代車料はどこまで払ってもらえるのか?~交通事故⑪~

  交通事故で車両が傷ついた場合、修理期間中、代車を提供してもらえたり、自分で代車を手配する場合があります。

 では、このような代車料は、はたしてどの程度、相手方に負担してもらえるのでしょうか?

 今回は、意外と難しい代車料について詳しく説明していきたいと思います。

 

<代車使用の必要性>

 そもそも代車料が認められるのは、日常生活において自動車を利用する必要性がある場合に限られます。

 そのため、営業車のように必要性が明らかな車両ではなく自家用車の場合、例えば休みのときのレジャーにしか使用していないようなケースだと、代車利用の必要性がないとして代車料が否定されることがあります。

 また、事故にあった自動車を通勤に利用していたとしても、自宅に何台か自動車があり他の自動車で十分に用を足せる場合や、公共交通機関を利用することで通勤が可能な場合などにも否定されることがあります。

 

 もっとも、例えば、通勤用ではないが家族の通院や介護のため送迎に使う必要がある場合や、公共交通機関を利用すると大幅に通勤時間が増えてしまう場合、早朝や深夜など公共交通機関を利用できない事情がある場合などであれば代車の必要性が認められることがありますし、また、複数の自動車を保有していても、その自動車が日常的に他の用途に使用されているため代車としては使えない場合であれば認められる可能性もあります。

 そのため、代車料の請求を巡って問題が生じた場合には、これらの事情を積極的に主張し、代車を使う必要があることを説明していくことになります。

 なお、公共交通機関の利用が可能であることを理由に代車料が否定される場合、代わりに公共交通機関の利用料金相当額を損害として求めていくことになります。

 

<代車料が認められる期間>

 代車を使用する必要性が認められる場合、次に問題となるのが、代車料はいつまで負担してもらえるのか、という期間の問題です。

 この点は、修理が可能なケースと、経済的全損のケースで長さが異なります。

 

【修理可能なケース】

 まず、修理が可能なケース(=技術的に修理可能であり、かつ、修理に要する費用が買替費用を下回る場合)については、通常、1~2週間程度が認められています。

 もっとも、修理に要する期間といっても、事故にあった自動車の車種や年式、壊れ方によって変わることがありますので、たとえば部品調達に時間がかかるようなケースであれば、認められる期間が伸びる可能性もあります。

 

【経済的全損のケース】

 これに対して、修理費用が高額となり、買い替えた方がむしろ費用が安いというケース(=経済的全損)では、買い替えに必要な期間として、概ね1か月程度の代車料が認められています。

 ただし、事故車の用途が営業用であり、買い替える際に営業車登録をする必要がある場合には、その登録に時間がかかるといった特別な事情があれば、その分、期間が伸びる場合もあります。

 

<代車料の金額>

 代車料として請求できる金額は、基本的には事故にあった自動車と同種同等以下のグレードの自動車のレンタル料金に限られます。

 通常の国産車であれば、1日当たり5000円から1万5000円程度、国産高級車の場合は、1日あたり1万5000円から2万5000円程度が認められることが多いと思います。

 なお、事故車が高級外国車の場合でも、外国車を使用しなければならない合理的な必要性がない限り、国産高級車の限度の代車料しか認められません。

 

<代車料の支出がない場合>

 代車料を請求するためには、実際に代車料を支出していることが必要であり、何らかの理由によって実際には代車を使用していなかった場合、仮に代車を利用していればこれだけの費用がかかったはずである、という形での請求は認められません(認めた裁判例もあるようですが、少数にとどまっています)。

 

<レンタカー特約(代車特約)について>

 これまで説明した通り、代車料の請求は修理や買替に要する期間に限られるため、実際に代車を使用してしまってから、実は支払われない部分があったということがあり得ます。

 このようなときは、過大と判断された部分は自己負担とならざるを得ないのが原則ですが、被害者側がいわゆるレンタカー特約に入っている場合には、代車料をそこから出してもらえることがあります。

 そのため、事故によって代車を使用するかどうかを検討する場合には、相手に対してどこまで請求できるのかという視点とは別に、ご自分がそのような特約に入っていないかも確認しておくことをお勧めします。

 

 代車料については文献やインターネット上での情報も多い分野ですが、ご相談をお受けしていると、意外と認められる範囲についてご存じのない方もいらっしゃいます。

 当然に全額が支払われると考えていたところ、思わぬ形で自己負担を余儀なくされることがあり得ますので、代車料についてはくれぐれもご注意ください。

 

弁護士 平本 丈之亮

 

遺産分割の前に預金を引き出すことはできるのか?~遺産相続③~

 遺産分割のご相談をお受けする中で、亡くなった方の相続手続(遺産分割)はまだ先になりそうだが、当面の対応のために預金を下ろしたいというお話があります。

 このような場合、以前であれば、各相続人はそれぞれの法定相続分に応じて単独で金融機関に支払いを求める裁判を起こすことができましたが、最高裁によって、預金については相続人全員の合意がない限り下ろすことができないという判断がなされましたので、以前のような方法はとれなくなりました。

