養育費の減額請求についてのお話

 

 離婚の際や離婚後に養育費について取り決めをしても、その後の事情の変更によって養育費の減額や免除を求められたり、逆に求めたりするケースがあります。

 

 今回は、このような申し出があった場合の対応や、申出をする場合の注意点などについてお話しします。

 

一度取り決めた養育費もあとで変わる可能性がある

 養育費の支払期間は通常長期間であるため、一度養育費の額を決めても、その後の身分関係や経済状況の変化によって養育費の金額が変わることがあり(民法766条3項)、典型的な例だと、支払義務者の大幅な収入減少(経済状況の変化)や、権利者の再婚相手と子どもの養子縁組(身分関係の変化)などがあります。

 

養育費を減額(免除)してもらうための手続は?

 このように、養育費については、当初の取り決めが実体に合わなくなった場合に、事後的に金額が変更されることが予定されていますが、養育費の減額や免除を求める場合、まずは当事者間で協議が行われることが多いと思われます。

 

 しかし、当事者間で金額の変更について折り合いがつかなかった場合には、金額の変更を求める側が家事調停を起こし、調停がまとまらなければ、最終的には審判手続によって裁判所が決めるという流れを辿ることが通常です。

 

金額はいつから変更されるのか?

 この点については、最終的には裁判所の合理的・裁量的判断によって決められますが、調停や審判を申し立てたときを原則としつつ、内容証明郵便などで金額変更の意思を相手方に明確に示した場合には、その時点まで金額変更の効果が遡るという考え方が有力ではないかと思います。

 

 たとえば、東京高裁平成28年12月6日決定では、義務者が別件の面会交流審判事件において、子どもの養子縁組を理由として養育費の支払義務が消滅したことを主張し、実際に支払いを打ち切ったあとに養育費免除の調停を申し立てたというケースで、支払い打ち切りの時点で金額を0とする意思が明確になったとしてその時点から養育費の支払義務がなくなったとし、養育費免除の調停の申し立てよりも前の段階で金額変更の効果が生じることを認めています。

 

養育費の減額(免除)を求められた場合の対応

 先ほどの高裁決定の考え方からすると、養育費の減額や免除を求められた場合、権利者側としては慎重な対応が必要となります。

 

 たとえば、減額ないし免除の申し出について納得がいかないとして拒否し、義務者がやむなく従前の金額を払っていた場合、その後に調停や審判を起こされると、事案によっては、過去に受領していた養育費をまとめて返還しなければならなくなる可能性があります。

 

 したがって、このような申し出があった場合には、義務者が減額や免除を求めている理由やその根拠について詳しく聞き取り、必要に応じて弁護士に相談するなどして、以前と同じ金額をそのまま受け取って良いかどうかを検討する必要があります。

 

 特に、再婚して子どもと再婚相手が養子縁組した場合には、子どもの扶養義務は第一次的には再婚相手が負担し、実親である義務者の扶養義務は二次的なものにとどまると考えられていますので(→「親権者の再婚と養育費の関係~離婚⑧・養子縁組した場合~」)、注意を要します。

 

養育費の減額(免除)を求める側の注意点

 他方、養育費の減免を求める側も、一方的に減額するような対応にはリスクがあります。

 

 裁判所で最終的に養育費の減額が認められなかった場合には、未払分があるとして後でまとめて請求される危険があるからです。

 

 先ほどの高裁決定のように一方的に打ち切ったとしても責任を負わずに済むケースもあり得るところですが、本当に支払義務が減ったりなくなるのか、減額されたりなくなるとしてどの時点から支払義務が変わるのかという判断は諸般の事情から裁判所が判断するものであり、必ずしも予想通りになるとは限りません。

 

 そのため、減額や免除を求める側としては、可能であれば従前の支払いを継続しながら協議を行い、権利者側が応じない場合には速やかに調停を起こすなどの対応がリスクが少ないと思われますし、迷った場合にはやはり弁護士に相談することをお勧めします。

 

弁護士 平本丈之亮