相続法の改正について・その3~自筆証書遺言の方式の緩和・遺言書保管制度

 相続法の改正に関するコラムも3回目ですが、今回で最後となります。

 今回取り上げるのは、自筆証書遺言に関する改正です。

 


 第1回(相続法の改正について・その1~配偶者(短期)居住権

 第2回(相続法の改正について・その2~親族の特別の寄与制度 


 

<自筆証書遺言の方式の緩和(財産目録の代書など)>

 これまでの自筆証書遺言は、「自筆」とあるとおり、遺言書の全文・日付・氏名を自分で書いて印鑑を押す必要があり、代書やパソコンで遺産の目録を作成することも認められていませんでした。

 しかし、このような取り扱いだと、遺産がいくつもある場合に目録を作るのが大変であり、遺言書を作成したいという人のニーズに必ずしも応えられていない部分がありました。

 そこで、今回の改正によって自筆証書遺言の方式が一部緩和されることになりました。

 

 具体的には、財産目録について自筆が不要となり、目録をパソコンによって作成することや代書も良いことになったほか、目録を作る代わりに、不動産の全部事項証明書(いわゆる登記簿謄本)や通帳のコピーを遺言書に添付しても良いことになりました。

 なお、代書やパソコン作成などが可能となるのはあくまで遺産の目録だけであり、それ以外の部分(本文・日付・氏名)はこれまでと同じく自署が必要ですので、遺言書のすべてを代書やパソコンで作ることはできません(体力の衰えなどによって自署できないケースでは、これまでどおり公正証書遺言が適しているといえます)。

 また、このような取り扱いを認めると、以前よりも遺言書の偽造の危険が高まりますので、そのようなことが起きないよう、遺産目録や添付した通帳などの各ページにはそれぞれ自署と押印が必要とされています。

 

<自筆証書遺言の保管制度>

 自筆証書遺言は、自分で作ることができ費用もかからないため、公正証書遺言と比べて作りやすいタイプの遺言です。

 しかし、作りやすい反面、公正証書遺言に比べ、紛失したり、相続人の一部によって隠されたり破棄されてしまう危険性も高く、作成した遺言書をどのように保管するかについては課題がありました。

 これまでは、自宅で保管する方法以外にも、たとえば遺言書を信頼できる推定相続人に託したり、金融機関の貸金庫に保管しておくという対応がなされていましたが、今回、このような方法に加えて、自筆証書遺言を法務局に保管してもらえるという制度ができました(法務局における遺言書の保管等に関する法律)。 

 この制度は、法務局内に設置される「遺言書保管所」に本人が来所し、保管の申請をすることによって利用することができますが、この制度を利用した場合の特徴は以下のとおりです。

 

1 家庭裁判所の検認手続が不要となる

 この制度を利用していない自筆証書遺言は、これまでどおり家裁での検認が必要ですので、この制度を利用すると、相続発生後の手続が少し軽くなります。

 

2 遺言者の死亡後、相続人(や受遺者)が全国の遺言書保管所において、遺言書が保管されているかどうか調べること(遺言書保管事実証明書の交付請求)、遺言書の写しを請求すること(遺言書情報証明書の交付請求)、遺言書の閲覧を請求することができる

 これにより、遺言書の存在や内容が不明になるリスクがある、という自筆証書遺言の弱点をカバーすることができます。

 

 なお、遺言書の保管申請や閲覧請求、遺言書保管事実証明書・遺言書情報証明書の交付請求にはそれぞれ手数料が必要ですが、具体的な金額はまだ決まっていないとのことです(2019年3月現在)。

 

<施行日>

 自筆証書遺言の方式の緩和は、2019年1月13日から施行されています。

 遺言書の保管制度については、2020年7月10日からのスタートです。

 

弁護士 平本 丈之亮

 

 

 

 

 

 

相続法の改正について・その2~親族の特別の寄与制度

 前回(「相続法の改正について・その1~配偶者(短期)居住権」)に引き続き、今回も相続法の改正についてお話していきます。

 今回取り上げるのは、親族の特別の寄与制度(改正民法第1050条)についてのお話です。

 