 もっとも、遺産分割は終了するまで時間がかかることが多く、他方、葬儀費用や当面の支払いなどを行うために一定額を引き出したいというニーズがあるのも事実ですので、この点に対処するため、法改正によって以下のような手段を講じることができるようになりました。

 

<遺産分割前の相続預金の払い戻しの制度(民法909条の2>

 各相続人は、【相続開始時点の各口座の預貯金額の3分の1×法定相続分】(かつ、1金融機関ごとに合計150万円)の限度で、直接、金融機関に対して支払いを請求することができます。

 この制度は、あくまで金融機関に対して直接支払いを請求するというものであり、裁判所に対する申立など特別な手続は不要なため、少額のケースであれば使い勝手は良いと思います。

 この制度を利用して預金を払い戻しをした場合、払い戻した金額は遺産の一部分割によって取得したものとみなされ、最終的な遺産分割の時点でその分が控除されることになります。

 なお、この制度は、令和元年7月1日から施行されていますが、7月1日以前に相続が開始した場合でも利用することができるとされています。

 

【払い戻しすぎに注意】

 上記のとおり、払い戻しの限度額は法定相続分を基準に決められていますので、生前贈与などの特別受益や他の相続人の寄与分によって、実は払戻した額がもらいすぎだったことが判明した場合、後日、その超過分を他の相続人に返還しなければならなくなりますので、払戻額については慎重に考える必要があります。 

 

<仮分割仮処分(家事事件手続法200条3項)>

 この制度は、家庭裁判所に遺産分割の調停・審判の申立をしているケースで、裁判所に払い戻しを認める審判を申し立て、裁判所の審判を得た上で払い戻すというものです。

 裁判所が関与するため、さきほどの制度と異なり上限について具体的な決まりはありませんが、その代わり以下の条件を満たす必要があります。

 

①遺産分割の調停・審判の申立がされていること

②亡くなった人の生前の債務の支払いや相続人自身の生活費の支払いなど、遺産に属する預貯金を払い戻す必要性があること

③他の相続人の利益を害さないこと

④相続人全員の意見を聞くこと

 

 正式な遺産分割前に預金を払い戻しする必要性があり、かつ、他の相続人の利益を害さないこと、という絞りがかけられている分、条件は厳しめになっていますが、150万円を超える金額を払い戻す必要があるケースでは検討する価値のある方法です(この改正がなされるまでは、②の条件について「急迫の危険」を避ける必要があるとき、という厳格な条件があり使い勝手が良くなかったため、条件が一部緩和されたものです)。

 

 以上のとおり、相続預金についてはこれまでの取り扱いからの変更がありますので、相続預金の払い戻しが必要な場合にはご注意いただければと思います。

 

弁護士 平本丈之亮

駐車場の交差部分での出会い頭事故の過失割合~交通事故⑩~

 最近では郊外型の大型ショッピングモールが進出し、スーパーなどの店舗の大型化も相まって収容台数の多い駐車場を持つ店が多くなりましたが、それに伴い駐車場内での事故に関するご相談も増えています。

 今回は、駐車場内での事故のうちもっとも典型的な事故類型である、通路の交差部分での四輪車同士の出会い頭事故に関する過失割合について、別冊判例タイムズ38号をもとに説明していきたいと思います(なお、類似のものとしてT字路交差部分での事故類型がありますが、今回は割愛します)。

 

<典型的な事故状況>

 

<基本の過失割合>

 50:50

 

 駐車場内の交差部分における四輪車同士の出会い頭事故については、直進・右折・左折の区別なく、双方の過失割合は50:50が基本とされています。

 交差部分に入ろうとし、あるいは交差部分を通行する自動車は、お互いに他の自動車が通行することを予想して安全を確認し、交差部分の状況に応じて他の自動車との衝突を回避できるような速度・方法で通行する注意義務があり、そのような注意義務の程度はお互いに同等であると考えられているからです。

 

<過失割合の修正要素>

 もっとも、以下のようなケースでは、このような基本的な過失割合が修正されることがあります。

 

【どちらかの通路が狭く、他方が明らかに広い通路だった場合】

 狭い方の通路を進行していた車両に対して+10% 

 

 広い通路は狭い通路に比べて通行量が多いことが想定されますから、狭い通路から交差部分に入ろうとする車両は、広い通路を通行している車両よりも注意すべきであると考えられているためです。

 ちなみに、「明らかに広い」とは、運転者が、通路の交差部分の入口において通路の幅員が客観的にかなり広いと一見して見分けられるものを言うとされていますので、ぱっと見て、そこまで違いが分からないような場合にはこの修正要素には当てはまりません。

 

【一時停止・通行方向標示等違反】

 標示に違反した側に+15~20%

 

 一時停止や通行方向の標示は、駐車場の設置者が通路の構造や状況を考慮して安全のため設置したものですから、駐車場内を通行する車両はその指示に従うべきですし、このような場合、通行車両は他の車両も設置者の指示に従うことを期待していますので、従わなかった者には著しい過失があるとして過失割合が修正(加算)されます。

