小規模個人再生と給与所得者等再生の違いとは?~個人再生⑧~

 

 自宅を残して債務の一部を減免してもらうことのできる債務整理の手続として、「個人再生」というものがありますが、実は、個人再生には「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」という2つの手続が存在します。

 今回は、この2つの手続の違いや、どちらの手続を先に検討するべきかなどについてお話しします。

 

債権者の書面決議の要否

 小規模個人再生では再生債権者の書面決議の制度があり、債権者の過半数あるいは債権額の過半数の反対があった場合には不認可になります。

 これに対して、給与所得者等再生では、このような書面決議が不要とされています。

 

最低弁済額の計算方法の違い(可処分所得要件の有無)

 小規模個人再生では、①債権額に応じた一定の金額(多くは100万から総債権額の20%程度までの間)か、②自由財産を除いた資産総額のいずれか高い方が最低弁済額になります(→「個人再生をすると、負債はどれくらい減るのか?~個人再生②・最低弁済額~」)。

 これに対して、給与所得者等再生の場合は、最低弁済額を計算する際、①②の条件に加えて、③2年分の可処分所得以上の金額であることが必要とされています(可処分所得要件)。

 

対象者の違い(定期・安定収入)

 給与所得者等再生は、給与やこれに類する定期的な収入があり、かつ、その変動が少ないことが要件となっています。

 そのため、個人事業者や、給与所得者でも過去2年以内に大きな変動(概ね2割程度の変動)があるようなケースだと、収入の定期性や安定性を欠くとして給与所得者等再生の利用ができないことがあります。

 なお、ここでも求められているのはあくまで収入が定期的・安定的であることであり、給与であることまでは必要ではありません。

 そのため、たとえば年金収入や家賃収入も定期的に入ってくるもので変動が少なければ要件をみたす可能性がありますし、個人事業者であっても、給与生活者と変わらないような収入状況であればケースによっては要件を満たす場合もあり得ます。

 

過去に破産している場合等における利用の可否

 給与所得者等再生の場合、いわゆるモラルハザード防止の観点より、過去7年以内に破産免責を受けている場合、過去7年以内に給与所得者等再生の認可決定を受けている場合、過去7年以内にハードシップ免責を受けている場合には、改めて給与所得者等再生を利用できないという制限があります。

 小規模個人再生については、そのような縛りはありません。

 

どちらを先に検討するべきか?

 給与所得者等再生は、再生計画の認可について債権者の議決を必要としないという独自のメリットがある一方で、安定的かつ変動の少ない収入を得ているという要件が必要であり、2年分の可処分所得以上の金額を支払う必要があるため小規模個人再生よりも最低弁済額が高くなりがちです。

 また、実務上、小規模個人再生で不同意の意見を提出する債権者は少なく、仮に不同意を出しそうな債権者がいたとしても、それが過半数を超えない場合には不認可になることはありません。

 そのため、債権者数あるいは債権額の過半数の不同意が見込まれるような場合を除き、債務者としてはまずは小規模個人再生を検討した方がよいと思います(当事務所でもほとんどが小規模個人再生です)。

 実際、裁判所の利用件数としても以下の通り圧倒的に小規模個人再生が利用されていますが、これは上記のような理由からと思われます。

 

令和元年の司法統計

小規模個人再生  12,764件

給与所得者等再生    830件

 

弁護士 平本丈之亮

個人再生をした場合、資産は処分しなければならないのか?~個人再生⑦~

 

 個人再生は、自己破産と同様に法律に基づいた債務整理の手続(=法的整理)です。

 このように「法的整理」という点だけを聞くと、個人再生も自己破産と同じように自分の資産を失うのではないか、と不安に思われる方がいらっしゃいます。

 この点は個人再生のメリットというコラムでも少しお話ししているところですが、今回は個人再生と資産処分との関係について少し詳しくお話ししたいと思います。

 

住宅

 自己破産の場合、残念ながら住宅は失うことが一般的です。

 これに対して個人再生の場合は、「住宅資金特別条項」という特別の条項を再生計画案に盛り込むことにより、住宅を確保しながら他の債務の減免が認められています。

 なお、住宅価値と住宅ローンを比較して住宅価値の方が高い場合(アンダーローン)でも、その差額分を一括で支払う必要性はなく、差額分を資産として計上して返済計画の段階で考慮すれば足ります。

 これに対して、住宅価値よりも住宅ローンの方が高い場合(オーバーローン)の場合は、住宅価値は0と評価され、返済額の計算にも影響はありません。

 

自動車

 自動車については、ローン付で購入したかどうか、また、債務整理の時点でローンが残っているかどうかによって結論が異なります。

 ローン付で購入し、債務整理を始める段階でもローンが残っている場合には、銀行系や信金系、労働金庫などのカーローンを利用した場合を除き、基本的には契約に従って自動車は失うことが一般的です(所有権留保)。

 これに対し、ローンが残っていない場合には、個人再生を申し立てても自動車を売却する必要はなく、自動車の価値を返済計画の中で考慮すれば足りることになります。

 