<親族の特別の寄与制度とは?>

 この制度は、相続人以外の親族が、亡くなった方(被相続人)に対して無償で療養看護などの特別の貢献をし、そのことによって遺産が維持されたり増えたような場合に、「特別寄与料」を請求することを認める制度です。

 

<要件①~親族(相続人などを除く)>

 この制度の対象となるのは、相続人(・相続放棄者・相続欠格者・排除者)以外の、被相続人の「親族」(=6親等内の血族・配偶者・三親等内の姻族(民法752条))です。

 相続欠格者や排除者などはレアケースだと思いますので通常は相続人以外の親族が対象ということになりますが、具体的には以下のような場合が想定されています。

 

例1 被相続人=義理の母親 特別寄与者=長男の妻 

 長男である夫の死亡後、長男の妻が義理の母親の面倒を見ていたケース(夫が義母より先に亡くなると、妻は義母の相続について相続権がない)

 

例2 被相続人=兄 特別寄与者=妹

 兄には妻子がいたが折り合いが悪かったので別居しており、代わりに妹が兄の面倒を見ていたケース(兄の相続人は妻子のため、妹は兄の相続について相続権がない)

 

例3 被相続人=義理の父親 特別寄与者=妻の連れ子

 義理の父親が母と結婚したが、母の連れ子とは養子縁組していなかったところ、母の死後に連れ子が義理の父親の面倒を見ていたケース(母の連れ子には義理の父親の相続権はない)

 

【内縁の妻は対象外】

 また、法律で「親族」の範囲が決まっているため、内縁の妻が内縁の夫の母親の看病をしていた場合にはこの制度の対象にはなりません。

 

<要件②~療養看護その他の労務を提供したこと>

 特別寄与料が認められるには、被相続人のために療養看護その他「労務を提供したこと」が必要です。

 労務の提供が必要ですので、金銭的に援助した場合は対象になりません(この点で、相続人自身の「寄与分」の制度とは異なります)。

 

<要件③~無償であること>

 労務の提供は「無償」であることが必要です。

 したがって、面倒を見る代わりに金銭的な対価を得ていた場合(生活費を負担してもらっていた場合など)や、被相続人の所有する建物に住まわせてもらっていたなどの場合には対象にならない可能性があります。

 

<要件④~財産の維持又は増加に「特別の寄与」をしたこと>

 「特別の寄与」、すなわち、親族間で通常期待される程度を超える貢献をしたことが必要であり、ここでいう「特別」とは、貢献の程度が一定程度を越えることを意味するとされていますが、どの程度のことをすれば特別の寄与をしたことになるかは現時点では何とも言えないところです。

 また、たとえ無償で労務を提供していたとしても、財産の維持・増加に寄与したとはいえない場合には、この制度による特別寄与料の請求はできないことにも注意が必要です(たとえば、交通事故で死亡し、多額の賠償金が支払われた場合などが考えられます)。

 

<特別寄与料は誰にどうやって請求するのか?>

 特別寄与料は、相続人に対して請求できる権利ですが、それぞれの相続人に対しては、法定相続分(あるいは指定相続分)の割合で請求することができます。

 具体的な請求方法について、法律では、まずは相続人と話し合いをすることとしていますが、折り合いがつかないときやそもそも話し合いができないときは、家庭裁判所に協議に代わる処分を求める審判の申立をすることができ、家庭裁判所に金額を決めてもらうことができます。

 なお、この申立は、遺産分割と同時に行う必要はありません(遺産分割の審判が係属しているときに、裁判所の裁量で遺産分割と同時進行とされる場合はあると思いますが、あくまで遺産分割とは別の問題です)。

 

<特別寄与料には上限がある>

 特別寄与料は無制限に認められるものではなく、【相続開始時の遺産額-遺贈の額】が上限となっています。

 したがって、たとえば相続開始時の遺産が全体で1000万円だったが、その中から700万円を誰かにあげるという遺言があった場合には、特別寄与料の上限は300万円となります。

