、翌朝、身体に相当程度のアルコールを保有していることを認識することが可能であり運転を控えるべきであったとして、免責条項の適用を否定すべき特段の事情は認められないと判断しています。

 このケースの運転者がいつ頃まで飲酒していたかは不明ですが、「前日の晩」とされていることからすると少なくとも事故発生まで8時間以上は経過していたと思われますので、飲酒から相当程度の時間が経過したという事情では免責条項の適用は否定できないという判断が背景にあると思われます。

 この2つの高裁の判決を前提にすると、ケースによっては救済される余地があると一応言えそうではあるものの、実際に免責条項の適用を否定することは非常にハードルが高いと言わざるを得ませんので、翌日に運転を控えている場合の飲酒にはくれぐれも注意が必要です。

 

弁護士 平本丈之亮