保険

 保険についても、特に解約の必要はありません。

 もっとも、解約返戻金が多額であり、他の財産と合算した結果、財産総額が高額になってしまう場合には、その影響で債権者に支払わなければならない最低弁済額が高額になることがありますので、そのようなケースではあえて保険を解約して頭金に充て、残りを3~5年の分割にする形で再生計画案を作成しなければならないこともあります。

 また、その他にも、保険料が過大な負担となって返済原資が捻出できないケースでも、やむを得ず解約せざるを得ないことがあります。

 

退職金

 個人再生をするからといって退職する必要はありません。

 退職した結果、支払能力を失ってしまえば本末転倒な結果になるからです。

 退職によって退職金が発生する場合の扱いについてには、既に支給が決まっているようなレアケースを除き、その時点での退職金支給見込額の8分の1を資産として計上し、返済額を計算すれば足りることになっています。

 

預金・積立金など

 このような資産も基本的には処分されることはなく、他の資産と同様に債権者への返済額を計算するための資料として扱えば足ります。

 もっとも、資産を全て合算した結果、返済総額が高くなりすぎてこのままでは支払いができないというケースでは、保険のところで述べたのと同様に、預金などを頭金に充てて返済計画を成り立たせるよう工夫せざるを得ないことはあります。

 

 以上のとおり、個人再生については、一定の限界はあるものの、多くの財産について実際に処分することなく負債の一部について減免が認められる手続です。

 個人再生というと住宅を確保できることや負債の減免というメリットにのみ目が行きがちですが、住宅以外の資産も保有できる可能性がある点も大きなメリットですので、住宅以外に残したい資産があるようなときは個人再生について検討する価値があります。

 

弁護士 平本丈之亮

 

 

給与等の差押えと民事執行法の改正(取立期間延長や教示制度)

 

 以前のコラムで、債権回収の実効性を高めるために民事執行法の改正がなされたというお話をしました。

 もっとも、債権者の権限が強化されたことによって、給料やボーナス・退職金の差押えについて債務者の生活に大きな影響が出る可能性があることから、今回の改正で、この点についても以下のような手当がなされました。

 

取立権発生時期が1週間から4週間になった

 差押命令が債務者に送達されてから1週間が経過すると、債権者は取立ができるようになります(給与であれば、直接勤務先に支払いを求めることができるようになります)。

 ところで、給料の差押えは原則として4分の3が差押禁止(養育費等は2分の1)とされていますが、元々の給料が少ないと、たとえ4分の1の差押えでも生活ができなくなってしまうという債務者も存在します。

 そこで、そのような場合には「差押禁止債権の範囲変更」の申立を行い、裁判所が生活状況をみて必要があると判断した場合、差押えの範囲を減らす(=差押禁止債権の範囲を変更する)ことができます。

 もっとも、制度上はそうなっていても、実際には取立権が発生するまでの期間が1週間と非常に短く、しかも、取立が完了した後では差押禁止債権の範囲変更は認められないため、2回目以降はともかく、少なくとも1回目の給料について差押えの変更を求めることは非常に困難でした。

 そこで、今回の民事執行法の改正では、給与等の債権を差し押さえる場合、例外的に取立権の発生時期を差押命令の送達後1週間から4週間に延ばしました(民事執行法第155条2項)。

 

婚姻費用や養育費等の不払いによる差押えの場合は1週間のまま

 このように、給与等の差押えの場合、債務者の保護を考慮して取立権が発生するまでの期間が伸びましたが、他方、差し押さえる債権者側のことも考える必要があります。

 特に、養育費等の不払いのようなケースでは、権利者側の収入が少ないと1回の遅れが生活困窮に直結しますし、債務者は合意や裁判所の判断によって支払いしなければならない立場である以上、不払いによって不利益を受ける債権者の方をより保護すべきと考えられます。

 そこで、下記①~④の義務に基づく債権を有する者が給与等を差し押さえる場合には、取立権の発生時期は延長されずに1週間のままとされました(民事執行法第155条2項括弧書、同151条の2第1項1号ないし4号)。

 

 ①夫婦間の協力扶助義務 

 ②婚姻費用 

 ③養育費 

 ④扶養料 

 

裁判所からの手続きの教示

 また、一般の方の中には、差押禁止債権の範囲変更の申立といっても、そもそもそのような手続きがあることすら知らない方も多く、知らないために不利益を受けるというのも望ましくありません。

 そのため、今回の改正では、差押命令を送達する際に、債務者に対して、差押について変更の手続があることを知らせることとなりました(民事執行法第145条の4項 なお、こちらの制度は給与などの差押えの場合に限りません)。

 

婚姻費用や養育費などで合意するときは名目に注意

 今回の改正によって、養育費などの不払いがあったことを理由に給与やボーナス等を差し押さえる場合、取立権の発生時期は4週間ではなく従来通り1週間のままで維持されました。