 要するに、親族の特別寄与料よりも、被相続人の最後の意思である遺贈の方が優先されるということです。

 

<期間制限に注意>

 特別寄与料の請求は、①又は②のいずれかまでに家裁に申立をすることが必要ですが、期間が短いので注意を要します。

 

 ①相続開始及び相続人を知ったときから6ヶ月 

 ②相続開始から1年間

 

<施行時期>

 この改正については、2019年7月1日が施行日となっています。

 

弁護士 平本 丈之亮

 

相続法の改正について・その1~配偶者(短期)居住権

 平成30年7月6日、相続に関する法律を改正する法律案が2つ成立しました(「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」・「法務局における遺言書の保管等に関する法律」)。

 この改正の内容は多岐にわたりますが、改正によって相続手続に大きな変更がありましたので、これから数回に分け、重要な改正についてご説明していきたいと思います。

 今回は、第1回目として、「配偶者居住権」と「配偶者短期居住権」についてご説明したいと思います。

 

<配偶者居住権とは?>

 配偶者居住権とは、夫や妻が亡くなったときに、配偶者である妻あるいは夫が被相続人所有の建物に住んでいた場合、その建物を無償で使うことができるという権利です(固定資産税など通常の経費は負担が必要です)。

 

【どのような場合に権利が発生するのか?】

 配偶者居住権が発生するケースは以下の場合とされています。

 

①遺産分割手続(協議・調停・審判)

②遺贈・死因贈与

 

 このように、配偶者居住権は相続の発生によって当然に取得できるというものではなく、被相続人の意思表示によるか(遺贈・死因贈与)、相続人との間の話し合い(協議・調停)、あるいは裁判所の判断(審判)が条件となっています。

 また、家裁での審判の場合は、①共同相続人がこの居住権を付与することについて合意している場合、②配偶者が居住権の取得を希望し、かつ、建物を取得することになる者の不利益を考慮してもなお配偶者の生活維持のため特に必要な場合のいずれかに限定されており、ハードルが高くなっています。

 

【共有物件の場合は?】

 建物が元々被相続人と第三者との共有だった場合には、第三者の負担が大きいため配偶者居住権は取得できません。

 これに対して、元々被相続人と配偶者の共有だった建物については、配偶者居住権を取得できる可能性があります。

 

【配偶者居住権の財産評価について】

 配偶者居住権は、財産的価値のある建物を無償で使用できる権利ですから、居住権自体に財産的価値があります。

 そのため、建物以外にも預金などの遺産があるケースであれば、居住権の価値を適正に評価して、居住権を得る配偶者と他の相続人との間が公平になるように分配内容を調整していくことが必要となります。

 また、土地建物以外にめぼしい財産がないケースでも、配偶者居住権を設定するのであれば、遺産としては、配偶者居住権、居住権の負担のついた建物所有権、そして敷地がありますから、相続人間での公平を保つためにはやはり居住権の評価が重要となります。

 もっとも、居住権は目に見えないものであることや、新しく創設された制度であるため、現時点で具体的な評価方法は確立されていません。そのため、将来的には居住権の財産価値を巡って紛争になることも予想され、弁護士としてはこの点が気になるところです。

 

<配偶者短期居住権>

 以上で説明したところは、あくまで遺産分割や遺言などによって配偶者が権利を取得するというお話でした。

 もっとも、遺産分割の手続が終わり建物の所有者が決まるまでの間、配偶者としては一体どこに住めばいいのか困るケースもあるでしょうし、遺贈などによって建物が配偶者以外の人に相続された場合には、配偶者に退去までの準備期間を与えて保護する必要があります。

 そこで、相続によって不安定な立場におかれる配偶者を保護するために新設されたのが配偶者短期居住権です。

 

【どのような場合に発生するのか?】 

 配偶者短期居住権は、配偶者が、相続開始時に被相続人所有の建物に無償で住んでいた場合に、法律上当然に発生します。

 配偶者居住権のように、遺産分割手続や遺言の結果発生するわけではありません。

 