 なお、一時停止等に対する違反行為があったほかに、狭路・広路の修正要素にも追加で当てはまる場合(たとえば、Aに一時停止違反があり、かつ、A側が狭路だったケース)には、2つの違反をまとめて20%の修正がかかります(Aに+20)。

 

【「著しい過失」・「重過失」】

 「著しい過失」がある側に+10% 

 「重過失」がある側に+20%

 

 運転者に「著しい過失」、「重過失」がある場合には、上記のとおり修正がなされます。

 「著しい過失」、「重過失」の具体例は以下の通りです(なお、一時停止・通行方向標示等違反も「著しい過失」の一つとされています)。

 

【著しい過失=事故態様ごとに通常想定されている程度を越えるような過失】

①脇見運転などの著しい前方不注視

②著しいハンドル・ブレーキ操作の不適切

③携帯電話などを通話のために使用したり画像を注視しながらの運転

④他方の車両が明らかに先に交差部分に入っていた場合(※1)

⑤交差部分の手前で減速しなかった場合(※2)

⑥酒気帯び運転(※3) など

※1 先入した車両に一時停止等の違反がある場合には適用しない。

※2 交差部分の手前で急ブレーキをかけた場合は減速したとは扱わない。

※3 血液1ミリリットルあたり0.3ミリグラム以上又は呼気1リットルにつき0.15ミリグラム以上

 

【重過失=故意に比肩する重大な過失】

①酒酔い運転(酒気を帯びた上、アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態での運転)

②居眠り運転

③無免許運転

④過労、病気、薬物の影響その他の理由により正常な運転ができないおそれがある状態で運転 など

 

 なお、公道上の事故においては、一定の速度超過は「著しい過失」や「重過失」に該当するとされていますが(「交通事故における「著しい過失」と「重過失」の意味は?~交通事故⑧~」)、別冊判タ38号では駐車場での事故についてこの点が明示されていません。

 駐車場内においては低速での通行が想定されているためではないかと思いますが、制限速度が標示されている駐車場もありますし、そもそも、駐車場だからという理由だけで車両速度が過失に影響しないというのは常識に反するため、想定される範囲を大幅に超えた速度で駐車場内を走行した場合には、その程度に応じて過失割合に影響があるのではないか思われます。

 

弁護士 平本 丈之亮

デート商法・恋人商法で契約させられたら~改正消費者契約法~

 悪質商法の手口として、「デート商法」「恋人商法」というものがあります。

 「デート商法」「恋人商法」とは、典型的には異性に好意を抱かせ、その好意を利用して商品などを販売する勧誘手法ですが、最近でも、婚活アプリで知り合った業者から投資を勧誘された女性が銀行から借り入れをして振込をしてしまったという報道もあり、悪質商法として古くからある勧誘手口の一つです。

 

<従来の対処法と法改正>

 「デート商法」によって契約をすると次第に勧誘者との連絡が取れなくなるため、そこで自分が被害に遭ったことに気付き、相談に至るというケースが多くあります。

 

 このような場合の契約解消の方法としては、販売目的を隠したまま店舗に連れて行くような典型的な手口であれば「クーリング・オフ」(特定商取引法)が使えますし、勧誘の際に重要な事柄について事実と異なることを告げていたり、「必ず儲かる」などの断定的なことを告げていた場合には「取消」を主張する(消費者契約法・「不実告知」「断定的判断の提供」)という方法もあります。

 

 しかし、何度もデートを重ねてから契約を結ばせるなど、好意は利用したかもしれないが販売目的であることは告げた上で店舗に連れて行ったようなケースや、虚偽の事実や断定的な判断を告げたとまではいいがたいケースなどでは、クーリング・オフ等の法律の適用について争いが生じ、販売業者との交渉が難航することがありました。

 また、このような不当な勧誘は公序良俗に反するなどといった理屈で契約の無効を主張することも行われていましたが、要件が明確ではなく、交渉の場では使いづらいという問題もありました。

 

 このような状況のもと、今回、好意の感情を利用した勧誘方法をストレートに規制対象とする法改正がなされ、「デート商法」「恋人商法」への対処法のメニューが一つ増えることとなりました(改正消費者契約法第4条3項第4号)。

 

<好意の感情の不当利用による取消>

 改正後の消費者契約法では、以下の要件を満たした場合、消費者は事業者との間の契約を取り消すことができます。

 

①消費者が社会生活上の経験が乏しいこと

②消費者が、勧誘者に対して恋愛感情その他の好意の感情を抱いたこと

③消費者が、勧誘者の方も自分に同じような感情を抱いていると誤信したこと

④勧誘者が、消費者がそのように誤信していることを知りながら、これに乗じ、契約しなければ自分との関係が破綻すると告げたこと

⑤消費者が、契約しなければ関係が破綻すると言われたことに困惑して契約したこと

 

