自宅を残して債務の一部を減免してもらうことのできる債務整理の手続として、「個人再生」というものがありますが、実は、個人再生には「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」という2つの手続が存在します。
今回は、この2つの手続の違いや、どちらの手続を先に検討するべきかなどについてお話しします。
小規模個人再生では再生債権者の書面決議の制度があり、債権者の過半数あるいは債権額の過半数の反対があった場合には不認可になります。
これに対して、給与所得者等再生では、このような書面決議が不要とされています。
小規模個人再生では、①債権額に応じた一定の金額(多くは100万から総債権額の20%程度までの間)か、②自由財産を除いた資産総額のいずれか高い方が最低弁済額になります(→「個人再生をすると、負債はどれくらい減るのか?~個人再生②・最低弁済額~」)。
これに対して、給与所得者等再生の場合は、最低弁済額を計算する際、①②の条件に加えて、③2年分の可処分所得以上の金額であることが必要とされています(可処分所得要件)。
給与所得者等再生は、給与やこれに類する定期的な収入があり、かつ、その変動が少ないことが要件となっています。
そのため、個人事業者や、給与所得者でも過去2年以内に大きな変動(概ね2割程度の変動)があるようなケースだと、収入の定期性や安定性を欠くとして給与所得者等再生の利用ができないことがあります。
なお、ここでも求められているのはあくまで収入が定期的・安定的であることであり、給与であることまでは必要ではありません。
そのため、たとえば年金収入や家賃収入も定期的に入ってくるもので変動が少なければ要件をみたす可能性がありますし、個人事業者であっても、給与生活者と変わらないような収入状況であればケースによっては要件を満たす場合もあり得ます。
給与所得者等再生の場合、いわゆるモラルハザード防止の観点より、過去7年以内に破産免責を受けている場合、過去7年以内に給与所得者等再生の認可決定を受けている場合、過去7年以内にハードシップ免責を受けている場合には、改めて給与所得者等再生を利用できないという制限があります。
小規模個人再生については、そのような縛りはありません。
給与所得者等再生は、再生計画の認可について債権者の議決を必要としないという独自のメリットがある一方で、安定的かつ変動の少ない収入を得ているという要件が必要であり、2年分の可処分所得以上の金額を支払う必要があるため小規模個人再生よりも最低弁済額が高くなりがちです。
また、実務上、小規模個人再生で不同意の意見を提出する債権者は少なく、仮に不同意を出しそうな債権者がいたとしても、それが過半数を超えない場合には不認可になることはありません。
そのため、債権者数あるいは債権額の過半数の不同意が見込まれるような場合を除き、債務者としてはまずは小規模個人再生を検討した方がよいと思います(当事務所でもほとんどが小規模個人再生です)。
実際、裁判所の利用件数としても以下の通り圧倒的に小規模個人再生が利用されていますが、これは上記のような理由からと思われます。
小規模個人再生 12,764件 給与所得者等再生 830件
弁護士 平本丈之亮