【存続期間は?】

 配偶者短期居住権は、先ほどの配偶者居住権と異なり、相続開始後のある程度の範囲に限り居住権を保護しようというものですので、その観点から期間制限が設けられています。

 配偶者短期居住権が発生するケースは、①遺産分割が必要な場合と、②遺産分割が不要な場合の2パターンがあり、いずれのパターンかによって存続期間が異なります。

 

・遺産分割が必要な場合

 特に遺言などがなく、単純に建物について遺産分割手続をする場合です。 

 この場合、配偶者には、①と②のいずれか長い方まで居住権が認められます。

 

①遺産分割が成立するまで

②相続開始から6ヶ月のいずれの期間まで

 

 したがって、たとえば遺産分割協議が終了するまで1年かかれば、短期居住権は1年間となり、その間、配偶者は賃料を支払う必要はありません(固定資産税など通常の経費負担が必要なのは配偶者居住権と同じです)。

 また、遺産分割協議が3ヶ月で成立し、配偶者以外の相続人が建物を取得したとしても、配偶者は残り3ヶ月はその建物に無償で住み続けることができます。

 

・遺産分割が不要な場合

 配偶者の住んでいた建物が、被相続人の遺言によって他の者に遺贈された場合が典型例です。

 この場合、配偶者は建物それ自体について権利を持ちません(遺留分を侵害するような遺贈だった場合、従前、遺留分を侵害された者は建物に対して一定の持分を取得するとされていましたが、改正法によって、このようなケースでも建物に対する権利が発生するのではなく、あくまで遺留分侵害額に相当する金銭の支払請求権が発生することになりました)。

 しかし、遺贈などによって突然住居を失うことになると配偶者にとって酷なことがあることから、この場合には、権利を取得した者から退去の申し入れがあったときから6ヶ月間、配偶者はその建物に居住することができます。

 

<施行日>

 この制度が施行されるのは、2020年4月1日からとなっています。

 

 

弁護士 平本丈之亮

 

 

 

駐停車中の車に追突された場合、過失割合はどうなる?~交通事故⑨~

 交通事故の事故態様として比較的ご相談が多いのが、駐停車中の車両への追突事故というケースです。

 このような追突事故が起きた場合、追突した側が100%悪く、追突された側にはまったく落ち度はないというのが一般的な感覚ではないかと思いますが、事情次第ではそのような結論にならないことがあります。

 駐停車中の追突事故の過失割合については、実務上広く用いられている文献である「別冊判例タイムズ38号」が様々なパターンでの考え方を示していますので、今回は、四輪車同士の交通事故のうち駐停車中の車への追突事故の過失割合について、基本的な考え方をご説明したいと思います。

 

<典型的な事故状況>

 

【基本の過失割合】 

 A:B=100:0

 

 被追突車(B)が駐停車中の場合、基本的には被追突車(B)の側に過失はありません。

 

【例外:Bにも過失があるとされるケース】

 もっとも、以下のようなケースでは被追突車(B)の側にも落ち度があるとして、過失割合が修正されることになります。

 

[1.現場の視界が不良の場合]

 A:B=90:10(Bに+10%)

 

 雨が降っていた、濃い霧がかかっていた、夜間で街灯もなく暗い場所だった、などの理由で現場の視界が悪い場合、後続車であるAからは前方に駐停車していたのBを発見するのが難しいため、過失割合が修正されます。

 

[2.Bが駐停車禁止場所に駐停車していた場合]

 A:B=90:10(Bに+10%)

 

 この場合は、Bが法律で禁止された場所に車両を駐停車させたことで他の交通を妨害し、事故発生の危険性を高めているため、過失割合が修正されます。

 

[3.夜間にBが警告措置(ハザード・三角反射板)をしていなかった場合]

 A:B=90~80:10~20(Bに+10~20%)

 