 もっとも、このような優先的な取り扱いがなされるのは、差押えの根拠となる権利(債権)が養育費や婚姻費用などの場合ですので、合意内容から権利の性質が不明確な場合、取立可能になる時期が1週間ではなく4週間にされてしまう可能性があります。

 たとえば、合意の際、支払いの名目を解決金や和解金などという曖昧な表現にしたり、財産分与の中に養育費を含め養育費分もまとめて財産分与という名目にしてしまったりすると、債権の中身がこの特例の対象になるどうかがわからず差押えの段階で不利益を受ける可能性があります。

 裁判所の命令であればこの点が不明確になることは考えられませんが、合意で解決するときは、万が一不払いとなった場合を見据えてどのような表現にするのが良いかを考えて対応する必要があります。

 

弁護士 平本丈之亮

 

退職が近い時期に個人再生は利用できるのか?~個人再生⑥~

 

 個人再生手続の利用を希望する場合、その時点で既に退職が間近に迫っているケースがあります。

 もっとも、個人再生は債務の一部を免除してもらい、一定額を3~5年で支払うという手続であるため、このように退職の近い時期にある方が利用できるのかが問題となります。

 

継続的に又は反復的な収入がある見込みがあれば可能

 個人再生の基本的要件の一つとして、継続的に又は反復して収入を得る見込みがあることが必要ですが、仮に退職が迫っていたとしても、退職後もそのような収入を得る見込みがあれば利用することは可能です。

 もっとも、退職が近いことによって、個人再生の利用に次のような問題が生じる場合があります。

 

給与所得者等再生の利用は難しくなる場合がある

 個人再生には、債権者の議決を要する「小規模個人再生」と、そのような議決を要しない「給与所得者等再生」の2つがあります。

 このうち給与所得者等再生については、最低弁済額の計算において2年分の可処分所得以上であることを求められるため、小規模個人再生よりも最低弁済額が増える場合がありますが、単独で過半数の債権額を有する債権を持つ債権者がいるようなケースでは再生計画が否決されるリスクを避けるため、給与所得者等再生を選択せざるを得ないことがあります。

 しかし、給与所得者等再生では、給料やこれに類する定期的な収入を得る見込みがあり、かつ、収入の変動の幅が少ないという条件が必要であり、収入に5分の1以上の変動があると変動の幅が大きいと判断されやすいことから、退職後の収入の見込みによっては給与所得者等再生の利用が難しくなる可能性があります。

 

高額な退職金があると、個人再生が使えない場合や最低弁済額が増える可能性がある

 個人再生で再生計画案を立案する場合、破産した場合に債権者に配当される額以上の支払いができることが必要(=清算価値保障原則)ですが、退職金が存在するとその支給見込額を最低弁済額の計算に組み込む必要があります。

 通常、退職金についてはその時点における支給見込額の8分の1相当額で評価すれば足りるため、実際には退職金を考慮しても返済額に影響がないか、影響があっても微々たるものであることが多いのですが、退職がもう決まっているなど退職金の支払いが具体化したタイミングだと清算価値の計算においては4分の1として評価しなければなりません(なお、実際に支給されてしまった場合には全額で評価します)。

 そのため、退職までの期間が近いと最低弁済額が跳ね上がってしまい、再生計画を履行できなくなったり、弁済計画の履行自体は可能であっても毎月の負担額が大きく上がってしまう可能性があります。

 たとえば、負債総額が500万円のケースだと、その5分の1である100万円と本人の財産額を比べて高い方が最低弁済額になりますが、仮に財産は退職金しかなく、その時点で退職したら800万円の退職金が支払われる見込みという場合、退職金は8分の1の100万円と評価すれば足りるため返済総額は100万円になりますが、4分の1として評価しなければならない場合には返済総額は200万円になってしまうため、退職金の支払いがどの程度現実化しているのかによって負担額が大幅に変わることになります。

 

 このように、退職間近であっても個人再生を利用できる可能性はあるものの、状況によっては様々な問題が生じることがあります。

 そのため、個人再生の利用をお考えの方で退職が徐々に近づいている方については、時機を逸することで結果に大きな違いが生じる可能性があるため、決断のタイミングには注意を要します。

 

弁護士 平本丈之亮

 

 

おまとめローンと債務整理

 

 借入件数が多くなり支払いが難しくなった場合、債務整理(任意整理・個人再生・自己破産)をするという方法のほか、おまとめローン(借り換え)によって債務を一本化するという選択肢があります。

 おまとめローンは、上手に活用することができれば、信用情報に傷をつけることなく支払いを可能にできるメリットがありますが、他方で、途中で支払不能になった場合、その後の債務整理において選択肢が狭まってしまう可能性があります。

 そこで今回は、債務整理が必要となる場面において、おまとめローンにどのようなリスクがあるのかについてお話ししたいと思います。

 

保証人を巻き込むリスク

 おまとめローンの金額等にもよりますが、おまとめローンを利用する場合、保証人を求められることがあります。

 万が一、おまとめローンを含む債務について支払不能になった場合、自己破産や個人再生をしたとしても保証人の責任は免除されないため、保証人に多大な迷惑をかけることになります。