【デートすることは取消の要件ではない】

 このコラムでは、分かりやすい表現として「デート商法」という言葉を使っていますが、上記の要件から明らかなとおり、取消をするためにはデートをすることは必要ではありません。

 したがって、いわゆる「出会い系サイト」などを利用した非対面でのやりとりを通じて契約させられた場合でも、上記の要件に当てはまれば取消は可能です。

 

【具体例1】

 女性が男性とデートをし、男性側が自分に好意を持っていることを知りながら、勤務先の会社のノルマがあり、達成できないと解雇されて遠方の実家に戻らなければならず、もう会えなくなるなどと告げて、男性に商品を購入させた場合

 

【具体例2】

 会社経営者の男性が、婚活アプリで知り合った女性とデートをし、女性側が自分に好意を持っていること知りながら、自分の会社の資金繰りが悪く、このままでは倒産してもう会えなくなるなどと告げて、女性に自社の商品を購入させた場合

 

【「社会生活上の経験が乏しい」とは?】

 主に若年者を念頭に置いた要件ではありますが、「社会生活上の経験が乏しい」かどうかは、必ずしも年齢によって決まるものではありません。

 消費者庁の解説によれば、「社会生活上の経験が乏しい」とは、社会生活上の経験の積み重ねが、その契約をするかしないかを適切に判断するのに必要な程度に達していないことをいうとされており、それまでの就労経験や他者との交友関係などの事情を総合的に考慮して判断するとされています。

 したがって、中高年であっても社会生活上の経験に乏しいと判断されることもありますし、逆に、若年者であっても、それまでの社会経験次第ではこの要件に当てはまらない場合があり得ます。

 

【「好意の感情」とは?】

 恋愛感情「その他の好意の感情」とされているとおり、必ずしも恋愛感情には限られません。

 もっとも、消費者庁の解説によると、単なる友情は含まず相当程度に親密である必要があり、恋愛感情と同程度の特別な好意でなければならないとされています(たとえば、勧誘者と消費者が家族同然の仲であるような場合には「好意の感情」に該当し得るとされています)。

 

 

 「デート商法」「恋人商法」は、恋愛感情や好意の感情という人の自然な気持ちを利用するものであり、経済的な被害だけにとどまらない被害が生じる点で非常に悪質な勧誘手法と言えます。

 今回の消費者契約法の改正によって、このような勧誘手法が正面から違法であると規定されたことには大きな意味があり、消費生活センターなどの相談現場での積極的な活用が期待されます(なお、施行日は本年6月15日です)。

 

弁護士 平本丈之亮

 

 

無料求人広告トラブルについて

 最近、インターネット上の求人広告掲載に関するトラブルのご相談が増えています。

 

<相談の概要>

 ハローワーク等に求人を出している事業者に対し、主に首都圏の業者から電話による勧誘が行われるのですが、ご相談の内容として共通しているのは『無料だと言われて申し込んだのに、気付いた時には有料の契約に移行してしまい、多額の料金を請求されている』というものです。

 

<無料であることを強調した勧誘→後日請求>

 無料であることを強調した勧誘がなされ、申込書などがFAXで送られてくるのですが、申込書には小さな文字で「規約に同意の上申し込みます」とか「無料キャンペーン期間終了後は有料となります」と記載されており、申込書と一緒に送られてくる規約を良く読んでみると「本契約終了日の4日以上前に書面での申し出がない限り、選択した期間毎の広告掲載料金を支払うものとします」と記載されているのです。

 

 たとえば、20日間という期間を選択した場合、最初の20日間は無料なのですが、契約終了日の4日以上前までに書面で解約の申し出をしなければ契約が更新されてしまい、次の20日間は有料の契約となってしまうのです。

 

 全国的にも同様の被害事例が多数報告されており、当職も各地の弁護士と連絡を取り合って悪質な業者に関する情報交換を行い、対応を検討しておりますので、このようなトラブルに巻き込まれた事業者様は是非ご相談ください。

 

 弁護士 川上博基

 

2019年5月30日 | カテゴリー : コラム | 投稿者 : kwkm-@dm1n

債務者の財産を調査する手続の拡大~改正民事執行法の話~

 裁判で金銭の支払いを命じる判決が下されたような場合、債務者の財産に強制執行をかけることができます。

 しかし、これまでの強制執行の実務では、債務者の財産を調べるための手段が少なく、裁判所での手続である「財産開示手続」も債務者に対するペナルティーが軽く実効性が乏しかったため、権利はあるものの回収不能になるというケースがありました。

 このように、債権回収の場面においては、長年、民事執行手続の機能不全と法改正の必要性が叫ばれてきたところですが、この点について、令和元年5月10日、民事執行法に重要な改正がありましたのでご紹介します。

 

