加害者から物損事故扱いにしてほしいと言われたらどうするか~交通事故⑫~

 

 交通事故の被害に遭った際、ケガの程度が軽く、加害者側から治療費は負担するから物損扱いにしてほしいと言われて物損で届け出たが大丈夫だろうか、というご相談を受けることがあります(似たような問題として、事故直後は痛みがなかったので物損で届出したが、その後、痛みが出てきてしまったというご相談もあります)。

 このような場合にはどう対応をして良いか迷うことがあると思いますので、今回はそのような申し出がなされる理由や物損と人身の違い、具体的な対応方法などについてお話したいと思います。

 

なぜ物損事故扱いを望む加害者がいるのか?

 そもそも、なぜ交通事故で加害者側が物損扱いを望むかといえば、加害者側には以下のような事情があるからです。

 

①他に道交法違反(飲酒・スピード違反等)の事実がなければ、違反点数が加算されない

②他に道交法違反の事実がなければ刑事処分がない

③人身扱いになると、職場でペナルティが発生する(職場によりけり)

 

物損事故として届け出た場合のリスク

 このように、物損扱いで交通事故を処理をすることは加害者にとっては意味がある場合がありますが、他方、被害者には特にメリットはなく、かえって以下のようなリスクがあります。

 

 ①治療費等の支払いに影響が出る可能性 

 物損扱いとする以上、加害者側が怪我の治療費や慰謝料を支払ってくれない可能性があります。

 もっとも、相手方がきちんと任意保険に入っていて怪我の発生も争わない場合は、警察への届出が物損扱いのままでも対応してもらえることがあり、実際に過去に受けた交通事故相談でも、警察には物損扱いで届け出たものの相手方保険会社が人身として扱ってくれ、治療費を内払いしてくれているというケースがありました。

 しかし、これはあくまでも相手方がケガの発生を認めている場合のことですし、相手方の保険会社に人身扱いにしてもらえても、「はじめ物損で届け出たということはケガの程度はさほど重くないはずである。」と判断されて治療費の支払期間を制限されたり、後の示談交渉で慰謝料算定の基準となる治療期間を争われる、などといった不利益を被る可能性は否定できません。

 交通事故が起きた場合に当初物損で届け出るケースはむち打ちや腰の捻挫ですが、実際に交通事故相談にあたっていると、たいした怪我ではないと思っていたがなかなか治らなかったり後遺障害が残ったというケースも多く、事故当初の判断が後で大きく影響することがあるため注意が必要です。

 

 ②実況見分調書が作成されない 

 物損の場合、警察は交通事故の状況に関する実況見分調書を作成しません。

 そのため、後の示談交渉で過失割合について争いが生じても、当時の事故状況に関する客観的証拠が乏しく、過失割合の交渉で不利になる可能性があります。

 

物損から人身への切り替えはできるのか?

 このように、実際には交通事故でケガをしているのに物損として届け出ることはまったくお勧めできませんが、すでに物損で届け出てしまったという場合でも一定の期間内であれば警察に届け出ることにより人身に切り替えてくれる場合があります。

 もっとも、当然ながらいつまでも切り替えが可能というわけではなく、明確な期限はないもののせいぜい1週間から10日程度ではないかと言われることが多い印象です。いずれにせよ、日数が経ちすぎると事故との因果関係が不明であるとして切り替えを受け付けてくれないようですから、人身への切り替えを希望する場合は速やかに診断書を取得し、手続きを行うのが賢明です。

 これまでお話したとおり、物損で届け出てしまったときでもリカバリーがきく場合はありますので、まずは早急に診断書をとって警察に相談に行き、今後の対応について分からないことがあった場合は弁護士への交通事故相談をご検討いただきたいと思います。  

 

弁護士 平本丈之亮