 

再生計画否決のリスク(小規模個人再生)

 また、債務整理の手法の一つである個人再生のうち、小規模個人再生については、債務者数か債務額の過半数について反対があると再生計画が否決されてしまいますが、おまとめローンを利用したことで単独過半数を占める債権者が生じた場合には、その債権者の反対によって小規模個人再生がうまくいかなくなる可能性があります。

 このような事態が想定される場合には、もう一つの方法である給与所得者等再生を検討することになりますが、債務者が「給与所得者等」であることや収入の変動の幅が小さいという要件(※)があることや、2年分の可処分所得以上の返済を要する関係で小規模個人再生よりも必要返済額が増えてしまう可能性があります。

 

※給与又はこれに類する定期的な収入を得る見込みがあり、その額の変動の幅が小さい(=年収換算で5分の1未満の変動が一応の目安)こと

 

個人再生で住宅資金特別条項を利用できないリスク(不動産担保ローンがある場合)

 また、個人再生の大きなメリットは自宅を残しながらそれ以外の債務を圧縮できるところにありますが、そのためには再生計画に住宅資金特別条項というものをつけなければなりません。

 ところが、この住宅資金特別条項をつけるには、自宅に住宅ローン以外の担保がついていないことが要件となっているため、おまとめローンの融資条件に自宅への担保権の設定が含まれていた場合、住宅資金特別条項を利用できなくなってしまいます。

 

 

 以上の通り、おまとめローンを利用する場合、その条件として保証人をつけたり自宅への担保権の設定が必要とされると、支払いできずにいざ債務整理をしなければならないという段階で思わぬ足かせとなることがあります。

 そのため、おまとめローンの利用を検討するときは、信用情報を傷つけずに借金を一本化できるメリットと、上記のような支払不能時におけるリスクを慎重に検討し、おまとめ後にきちんと支払いをできる状態になるかどうかを考えたうえで進める必要があります。

 

弁護士 平本上之亮

 

個人再生でやってはいけないことは?~個人再生⑤~

 

 個人再生は、経済的困窮に陥った債務者にとって自宅を確保できるなど大きなメリットのある制度ですが、裁判所を通じて行う公的手続であるため手続の公平性や透明性が重要であり、不適切な行為があった場合にはうまくいかなくなることがあります。

 そこで今回は、個人再生において、どのようなことをすると失敗してしまう可能性があるのか、すなわちどのような行為をしてはいけないのかついて、いくつか問題になりやすいものに焦点を当ててお話したいと思います。

 

 

1 財産目録に不正の記載をすること

 個人再生も自己破産と同様に手続の公正さが強く要求され、財産隠しなど不正な手段を用いた場合には債務カットという恩典を与えるべきではないため、このような場合には再生手続が廃止されます。

 また、盛岡では、弁護士が代理人に就任した場合、通常は個人再生委員は選任されないことが一般的ですが、もし、裁判所の審査の過程でそのような疑いを招いた場合、事実関係の調査等のため、数十万円の予納金を上乗せして個人再生委員の選任が必要となることもあります。

 そのため、個人再生を進めていく上では、このような疑いを招くことのないよう、些細な財産でもしっかりと申告するよう気をつける必要があります。

 当職自身、過去に一度だけ口座を隠していた方がおり、口座を隠していた理由やその間の取引状況などからやむなく申立前に辞任せざるを得なかったケースがありますが、そのような行為は自分自身の首を絞める結果になりますので、行うべきではありません。

 

2 決められた期限に再生計画案を提出しないこと

 個人再生においては再生手続開始決定時にその後のスケジュールについても決められますが、その中でも再生計画案の提出期限は重要であり、万が一期間を経過してしまった場合、個人再生手続は廃止されてしまいます。

 専門家が代理人についているケースでは提出期限を気にしすぎる必要はありませんが、ご本人でチャレンジするという場合には注意すべきポイントです。

 なお、本来の期限に提出することができない場合には、事前に期限を延長してもらうよう裁判所に求めることも可能です(民事再生法163条3項)が、必ず認められるとは限りませんので、できる限り当初の期限内に提出する方が無難です。

 

3 裁判所の指示した積立をしないこと

 個人再生は、一定の金額(最低弁済額)を3~5年間で支払うことができる場合に認められるものですので、再生手続開始決定がなされると、想定される最低弁済額を念頭に、再生計画案を提出するまで毎月一定額の積立を行い、再生計画案の提出時には積立状況報告書を提出することになっています(履行テスト)。

 このように、手続開始後には裁判所から毎月の積立を求められることになりますが、この点を甘く見て途中で積立をしないことがあると、履行可能性がないとして再生手続が失敗する危険性がありますので注意が必要です。

 

4 一部の債権者を除外したり、優先して返済すること

 個人再生に限らず、法的整理では債権者平等の原則が強く働きますので、一部の債権者のみを優遇することはできません。

 ご相談をお受けしていると、親族やお世話になった方などという理由で一部の債権者を手続から除外したり支払いをしたいと希望される方もいらっしゃいますが、そのような行為をすると不当な目的あるいは不誠実な申立であるとして個人再生自体が認められなくなる可能性がありますので要注意です。

