離婚前に渡した財産は、離婚の際にどのように扱われるのか?

 

 夫婦間においては、婚姻中、配偶者の一方が他方に財産を渡すことがありますが、離婚のご相談をお受けしていると、離婚の条件を協議する際に、結婚中の財産の移転をどのように処理するかを巡りトラブルになることがあります。

 

 そこで今回は、離婚の前に渡した財産が離婚の際にどのように扱われるのかについてお話しします。

 

財産分与として渡したものは、離婚の際に清算される

 

 離婚前に渡した財産が夫婦の財産関係の清算である財産分与の趣旨であることが明らかな場合、前渡しした財産は最終的な財産分与の場面で清算されます。

 

 具体的には、夫婦の共有財産を全て合算して必要な限度で負債を控除し、それに取得割合を乗じて、そこから離婚前に前渡しを受けた分を控除するというやり方です(このような計算方法をとっている裁判例として、東京家裁平成30年3月15日判決)。

 

財産分与の前渡しをするときは、その趣旨を明確にしておくべき

 このように、離婚前に渡した財産が財産分与の前渡しであることが明確であれば、上記のように最終的な分与額の計算において考慮されることがあります。

 

 もっとも、ある財産を離婚前に前渡しする場合、そのお金の移動の趣旨はいくつかの可能性があり、それが財産分与の趣旨ではないと判断された場合には、このような控除計算はなされないことになります。

 

 たとえば、離婚前の別居段階で婚姻費用の未払いが長期間続いており、その清算として、離婚前にまとめて過去の婚姻費用を支払ったというケースが典型例ですが、このような未払婚姻費用の清算は財産分与とは性質上別個のものであるため、この場合は財産分与の計算上、考慮されません。

 

 実際のケースとしても、さきほど紹介した東京家裁平成30年3月15日判決では、離婚前に前渡しした金銭が財産分与の前渡しであるのか、それとも過去の未払い婚姻費用の清算であったのかが争われていますが、結論的には、前渡しした側が保育料や光熱費等を負担していたことなどの事情から、渡したお金は婚姻費用の清算ではなく財産分与の前渡しであったと認定されています。

 

 以上のように、具体的な離婚協議をする過程において、離婚成立前に一定の財産を相手に動かすことは、その趣旨が曖昧だと後々問題となることがあります。

 

 そのため、前渡しする必要がある場合には、その金銭の移動がいかなる趣旨であるかについてきちんと合意したうえで、書面等で明らかにしておく必要があります。

 

離婚が問題になる前に贈与した財産は?

 

 以上のように、離婚問題が浮上してから財産を移転するというのではなく、離婚が問題になる以前に、配偶者の一方が相手に財産を贈与することもよくみられます。

 

財産分与の前渡しとは評価されない

 このようなケースでは、贈与した側から、その贈与財産も財産分与の計算をする上で考慮してしてほしいという希望が出されることがありますが、そもそも離婚が現実的な課題として意識されていない段階での財産移転であれば、財産分与の前渡しとは評価できませんので、このような理屈で考慮してもらうことは難しいと思われます。

 

夫婦共有財産を贈与した場合、離婚時に清算の対象にしてもらえるか?

 また、贈与の対象となった財産が夫婦共有財産であった場合には、単に共有財産の名義や占有を相手に移転しただけにもみえるため、離婚時にこれを財産分与の対象として扱うべきではないか、具体的には、支払うべき金額からその分を控除したり、逆に相手が取りすぎであるため一部返還してもらいたい、という希望が出ることもあります。

 

 この点については、贈与当時の当事者双方の意思などにかかわるためケースバイケースの判断となりますが、当事者の意思によって確定的に財産の帰属を決めたのであれば、そのような贈与は清算的要素をもち、贈与対象財産はその時点で特有財産になるため財産分与の対象にはならない、と判断されることがあります。

 

 たとえば、大阪高裁平成23年2月14日決定では、不貞行為が疑われる状況下で配偶者の不満を抑える目的のもと不動産の持分を移転したというケースにおいて、そのような持分移転は清算的要素をもち、贈与の時点で不動産は特有財産になったと判断されています。

 

弁護士 平本丈之亮