 夜間は視界不良となることから、駐停車中の車がハザードランプを点灯するなど適切な警告措置を取っていなかった場合、後続車は駐停車車両の発見が困難となるためです。

 

[4.Bの駐停車方法が不適切な場合]

 A:B=90~80:10~20(Bに+10~20%)

 

 駐停車方法が不適切とされる具体例としては、以下のようなものがあります。

 

 ①道路幅が狭いところに駐停車した場合

 ②追い越し車線に駐停車した場合

 ③幹線道路など交通量の多いところに駐停車した場合

 ④車道を大きく塞ぐ形で駐停車した場合

 ⑤車両が汚れていて車両後部の反射板が見えなくなっているような場合

 

 車が駐停車するときは、法律上、道路の左端に沿い、かつ、他の交通の妨げにならないようにしなければならないとされていますが(道路交通法47条1項、2項)、①~④の場合はこの定めに反し、Bは交通事故の危険を増加させているため修正がなされます。

 ⑤については、反射板が汚れているとAからはBを見つけることが難しいということが修正の根拠とされていますが、別冊判タ38号ではこれも不適切な駐停車方法にあたると分類しています。

 

[5.Bに「著しい過失」または「重過失」がある場合]

著しい過失」 A:B=90:10(Bに+10%)

「重過失」   A:B=80:20(Bに+20%)

 

 これに該当しうる具体例としては以下のようなものがあります。

 

・自招事故によって駐停車した場合

・駐停車車両を放置していた場合

 

 ちなみに、どのような場合に「著しい過失」と「重過失」に振り分けられるかについて、別冊判タ38号では具体的な基準が明示されていませんが、この点は、自招事故に対するBの落ち度の程度やBが車両を放置していた時間帯や放置時間の長さ、幹線道路かどうか、当時の道路状況など個別の事情によってケースバイケースの判断になると思われます。

 

【例外の例外もある】

 以上の通り、一定の事情がある場合には、駐停車中の追突事故であっても被追突車(B)の側に過失があるという判断がなされます。

 もっとも、そのようなケースであっても、以下の場合には、例外の例外として、さらに過失割合が修正されることがあります。

 

[1.Bが退避不能だった場合]

 Bに-10%

 

 突然のエンジントラブルやパンクなどで退避することが不可能だったような場合、たとえば駐停車禁止場所に止まってしまったとしてもBに落ち度があったとはいえないので、Bの割合が軽くなります(駐停車禁止場所の例でいえば、通常はA:B=90:10ですが、A:B=100:0となります)。

 

[2.Aに15㎞以上の速度違反があった場合]

 Aに+10%

 

 このような場合はAの落ち度が大きいため、最終的なBの過失割合は軽くなります。

 

[2.Aに30㎞以上の速度違反があった場合]

 Aに+20%

 

 理屈は15㎞以上オーバーの場合と同じですが、速度違反の程度が著しいためAの過失が加重されます。

 

[3.Aに「著しい過失」、「重過失」がある場合]

「著しい過失」 Aに+10%

「重過失」   Aに+20%

 

 速度違反以外でAの運転方法などに「著しい過失」「重過失」がある場合には、上記のとおりAの過失割合が加重されます(なお、「著しい過失」「重過失」の意味については、交通事故における「著しい過失」と「重過失」の意味は?~交通事故⑧~」をご覧下さい。)

 

 

 いかがだったでしょうか?

 ひとくちに駐停車中の車への追突事故といっても、このように状況次第では過失割合は変動しますので、示談交渉で迷われたり不安がある場合には、一度弁護士へのご相談をご検討下さい。

 

弁護士 平本 丈之亮

 

 

 

交通事故における「著しい過失」と「重過失」の意味は?~交通事故⑧~

 交通事故の案件を扱う際に避けて通れない問題として、どちらの落ち度がより大きいのか、すなわち「過失割合」の問題があります。

 過失割合についてはある程度定型化が進んでおり、「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準[全訂5版]」(別冊判例タイムズ38号)という書籍によって、公道上での交通事故に関しては、よほど特殊な事故態様でない限り基本的な過失割合は調べやすい状況にあります。