  

5 申立の直前に財産を移転すること

 財産目録の不正記載に似た話ですが、申立の直前に財産を他人名義に移転すること(たとえば自動車や不動産など)や誰かに自分のお金をあげたりすること(贈与)はいわゆる否認対象行為として、その財産が自分のものであることを前提に最低弁済額を考えていくことになりますので、意味がありません。

 もっとも、このような行為についてはその程度で済めば良い方で、これも最悪の場合、不当な目的ないし不誠実な申立として再生の申立が棄却されてしまう危険がありますので、絶対にしてはいけない行為の一つです。

 

6 弁護士への依頼後に新規に借入をしたり債務を負担すること

 このような行為も、不当な目的ないし不誠実な申立として、故人再生の申立が棄却されてしまう可能性があります。

 

 いかがだったでしょうか?

 幸い、これまで当職が申立に関与したケースでは、このような理由によって手続自体が頓挫したものはありませんが、個人再生においては、今回申し上げたように手続の進行状況に応じて気をつけるべき点が多くありますので、申立をお考えの際には専門家への依頼をご検討いただければと思います。

 

弁護士 平本丈之亮

 

債務整理のご相談はこちら
債務整理専用WEB予約

 

メール予約フォーム

 

019-651-3560

 

※借金問題については、平日以外にも専用のWEB予約カレンダーによる土日相談を受け付けています。なお、カレンダーで予約可能日となっていない土日でもご相談をお受けできることがありますので、お急ぎの場合はお電話かメール予約フォームでお問い合わせください。

 

 【受付日・時間等】 

 お電話:平日9時~17時15分

 メール・WEB予約:随時

 【営業日時】 

 平日:9時~17時15分

 土曜日曜:予約により随時

 

 

給与ファクタリングが貸付であると判断した裁判例(東京地裁令和2年3月24日判決)

 

 以前のコラムで給与ファクタリングを巡る状況について解説しましたが、この点について、給与ファクタリングは実質的に貸付けであり、貸金業法や出資法の適用対象であると判断した東京地裁令和2年3月24日判決がありますので、今回はこの判決をご紹介します。

 

 このケースで給与ファクタリング業者は、業者と利用者との間において、利用者が勤務先から直接給与を受け取った場合、利用者が譲渡した給与債権を業者から額面額で買い戻す合意があったと主張し、そのような買戻合意に基づき、譲渡を受けた給与額と同額の支払いを求めました。

 これは要するに、額面10万円の給与債権を6万円で譲渡した場合、その後に利用者が勤務先から10万円の給料を受け取ったときは、利用者は10万円を払って業者から給与債権を買い戻さなくてはならない約束があったという主張ですが(=利用者は債権譲渡によって業者から6万円を受け取り、最終的には買戻代金として10万円を払う。)、裁判所は以下の通りこのような取引は貸金業法や出資法に定める貸付けに該当し、法律の定める利率を大幅に超過するため無効であると判断しました。

 

東京地裁令和2年3月24日判決の要旨

①貸金業法や出資法は、規制対象となる貸付けに「手形の割引、売渡担保その他これらに類する方法」によってする金銭の交付を含む旨定めている(貸金業法2条1項本文、出資法7条)。

 

②これらの規制の立法趣旨が、高金利を取り締まって健全な金融秩序の保持に資すること等であることからすると、金銭消費貸借契約とは異なる形式であっても、契約の一方当事者の資金需要に応えるため、一定期間利用後の返済を約して他方当事者が資金を融通することを主目的とし、経済的に貸付けと同様の機能を有する契約に基づく金銭の交付については、「これらに類する方法」に該当する。

 

③給与債権の譲渡については、労働基準法上も譲渡を禁止すべき規定はなく一律に無効と解すべき根拠はないが、労働基準法24条1項の趣旨からすれば、労働者が賃金債権を譲渡しても使用者はなお労働者に直接賃金を支払われなければならず、譲受人は直接使用者に支払いを求めることはできない(最高裁昭和43年3月12日判決)ため、給与ファクタリング業者は、常に労働者を通じて賃金債権の回収を図るほかない。

 

④そうすると、給与ファクタリングを業として行う場合には、業者から労働者に対する債権譲渡代金の交付だけでなく、労働者から賃金を回収することが一体となって資金移転の仕組みが構築されているというべきである。

 

⑤利用者が譲渡した給与額を支払わないと業者からは厳しい取立てがなされ、使用者に債権譲渡が通知されて信頼を損なったり迷惑をかけるおそれがあり、支払いをするまでこのような請求を受け続けることになるが、このことから裏付けられるように、本件取引では、利用者は譲渡した給与債権の支給日に、譲渡した給与債権額を業者に払うことが当然の前提とされている。

 