<改正の概要(第三者からの情報取得手続の創設)>

 今回の改正では、債務者の財産のうち不動産、給与、預貯金等の金融資産に関する情報について、その情報を有する第三者から情報を取得できるようになりました。

 ここでのポイントは、財産に関する情報を債務者に開示させるのではなく、情報を有する第三者から直接取得できるようになったという点であり、これは従来の民事執行法では認められていなかった新たな制度であって、この制度の活用により債権回収の可能性が高まることが期待されています。

 以下では、それぞれの制度について、申立権者や、申立の要件などを説明します。

 

<債務者の不動産に関する情報取得(第205条)>

 裁判所は、以下の場合、登記所に対して、債務者が所有権の登記名義人である土地建物(及びこれに準ずる物として法務省令で定める物)に対する強制執行又は担保権の実行を申し立てるために必要な事項(詳細は最高裁判所規則で定める)について情報提供を命じなければならない、とされました。

 この制度によって、債務者の不動産を調査し、調査の結果、不動産があることが分かれば、差押をかけることができるようになります。

 

【申立人】

①執行力のある債務名義(判決・和解調書など)の正本を有する金銭債権の債権者

②債務者の財産について一般の先取特権を有することを証する文書を提出した債権者

 

<債務者の給与に関する情報取得(第206条)

 裁判所は、以下の場合、市町村、特別区、その他の団体(日本年金機構・国家公務員共済組合・国家公務員共済組合連合会・地方公務員共済組合・全国市町村職員共済組合連合会・日本私立学校振興・共済事業団)に対して、給与等に対する強制執行又は担保権の実行を申し立てるのに必要な事項(詳細は最高裁判所規則で定める)について情報提供を命じなければならない、とされました。

 市町村や共済組合などには給与所得者の勤務先の情報がありますので、これを問い合わせることで債務者の勤務先を特定し、給与の差押ができるようになる可能性があります。

 ただし、この制度による情報開示は債務者に対する不利益が大きいことから、申立ができる資格が以下の通り限定されています。

 

【申立人】

①婚姻費用債権・養育費債権・扶養料債権に関して執行力のある債務名義の正本を有する債権者

 

②人の生命若しくは身体の侵害による損害賠償請求権について執行力のある債務名義の正本を有する債権者

 

<債務者の預貯金口座等に関する情報取得(第207条)>

 裁判所は、以下の場合、金融機関等に対し、預貯金等に関する情報の提供を命じなければならない、とされれました。

 金融機関に対する照会については、これまでも「弁護士会照会」によって開示を受けられるケースはありましたが、この制度が設けられたことにより、より一層、スムーズに情報提供を受けられるようになることが期待されます。

 

【申立人】

①執行力のある債務名義の正本を有する金銭債権の債権者

 

②債務者の財産について一般の先取特権を有することを証する文書を提出した債権者

 

【照会先及び提供を受けることができる情報】

①銀行等の金融機関

 預貯金債権に対する強制執行又は担保権の実行の申立をするのに必要な事項(詳細は最高裁判所規則で定める)

 

②証券保管振替機構・証券会社・信託銀行など

 債務者の有する預金以外の金融資産に関する強制執行又は担保権の実行の申立をするのに必要な事項(詳細は最高裁判所規則で定める)

 

<申立の要件>

 この制度を利用するための要件は、概ね以下のとおりです。

 

①強制執行や担保権の実行をしたが、全額の回収ができなかったとき。

 

②知っている財産に強制執行をかけても全額の回収ができないことを疎明(※)したとき

※「疎明」=裁判官が一応確からしいという推測を得た状態

 

<施行日>

 この改正法の施行日は、公布日(令和元年5月17日)から1年以内とされています。

 

 

 日々の相談業務の中で、権利自体はあるものの回収可能性が問題になる事案は相当数存在します。

 これまでは、費用倒れのリスクを考えると裁判や強制執行まで行うのは難しいとして、不本意ながら権利の実現を断念せざるを得ない場合もあったところですが、今回の改正はそのような不当な状況を打破するために役立つことは間違いありませんので、正当な権利者がきちんと権利を実現することができるよう、当職としても積極的に活用していきたいと思います。

 

 弁護士 平本 丈之亮

 

クーリング・オフの期間を過ぎても解約できる場合とは?

 以前、訪問販売での契約を解約する方法として「クーリング・オフ」制度をご説明しました(訪問販売での契約を解消したい場合 ~クーリング・オフ~)。

 クーリング・オフは、解約の理由を問うことなく自由に行使できるため、消費者トラブルを扱う現場で広く用いられている解決手段です。

 しかし、便利な反面、クーリング・オフは行使できる期間が決まっており、訪問販売であれば、契約書等の書面を交付されてから8日間と大変短く、期間を過ぎてしまってから相談に来られる方も多くいらっしゃいます。

 そこで、いったん期間を過ぎてしまえば、それ以降、一切クーリング・オフはできなくなるのか、というのが今回取り上げるテーマです。

 

<そもそも法定書面が交付されていない場合>

 クーリング・オフの期間は、法律で交付することが義務づけられている書面(=「法定書面」・・・典型的には契約書。それ以外だと申込書面)を交付したときから進行するため、法定書面が交付されていない限りいつまででも行使することが可能です。