 もっとも、道路状況や事故状況などから基本的な過失割合がわかったからといって、それをそのまま適用するかどうかはまた別の問題であり、実際にはそこからさらに、運転者の事情に応じて過失割合を修正するかどうかを検討していくことになります。

 今回は、このような過失割合を修正する事情として比較的問題となることの多い「著しい過失」「重過失」について説明したいと思います。

 

<設例>

  今回は、信号機のない交差点で起きた直進する四輪車同士の出会い頭の事故で、一方の道路が明らかに広い場合(別冊判タ38号・218ページの事例)をもとに説明したいと思います。

 なお、事案を簡明にするため、事故発生時の条件は以下のとおりとします。

 ・A、Bともに減速せずに交差点に進入した

 ・事故が起きた交差点は見通しがきかなかった

 ・AとBが交差点に進入したタイミングはほぼ同じ 

 ・A、Bともに大型車ではない

 

 

<基本の過失割合> 

 A:B=30:70

 

<「著しい過失」がある場合>

【Aに著しい過失がある場合】

 A:B=40:60(Aに+10%)

 

【Bに著しい過失がある場合】

 A:B=20:80(Bに+10%)

 

<「重過失」がある場合>

【Aに重過失がある場合】

 A:B=50:50(Aに+20%)

 

【Bに重過失がある場合】 

 A:B=10:90(Bに+20%) 

 

<「著しい過失」・「重過失」とは?>

 このように、運転者に「著しい過失」や「重過失」があった場合には基本の過失割合が10%ないし20%が修正されることになりますが、ここでいう「著しい過失」や「重過失」とは、具体的にどのようなものをいうのでしょうか?

 この点について、先ほどご紹介した別冊判タ38号では、「著しい過失」と「重過失」とは以下のようなものを指すとしています。

 

【著しい過失=事故態様ごとに通常想定されている程度を越えるような過失】

①脇見運転などの著しい前方不注視

②著しいハンドル・ブレーキ操作の不適切

③携帯電話などを通話のために使用したり画像を注視しながらの運転

④おおむね時速15㎞以上30㎞未満の速度違反(高速道路を除く)

⑤酒気帯び運転(※) など

※血液1ミリリットルあたり0.3ミリグラム以上又は呼気1リットルにつき0.15ミリグラム以上

 

【重過失=故意に比肩する重大な過失】

①酒酔い運転(酒気を帯びた上、アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態での運転)

②居眠り運転

③無免許運転

④おおむね時速30㎞以上の速度違反(高速道路を除く)

⑤過労、病気、薬物の影響その他の理由により正常な運転ができないおそれがある状態で運転 など

 

 このように、自分や相手の運転の仕方によっては、過失割合が修正される可能性があります。

 保険会社との示談交渉の中でこの点が問題となることもありますので、自分や相手の運転が「著しい過失」や「重過失」に当たらないかどうかについては、示談する前に十分に検討したほうが良いと思います。

 

弁護士 平本 丈之亮

 

 

賃貸借契約の更新と保証人の責任

  法律相談を受けていると、一定数、賃貸マンションやアパートなどの保証人の方から相談を受けることがあります。

 相談内容で多いのはやはり借主が滞納した場合の責任に関するものですが、その中で、何年も前に保証人になったが、当初の契約期間が過ぎて賃貸借契約が更新されており、更新のときには保証人としてサインしたことがないので責任がないのではないか、というものがあります。

 では、このような場合、保証人は契約の更新後も責任を負うのでしょうか?