⑥業者は、給与ファクタリングは勤務先の破綻による不払いのリスクを抱えており通常の貸付けとは異なる危険を負担していると主張するが、仮に勤務先が破綻しても給与債権は破綻手続において手厚く保護されており、利用者自身が破綻した場合に比べて不払いの危険は極めて小さく、そもそも勤務先からの回収ができなくなった場合には利用者からの回収も見込めなくなるのであるから、給与ファクタリング業者が通常の貸付けと異なる危険を負担しているとは言い難い。

 

⑦したがって、給与ファクタリングの仕組みは、経済的には貸付と同様の機能を有するものと認められ、本件取引による債権譲渡代金の交付は、「手形の割引、売渡担保その他これらに類する方法」による「貸付け」に該当する。

 

⑧業者が裁判で支払いを請求している取引について年利換算すると、年利850%を超える利率となっており、貸金業法42条1項の定める年109.5%を大幅に超過するから、本件取引は同項により無効であるとともに出資法5条3項に違反し、刑事罰の対象となる。

 

 この判決では、給与債権を譲渡しても労働基準法24条1項によって業者は勤務先に直接請求できないため、業者が支払いを受けるには結局労働者を通じて回収するしかないことや、支払いをしないと業者から利用者に厳しい取立がなされるという実体に着目し、給与ファクタリングは貸付けに該当すると判断しています。

 なお、このように考えた場合、業者が利用者に債権譲渡代金として支払った金額を返還する必要があるのかが別の問題として残りますが、この判決では、このような支払いは不法原因給付に該当するため利用者は返還義務を負わないと判示されています。

 

 給与ファクタリングを巡っては、弁護士が介入した後も業者が利用者や勤務先へ取立を継続したため、利用者本人への接触や勤務先への電話等を禁止する仮処分が出された例もあるようですが(熊本地裁令和2年2月12日決定)、報道によると警察による摘発も始まっており、今後、刑事事件として司法判断が下される可能性がありますので、当職としても引き続き動向を注視していきたいと思います。

 

弁護士 平本丈之亮

 

関連するコラム

「給与ファクタリングを巡る状況について」

 

 

2020年8月26日 | カテゴリー : コラム, 消費者 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所

自己破産と給料の差押え

 

 自己破産を考えなくてはならない方が相談に来られると、既に債権者から給料の差押えを受けていたり、そこまでには至らなくても裁判を起こされているというケースがあります。

 今回は、自己破産を申し立てる前に給料を差し押さえられた場合、その後の自己破産手続において差押えがどうなるのかについてお話しします。

 

同時廃止の場合

 自己破産には、破産管財人が選任される「管財事件」と、破産か在任が選任されない「同時廃止」の2つのパターンがあります。

 このうち、同時廃止の場合では、破産手続開始決定により給料の差押えが「中止」されます。

 中止された給料の差押えについては、その後に免責許可決定が確定した時点で失効し、それ以降は給料を満額受け取ることができるようになります。

 破産手続開始決定から免責確定までは概ね3~4ヶ月程度を要しますが、その間の差押相当額(通常は手取りの4分の1)については、職場が手元にプールするか法務局に供託するため、免責許可決定の確定後、職場から直接プール金を受け取るか、供託先の法務局から支払いを受けることになります。

 なお、執行裁判所は破産手続開始決定を知りませんので、同時廃止により強制執行を中止してもらったり、免責許可決定の確定後に給料を受け取れるようにするためには、その都度、破産手続開始決定書、免責許可決定書やその確定証明書を執行裁判所に提出する必要があります(免責許可決定確定までの間に職場が供託していた給料の一部を支払ってもらう場合には、別途、執行裁判所に供託金返還について上申し、払渡額の証明書を取得して法務局に請求します)。

 

管財事件の場合

 これに対して、管財事件の場合は破産手続開始決定によって差押手続が失効しますので、同時廃止の場合よりも早期に給料を受け取ることが可能になります。

 実務的には、破産管財人から執行裁判所へ破産手続開始決定があったことについて上申書を提出してもらい、差押手続を終了させることになりますが、管財事件になることが見込まれるケースの場合には、同時廃止よりも給料を受け取れるようになる時期を早められる可能性がありますので、スピード感をもって準備することが重要です。

 

破産手続開始決定後に新たに差押えをされることはない

 以上、破産申立前に既に差押えがされている場合の流れについてご説明しましたが、破産手続の開始決定が出た時点でまだ差押えがなされていなかった場合には、それ以降、新たに差押えをされることはありません。

 このように、申立の時点で既に給料を差押えされている場合には職場を巻き込んでしまうことになりますが、適切かつ迅速に自己破産の申立を行えば、給料の差押えに至ることなく手続を進めることができますので、自己破産を検討している場合には早めの対応をお勧めします。

 

弁護士 平本丈之亮

 

自動車保険の酒気帯び運転免責条項における「酒気帯び」の意味

 