 よくあるパターンとして、訪問販売業者が見積書だけを交付したが正式な契約書を渡していないということがありますが、このようなケースでは法定書面の交付がないため、口頭で合意してから8日を経過してしまってもクーリング・オフが可能です。

 

<法定書面に不備がある場合は?>

 そもそも法定書面の交付が義務づけられている理由は、訪問販売が不意打ち的な勧誘方法であるため、消費者が取引条件をよく確認・理解できないまま契約したり、契約内容が曖昧なまま契約したりする例が多く、契約内容や解約などを巡ってトラブルが発生しやすいことから、消費者に契約について冷静に判断する機会を与えてそのようなトラブルを防止し、消費者を保護することにあります。

 そのような趣旨に照らすと、一応書面は渡したものの、法定書面の記載事項(法律で決まっていますが、具体的には以下のようなもの(※)があります。)に不備があるという場合には、契約トラブルを防ぐという法律の目的が達成できないため、行使期間が経過してからのクーリング・オフも可能であるとされています。

 


※法定書面の記載事項の例

 ①事業者名・住所 ②担当者の氏名 ③商品名および商品の商標または製造者名

 ④商品の型式 ⑤商品若しくは権利又は役務の種類 ⑥商品・権利の代金、役務の対価

 ⑦代金・対価の支払方法・支払時期 ⑧商品の引渡時期・権利の移転時期・役務の提供時期

 ⑨クーリング・オフの要件および効果(赤枠・赤字・8ポイント以上の活字)

 ⑩契約の申込み・締結の年月日


 

<大阪地裁平成30年9月27日判決>

 法定書面の記載事項に不備があることを理由にクーリング・オフを認めた裁判例はいくつかありますが、ここでは、最近の裁判例として、訪問リフォームの契約について、契約から約3ヶ月後のクーリング・オフを認めた大阪地裁の判決を紹介します。

 

【法定書面の記載事項は厳格に(=細かく)書く必要がある】

 まず、裁判所は、一般論として、法定書面の「記載事項の記載があるか否かは、厳格に解釈すべきであ」るとしたうえで、「商品若しくは権利又は役務の種類」という記載事項の解釈として、「内容が複雑な権利又は役務については、その属性に鑑み、記載可能なものをできるだけ詳細に記載する必要がある。」と述べました。

 そして、問題となった契約書に「ペンキ塗装工事 ニッペファインウレタン 2工程 一式」との記載があった点について、工事内容は外廻りのペンキ塗装であり、工事範囲は自宅の玄関ドア、入口ドア、ガレージドア、勝手口ドア、破風、雨樋などであったところ、そのような外廻りのペンキ塗装工事の具体的な内容は契約書の記載からは明確ではなく、この契約書や、契約書以外に交付された打ち合わせシートや約款に記載された内容だけでは「商品若しくは権利又は役務の種類」の記載があったとはいえない、と判示しました。

 

【他の書面を用いて記載事項を補完することもできるが、法定書面との一体性・同時交付が必要】

 また、業者側は、契約書・打ち合わせシート・約款の記載だけでは足りないとしても、それ以外にも見積書を交付しているため、これも併せれば全体として不備はないはずであると主張しました。

 しかし、裁判所は、一つの書面に書ききれない場合は「別紙による」と記載したうえで、足りない部分を別の書面で補うことは可能だが、その場合、法定書面を補うための書面は、「法定書面との一体性が明らかになるような形で、かつ、法定書面と同時に交付する必要がある」として、業者が主張する見積書が契約締結の約1ヶ月半前に交付されたものであることや(×同時交付)、見積書の中に問題となった契約以外の他の見積書が含まれており、他の見積と誤認・混同する可能性が否定できないこと(×法定書面との一体性)を理由に、このような主張も認めませんでした。

 さらに、このケースでは、契約書とは別に、工事内容を細かく記載した確認書も交付されていましたが、契約書の中にこの確認書に関する記載がなかったため、確認書による補完も認めませんでした(×法定書面との一体性)。

 

 

 このように、たとえ期間が過ぎていたとしても、契約書の交付がない、あるいは不備があるようなケースであれば、クーリング・オフが認められる可能性はあります。

 もっとも、契約書などの法定書面に不備があるかどうかの判断は、そもそもどのような事項が法定記載事項になっているかという知識が必要ですし、それぞれの記載事項としてどの程度のことが書いてあれば十分なのか、複数の書面が交付されている場合に一体性の要件を満たしているかどうかなどを一般の方が判断することは難しいと思われます。

 したがって、期間が過ぎてしまったがクーリング・オフできるかどうか分からないという場合には、最寄りの消費生活センターなどに相談なさることをお勧めします。

 

弁護士 平本 丈之亮

 

 

 

 

 

免責不許可になる割合は?~自己破産⑧~

 自己破産を決断したときに気になるのは、自分の借金が本当に免除されるかどうかだと思います。

 以前のコラム(「自己破産できない場合とは?~自己破産⑤・免責不許可事由2~)でもお話ししたように、自己破産しても借金が免除されない場合はありますが、では、実際上、免責が不許可になるのはどれくらいの割合なのでしょうか?