 

<原則として更新後も責任を負う>

 このようなケースについては最高裁の判決があり、保証人は、更新のときに改めてサインをしなくても、特段の事情がない限り、更新後も責任を負う、とされています(最高裁平成9年11月13日判決)。

 一時使用目的の場合を除き、建物の賃貸借契約は長年継続されることが予定されており、保証人としても契約の更新があることを予想した上でサインしていることが通常であること、保証人が負担する責任も一度に多額になることは少なく、予想できないような過大な負担になる可能性が低いということが理由です。

 

<例外①・更新後は責任を負わない前提だった場合>

 もっとも、このルールにも例外があり、そのうちの一つが、当事者間(大家・保証人間)で契約の更新後は保証人は責任を負わないことを前提としていた場合です(最高裁判決でいう「特段の事情」がある場合)。

 典型的には、大家さんと保証人との間で、あらかじめ更新後は責任を負わないと合意する場合ですが、通常、最初の契約時に大家さんがそのような条件を受け入れることはほぼないと思いますから、このような理由で保証人が更新後の責任を免れるケースは多くないように思われます。 

 大家さんと保証人との間で上記のような合意をしたケース以外で「特段の事情」が認められ、保証人の責任が否定された裁判例としては、東京地裁平成10年12月28日判決というものがあります。

 この判決で特段の事情が認められたのは以下のような理由によりますが、個人的には②と③の事情が決め手だったのではないかと思っています(更新後は責任を負わないという合意があったとまでは言えないまでも、それに近い状態だった)。

 

①問題が起きる前は、契約更新の都度、大家さんが保証人との間で保証に関する契約書を交わしていたこと

②更新前に保証人から大家さん宛に保証人を辞退したいと通知したのに対し、大家さん側がリアクションを取らないまま契約が法定更新されたこと

③契約が合意更新ではなく法定更新となったのは、借主が多額の滞納をしたからだが、大家さんは、そのような更新の経緯や更新後に生じた滞納についてただちに保証人に連絡せず、改めて保証人との間で契約書も交わさなかったこと

④更新の時点で滞納額が多額に及んでいたにもかかわらず、大家さんが契約を解除せずに法定更新されたこと

 

<例外②・保証人に滞納を伝えないまま更新を繰り返した場合>

 また、先ほどの最高裁判決は、家賃の滞納がかさんでおきながらその事実を保証人に伝えず、漫然と契約更新を繰り返した場合にまで全額の支払いを請求するのは信義則に反することから、更新後の部分について保証人に対する責任追及が否定される場合があるとしています

 


【最高裁平成9年11月13日判決】

 「建物の賃貸借は、一時使用のための賃貸借等の場合を除き、期間の定めの有無にかかわらず、本来相当の長期間にわたる存続が予定された継続的な契約関係であり、期間の定めのある建物の賃貸借においても、賃貸人は、自ら建物を使用する必要があるなどの正当事由を具備しなければ、更新を拒絶することができず、賃借人が望む限り、更新により賃貸借関係を継続するのが通常であって、賃借人のために保証人となろうとする者にとっても、右のような賃貸借関係の継続は当然予測できるところであり、また、保証における主たる債務が定期的かつ金額の確定した賃料債務を中心とするものであって、保証人の予期しないような保証責任が一挙に発生することはないのが一般であることなどからすれば、賃貸借の期間が満了した後における保証責任について格別の定めがされていない場合であっても、反対の趣旨をうかがわせるような特段の事情のない限り、更新後の賃貸借から生ずる債務についても保証の責めを負う趣旨で保証契約をしたものと解するのが、当事者の通常の合理的意思に合致するというべきである。もとより、賃借人が継続的に賃料の支払を怠っているにもかかわらず、賃貸人が、保証人にその旨を連絡するようなこともなく、いたずらに契約を更新させているなどの場合に保証債務の履行を請求することが信義則に反するとして否定されることがあり得ることはいうまでもない。
 以上によれば、期間の定めのある建物の賃貸借において、賃借人のために保証人が賃貸人との間で保証契約を締結した場合には、反対の趣旨をうかがわせるような特段の事情のない限り、保証人が更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責めを負う趣旨で合意がされたものと解するのが相当であり、保証人は、賃貸人において保証債務の履行を請求することが信義則に反すると認められる場合を除き、更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責めを免れないというべきである。」


 

弁護士 平本丈之亮