 自動車保険には、通常、酒気帯び運転をした場合には保険金を支払わないといういわゆる「酒気帯び運転免責条項」が定められています。

 飲酒運転が許されないことは当然のことであり、今日、この点について異論を差し挟む余地はないと思いますが、酒気帯び免責条項が適用されると、その運転者は一切保険金の支払いが受けられないという重大な不利益を受けるため、酒気帯び免責条項の適用について、処罰対象となるアルコール濃度が検出された場合に限るなど制限を加えるべきではないかという議論があります。

 そこで今回は、この点について、過去の高裁判決においてどのような考え方が取られているのかをご紹介したいと思います。

 

名古屋高裁平成26年1月23日判決

 このケースでは、運転者側が「酒気を帯びて(道路交通法第65条1項違反またはこれに相当する状態)」との免責条項について、処罰対象である血中アルコール濃度0.3mg/ml程度、呼気アルコール濃度0.15mg/lが適用基準となるべきと主張したのに対して、裁判所は以下のように判示しています。

 

「(中略)酒に酔うことには個体差もあるし、通常の状態で身体に保有する程度にも個体差があるため、道路交通法は、酒に酔った状態、すなわちアルコ-ルの影響により正常な運転ができないおそれがある状態にあったもの(道路交通法117条の2第1号)及び身体に政令で定める程度以上にアルコ-ルを保有する状態にあったもの(同法117条の2の2第3号)に対してのみ、罰則を設けることにした。したがって,政令で定めるアルコ-ル濃度呼気1リットル中のアルコ-ル濃度0.15mg以上(血中アルコ-ル濃度0.30mg/ml)に達しない場合であっても、道路交通法65条1項に該当することになる。
 本件免責特約は、飲酒運転の根絶という世論が刑法や道路交通法の改正に影響を及ぼしたことを受けて、平成16年に、「酒に酔って正常な運転ができないおそれがある状態」で被保険自動車を運転しているときに生じた傷害や損害が免責の対象とされていたのを、「酒気を帯びて」と改定し、「酒気を帯びて」の意味について、道路交通法65条1項違反またはこれに相当する状態と注釈したものである。
 また、一般の保険契約者は、道路交通法の規定を具体的に知らなくても、常識的に見て、酒気を帯びているといわれる状態での運転が同法によって禁止され、かつ本件免責特約では、そのような状態での運転の事故が免責の対象となると理解するのが通常であって、政令の数値以上の酒気帯び運転中の事故に限り免責されると考えていない。そのように考えないと、酒気を帯びても、酒気帯び運転の罪で処罰されうる程度を超えなければ事故を引き起こしても保険金の支払を受けられることを期待するという不当な結論が導かれることになってしまう。
 このような本件免責特約改定の経緯や一般保険契約者の合理的意思を総合勘案するならば、呼気検査でアルコ-ルが通常保有する程度以上に検知されたり、顔色等により外観上認知することが出来る状態にあれば、道路交通法65条1項にいう酒気帯び運転に該当することになり、特段の事情がない限り、本件免責特約が適用されると解するべきである。」

 

大阪高裁令和元年5月30日判決

 このケースにおいても、「道路交通法第65条(酒気帯び運転等の禁止)第1項に定める酒気帯び運転またはこれに相当する状態」との免責条項について、処罰対象となるアルコール濃度が検出された場合に限って適用されるべきかどうかが争われ、裁判所は以下のように判断しました。

 

「酒気帯び運転の場合、運転者が身体に保有するアルコールの量が刑事罰の対象とならない程度であったとしても、認知力、注意力、集中力及び判断力等が低下し、反応速度が遅くなるなどして、交通事故の発生の危険性が高まることは公知の事実である。そして、酒気帯び運転の結果、数々の悲惨な事故が惹起されたことなどから、酒気帯び運転をしてはならないということは、社会全般の共通認識であり、公序を形成しているといえる。本件免責条項は、こうした点を踏まえた上で設けられたものと推認される。
 そうとすれば、本件免責条項にいう「道路交通法(昭和35年法律第105号)第65条(酒気帯び運転等の禁止)第1項に定める酒気帯び運転」とは、文言どおりに解するのが相当であり、刑事罰の基準と同程度のアルコールを身体に保有している状態で車両を運転する場合とか、酒気を帯びることにより正常な運転をすることができないおそれがある状態で車両を運転する場合などと限定的に解釈するのは相当とはいえない。
 そして、上述した本件免責条項の趣旨目的等に照らせば、本件免責条項にいう酒気帯び運転とは、通常の状態で身体に保有する程度を超えてアルコールを保有し、そのことが外部的徴表により認知し得る状態で車両を運転する場合を指すと解するのが相当である。
 もっとも、本件免責条項が適用されると、被保険者は、交通事故による損失を一切填補されないという過酷な状況に置かれることとなる。この点に、本件免責条項の趣旨目的が上述のとおりであることなどを併せ考慮すれば、酒気帯び運転をするに至った経緯、身体におけるアルコールの保有状況、運転の態様及び運転者の体質等に照らして、酒気帯び運転をしたことについて、社会通念上、当該運転者の責めに帰すことができない事由が存するなど特段の事情がある場合には、本件免責条項は適用されず、保険者は免責されないと解すべきである。」