 

 この点について、日本弁護士連合会の消費者問題対策委員会では、3年に一度、破産事件についての調査を行っています。

 直近の調査(2017年)は2016年6月1日から11月30日までの間における各地の破産記録から無作為に抽出した1238件についてのものであり、1年間のすべての破産記録を調査したわけではありませんが、これによると、免責不許可となったのは7件(0.57%)だったそうです(取り下げや死亡による終了などの割合も除くと,許可率は96.77%)。

 

 なお、過去の調査結果は以下の通りであり、これをみると、調査対象が全ての事件ではないことを考慮しても、多くの事件で免責が許可されていると言って良い状況と思われます。

 

 2014年調査 0%

 2011年調査 0.08%

 2008年調査 0.17%

 2005年調査 0.26%

 

 このように、免責については広く許可が出ている状況ですが、他方で、裁判所から免責について否定的な見解を示されて申立の取り下げを促された結果、個人再生に方針を変更したとか、安全策をとって最初から個人再生の方向で進めたなど、免責不許可という事態が表面化しなかっただけというケースもそれなりにあるのではないかと思っています

 免責不許可となる可能性がどの程度あるのかはその人自身の抱えている問題によって大きく変わり、この調査結果だけでは結論を出せませんので、ご自分で破産を申し立てることを検討している方でも、気になる方は一度弁護士や司法書士などの専門家に相談されることをお勧めします。

 

弁護士 平本丈之亮

 

 

相続法の改正について・その3~自筆証書遺言の方式の緩和・遺言書保管制度~

 相続法の改正に関するコラムも3回目ですが、今回で最後となります。

 今回取り上げるのは、自筆証書遺言に関する改正です。

 


 第1回(相続法の改正について・その1~配偶者(短期)居住権

 第2回(相続法の改正について・その2~親族の特別の寄与制度 


 

<自筆証書遺言の方式の緩和(財産目録の代書など)>

 これまでの自筆証書遺言は、「自筆」とあるとおり、遺言書の全文・日付・氏名を自分で書いて印鑑を押す必要があり、代書やパソコンで遺産の目録を作成することも認められていませんでした。

 しかし、このような取り扱いだと、遺産がいくつもある場合に目録を作るのが大変であり、遺言書を作成したいという人のニーズに必ずしも応えられていない部分がありました。

 そこで、今回の改正によって自筆証書遺言の方式が一部緩和されることになりました。

 

 具体的には、財産目録について自筆が不要となり、目録をパソコンによって作成することや代書も良いことになったほか、目録を作る代わりに、不動産の全部事項証明書(いわゆる登記簿謄本)や通帳のコピーを遺言書に添付しても良いことになりました。

 なお、代書やパソコン作成などが可能となるのはあくまで遺産の目録だけであり、それ以外の部分(本文・日付・氏名)はこれまでと同じく自署が必要ですので、遺言書のすべてを代書やパソコンで作ることはできません(体力の衰えなどによって自署できないケースでは、これまでどおり公正証書遺言が適しているといえます)。

 また、このような取り扱いを認めると、以前よりも遺言書の偽造の危険が高まりますので、そのようなことが起きないよう、遺産目録や添付した通帳などの各ページにはそれぞれ自署と押印が必要とされています。

 

<自筆証書遺言の保管制度>

 自筆証書遺言は、自分で作ることができ費用もかからないため、公正証書遺言と比べて作りやすいタイプの遺言です。

 しかし、作りやすい反面、公正証書遺言に比べ、紛失したり、相続人の一部によって隠されたり破棄されてしまう危険性も高く、作成した遺言書をどのように保管するかについては課題がありました。

 これまでは、自宅で保管する方法以外にも、たとえば遺言書を信頼できる推定相続人に託したり、金融機関の貸金庫に保管しておくという対応がなされていましたが、今回、このような方法に加えて、自筆証書遺言を法務局に保管してもらえるという制度ができました(法務局における遺言書の保管等に関する法律)。 

 この制度は、法務局内に設置される「遺言書保管所」に本人が来所し、保管の申請をすることによって利用することができますが、この制度を利用した場合の特徴は以下のとおりです。

 

1 家庭裁判所の検認手続が不要となる

 この制度を利用していない自筆証書遺言は、これまでどおり家裁での検認が必要ですので、この制度を利用すると、相続発生後の手続が少し軽くなります。

 

2 遺言者の死亡後、相続人(や受遺者)が全国の遺言書保管所において、遺言書が保管されているかどうか調べること(遺言書保管事実証明書の交付請求)、遺言書の写しを請求すること(遺言書情報証明書の交付請求)、遺言書の閲覧を請求することができる

 これにより、遺言書の存在や内容が不明になるリスクがある、という自筆証書遺言の弱点をカバーすることができます。

 

