財産分与をやり直すことはできるか?

 

 離婚の際に財産分与の合意をしたが、いろいろな事情によってやり直したいというご相談を受けることがあります。

 では、このようなやり直しは可能なのか、というのが今回のテーマです。

 

当事者で合意してやり直すことは可能

 まず、当事者双方が合意によって財産分与をやり直すことは特段禁止されていませんので、この場合は可能です。

 ただし、すでに財産の移転がなされた後に改めて財産の移動があった場合、財産分与としての資産移動ではなく元夫婦の間における単なる贈与であると判断され、課税される可能性があり得ます(遺産分割協議のやり直しでも同じ問題があります。)ので、そのようなやり直しをする場合には事前に税理士に相談しておくのが無難です。

 

相手が約束を守らない場合に合意を解除できるか?

 それでは、いったん取り決めた財産分与の内容を相手が守らなかった場合、その財産分与の合意について債務不履行を理由に解除し、やり直すことはできるでしょうか?

 通常、財産分与の約束を守らない場合には訴訟や強制執行により解決を図ることになりますが、たとえば、早期にまとまった財産を受領することを優先し、本来もらえるはずだった内容よりも大幅に減額した内容で財産分与の合意をしたような場合には、合意自体をなかったことにしたいというニーズがあるため問題となります。

 この点については、調べた範囲ではこれを認める見解もあるものの、下級審ですが以下のように否定した裁判例がありましたので紹介します。

 

福島地裁昭和49年2月22日判決

「財産分与契約は、身分法上の法律行為であり、夫婦財産関係の清算と離婚後の扶養を目的とし、法律によって認められた財産分与請求権の内容を確定するものである。(中略)民法第五四一条による契約解除の制度は、終局的に自己の給付義務を免れることによって取引の自由を回復しようと図るものであるといえるが、このような要請は、財産分与には存しないものと考えられる。なぜならば、財産分与契約の解除を許すとしても、民法第七六八条によって認められた財産分与の義務そのものが消滅するものではなく、財産分与をやり直すことになるだけだからである。そして、複雑な財産分与のやり直しは望ましいことではなく、前記制度の趣旨に鑑み、財産分与の効力の安定を図ることが強く要請されるといわなければならない。このように考えると、財産分与契約につき民法第五四一条による解除は許されないものと解するのが相当である(なお、財産分与の意思表示に錯誤または詐欺・強迫等の瑕疵が存する場合は、別に検討を要するものと考える。)。」

 

合意に錯誤がある場合

 そのほか、財産分与の合意に重要な錯誤があり、その錯誤がなければそのような合意はしなかったといえる場合には、その合意は無効(2020年4月1日以降のものについては取消)の主張が可能であるため、財産分与のやり直しができる場合があります。

 

最高裁平成元年9月14日判決

「上告人において、右財産分与に伴う課税の点を重視していたのみならず、他に特段の事情かない限り、自己に課税されないことを当然の前提とし、かつ、その旨を黙示的には表示していたものといわざるをえない。そして、前示のとおり、本件財産分与契約の目的物は上告人らが居住していた本件建物を含む本件不動産の全部であり、これに伴う課税も極めて高額にのぼるから、上告人とすれば、前示の錯誤かなければ本件財産分与契約の意思表示をしなかったものと認める余地が十分にあるというべきである。」

 

※差戻審の東京高等裁判所平成3年3月14日判決では財産分与の錯誤無効が認められました。

 

 上記判決のほか、財産分与の対象財産である株式の価値について錯誤があったとして、裁判上の和解のうち解決金と清算条項を定めた部分を無効としたものもあります(東京地裁18年10月16日判決)。

 

本人の自由意思に基づかない場合

 たとえば、暴力や脅迫などによって相手を支配し、相手の自由意思を奪ったうえで財産分与の合意を結ばせたようなケースの場合は当然ながらそのような合意に効力はありません。

 このようなケースでは、過大な支払義務を課せられるパターンのほか、著しく低額ないしまったく分与をしない内容の合意をさせられるパターンがありますが、前者については以下のような裁判例があります。

 

仙台地裁平成21年2月26日判決

「(中略)本件財産分与合意書及び本件慰謝料等支払約束書は,いずれも,原告が,被告の不貞行為を責める態度に終始し,被告に対する暴力を繰り返し,被告を自己のコントロール下に置いた上で,被告をして原告の指図どおりの内容で本件財産分与合意書及び本件慰謝料等支払約束書を作成させたものであって,被告の自由意思に基づいて作成された文書ではないと認めるのが相当である。したがって,本件財産分与合意書及び本件慰謝料等支払約束書に表示された被告の意思表示は,意思表示としての効力を有さず,いずれも無効というべきである。」

 

合意の効力がないことが確定した時点で離婚から2年が経過している場合

 財産分与は離婚から2年以内に請求をする必要があり、これは途中でその期間を止めることができないもの(除斥期間)と考えられています。

 そうすると、財産分与の合意が裁判所で争われ、合意の効力が確定的に否定された時点ですでに2年が経過しているというケースもあり、その場合に改めて財産分与の請求ができるのか、ということが問題となります。

 この点について、先ほど紹介した最高裁判決の差戻審である東京高等裁判所平成3年3月14日判決では、民法161条を類推適用して、除斥期間が経過後も一定期間は財産分与の請求が可能であるとしています。

 

東京高等裁判所平成3年3月14日判決

「本件財産分与契約の錯誤無効が認められた場合には、当事者間で改めて財産分与について協議を行うことになるが、右協議が調わないとき又は協議をすることができないときに家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができるかどうかについては、右請求の除斥期間を離婚の時から二年と定める民法七六八条二項ただし書の規定との関係で疑問がないではない。しかし、右規定の趣旨と、本件事案の下において被控訴人に右協議に代わる処分の請求をあらかじめ行わせることは期待できないことを考えると、時効の停止に関する民法一六一条の規定を類推適用する余地があり、本件財産分与契約の錯誤無効が確定した後に行う右協議に代わる処分の請求が前記除斥期間の定めによって妨げられるものとは解されない。」

 

 なお、民法161条は改正によって猶予される期間が2週間から3か月に変更されており、この東京高裁の見解に従った場合、改正民法施行(2020年4月1日)後に合意したものについては、効力否定から3か月間は時効の完成が猶予されると思われます。

 他方、改正民法が施行される前に合意し、施行後に合意が否定された場合にどちらの期間が適用されるのかは判然としませんので、そのようなレアケースの場合には念のため2週間以内に裁判所に対して財産分与の請求を行っておくのが無難だと思います。

 

弁護士 平本丈之亮

 

 

離婚のご相談はこちら
メール予約フォーム

 

019-651-3560

 

 【受付日時】 

 お電話:平日9時~17時15分

 メール予約:随時

 

 【営業日時】 

 平日:9時~17時15分

 土曜日曜:予約により随時