 

 以上の通り、上記2つの高裁判決では、酒気帯び運転免責条項について処罰対象となる程度のアルコール濃度に達しなくても、およそ酒気を帯びて運転した場合には原則として保険金は支払われないというスタンスを取っています(他の裁判例として仙台高裁平成31年2月28日判決、東京地裁平成23年3月16日判決等)。

 

 もっとも、上記2つの高裁判決でも、特段の事情がある場合には酒気帯び免責条項が適用されないことがあると述べています。

 このうち名古屋高裁の判決では、その具体的な判断要素について触れられておらず、最終的には証拠上、運転者が酒気を帯びて運転していたとまで認めることができないという理由で免責条項の適用が否定されているため、どのような場合が特段の事情にあたるかは判然としません。

 これに対して大阪高裁の判決では、特段の事情の有無について「酒気帯び運転をするに至った経緯、身体におけるアルコールの保有状況、運転の態様及び運転者の体質等に照らして、酒気帯び運転をしたことについて、社会通念上、当該運転者の責めに帰すことができない事由が存するなど」の場合であるとし、運転者が前日の晩に少なくとも500ミリリットル入りの缶ビール1本と焼酎の水割りを3杯飲み、翌日午前8時30分頃に車両を運転して事故を起こしたこと、飲酒検知において呼気1リットルにつき0.06ミリグラムのアルコールが検出されたという事実関係について、運転者は前日の晩に決して少量とはいえない程度の飲酒をしたのであるから、翌朝、身体に相当程度のアルコールを保有していることを認識することが可能であり運転を控えるべきであったとして、免責条項の適用を否定すべき特段の事情は認められないと判断しています。

 このケースの運転者がいつ頃まで飲酒していたかは不明ですが、「前日の晩」とされていることからすると少なくとも事故発生まで8時間以上は経過していたと思われますので、飲酒から相当程度の時間が経過したという事情では免責条項の適用は否定できないという判断が背景にあると思われます。

 この2つの高裁の判決を前提にすると、ケースによっては救済される余地があると一応言えそうではあるものの、実際に免責条項の適用を否定することは非常にハードルが高いと言わざるを得ませんので、翌日に運転を控えている場合の飲酒にはくれぐれも注意が必要です。

 

弁護士 平本丈之亮

 

 

訪問販売において、契約内容をDLできる状態にしただけではクーリングオフ期間は進行しないと判断された事例

 

 訪問販売・電話勧誘販売など、特定商取引法に規定される取引類型については、一定の期間内であれば無条件に契約を解消できるクーリングオフ制度があります。

 クーリングオフの期間は法律で記載事項が定められている書面(法定書面)を交付したときから進行しますが、そもそも書面が交付されていなかったり、交付された書面に重大な不備がある場合にはクーリングオフの期間は進行せず、本来の行使期間が経過してもクーリングオフが可能とされています。

 今回は、このようなクーリングオフの起算点である書面交付の要件について、インターネット上の事業者のホームページのURLから契約内容を記載した規約をダウンロードできる状態だった場合に、法定書面の交付があったといえるかどうかが争われた事例(東京地裁平成30年2月26日判決)をご紹介します。

 

事案の概要

 このケースは、セミナーの受講契約を申し込んだ消費者が、当該受講契約は訪問販売に該当し、法定書面の交付がなかったためいまだクーリングオフ期間は経過していないと主張したのに対して、事業者が上記の通りホームページから規約をダウンロードできるから法定書面の交付があったと反論したものです。

 この争点について裁判所は以下のように判断し、業者側の主張を排斥してクーリングオフを認め受講代金の返還を命じています。

 

東京地裁平成30年2月26日判決

「特商法4条が契約の申込みに当たっての書面の交付を要求した趣旨は,商品の内容,種類,数量などの正確な契約内容の認識を与え,かつ,クーリングオフの権利を有することを書面で告知することにより,申込みをした者が,当該契約を維持するかどうかを事後的に冷静に判断する機会を与えることにあるから,書面により確実に交付することが求められていると解され,単にダウンロードできたことをもって書面の交付があったということはできず,この点に関する被告の主張は採用できず,少なくとも,本件各解除までに書面の交付があったとは認められない。」

 

 以上のように本判決は、特定商取引法が書面の交付を要求した趣旨からすれば、法定書面はまさに「書面」として確実に交付することが必要であると判断しています。

 契約内容を記載した電子データがダウンロード可能であれば書面の交付があったと評価しても良いのではないかという考えは一見すると説得力があるようにも思われますが、他方で、電子データは差し替えや削除が容易であり、契約時の規約が後日別のものに変更されたり削除される危険が否定できないことも踏まえると、ダウンロード可能な状況しただけでは足りないとした本判決の判示は妥当なものと考えます。

 

弁護士 平本丈之亮

 

2020年7月21日 | カテゴリー : コラム, 消費者 | 投稿者 : 川上・吉江法律事務所