 なお、遺言書の保管申請や閲覧請求、遺言書保管事実証明書・遺言書情報証明書の交付請求にはそれぞれ手数料が必要ですが、具体的な金額はまだ決まっていないとのことです(2019年3月現在)。

 

<施行日>

 自筆証書遺言の方式の緩和は、2019年1月13日から施行されています。

 遺言書の保管制度については、2020年7月10日からのスタートです。

 

弁護士 平本 丈之亮

 

 

 

 

 

 

相続法の改正について・その2~親族の特別の寄与制度~

 前回(「相続法の改正について・その1~配偶者(短期)居住権」)に引き続き、今回も相続法の改正についてお話していきます。

 今回取り上げるのは、親族の特別の寄与制度(改正民法第1050条)についてのお話です。

 

<親族の特別の寄与制度とは?>

 この制度は、相続人以外の親族が、亡くなった方(被相続人)に対して無償で療養看護などの特別の貢献をし、そのことによって遺産が維持されたり増えたような場合に、「特別寄与料」を請求することを認める制度です。

 

<要件①~親族(相続人などを除く)>

 この制度の対象となるのは、相続人(・相続放棄者・相続欠格者・排除者)以外の、被相続人の「親族」(=6親等内の血族・配偶者・三親等内の姻族(民法752条))です。

 相続欠格者や排除者などはレアケースだと思いますので通常は相続人以外の親族が対象ということになりますが、具体的には以下のような場合が想定されています。

 

例1 被相続人=義理の母親 特別寄与者=長男の妻 

 長男である夫の死亡後、長男の妻が義理の母親の面倒を見ていたケース(夫が義母より先に亡くなると、妻は義母の相続について相続権がない)

 

例2 被相続人=兄 特別寄与者=妹

 兄には妻子がいたが折り合いが悪かったので別居しており、代わりに妹が兄の面倒を見ていたケース(兄の相続人は妻子のため、妹は兄の相続について相続権がない)

 

例3 被相続人=義理の父親 特別寄与者=妻の連れ子

 義理の父親が母と結婚したが、母の連れ子とは養子縁組していなかったところ、母の死後に連れ子が義理の父親の面倒を見ていたケース(母の連れ子には義理の父親の相続権はない)

 

【内縁の妻は対象外】

 また、法律で「親族」の範囲が決まっているため、内縁の妻が内縁の夫の母親の看病をしていた場合にはこの制度の対象にはなりません。

 

<要件②~療養看護その他の労務を提供したこと>

 特別寄与料が認められるには、被相続人のために療養看護その他「労務を提供したこと」が必要です。

 労務の提供が必要ですので、金銭的に援助した場合は対象になりません(この点で、相続人自身の「寄与分」の制度とは異なります)。

 

<要件③~無償であること>

 労務の提供は「無償」であることが必要です。

 したがって、面倒を見る代わりに金銭的な対価を得ていた場合(生活費を負担してもらっていた場合など)や、被相続人の所有する建物に住まわせてもらっていたなどの場合には対象にならない可能性があります。

 

<要件④~財産の維持又は増加に「特別の寄与」をしたこと>

 「特別の寄与」、すなわち、親族間で通常期待される程度を超える貢献をしたことが必要であり、ここでいう「特別」とは、貢献の程度が一定程度を越えることを意味するとされていますが、どの程度のことをすれば特別の寄与をしたことになるかは現時点では何とも言えないところです。

 また、たとえ無償で労務を提供していたとしても、財産の維持・増加に寄与したとはいえない場合には、この制度による特別寄与料の請求はできないことにも注意が必要です(たとえば、交通事故で死亡し、多額の賠償金が支払われた場合などが考えられます)。

 

<特別寄与料は誰にどうやって請求するのか?>

 特別寄与料は、相続人に対して請求できる権利ですが、それぞれの相続人に対しては、法定相続分(あるいは指定相続分)の割合で請求することができます。

 具体的な請求方法について、法律では、まずは相続人と話し合いをすることとしていますが、折り合いがつかないときやそもそも話し合いができないときは、家庭裁判所に協議に代わる処分を求める審判の申立をすることができ、家庭裁判所に金額を決めてもらうことができます。

 なお、この申立は、遺産分割と同時に行う必要はありません(遺産分割の審判が係属しているときに、裁判所の裁量で遺産分割と同時進行とされる場合はあると思いますが、あくまで遺産分割とは別の問題です)。

 

<特別寄与料には上限がある>

 特別寄与料は無制限に認められるものではなく、【相続開始時の遺産額-遺贈の額】が上限となっています。

 したがって、たとえば相続開始時の遺産が全体で1000万円だったが、その中から700万円を誰かにあげるという遺言があった場合には、特別寄与料の上限は300万円となります。

 要するに、親族の特別寄与料よりも、被相続人の最後の意思である遺贈の方が優先されるということです。

 

<期間制限に注意>

 特別寄与料の請求は、①又は②のいずれかまでに家裁に申立をすることが必要ですが、期間が短いので注意を要します。

 

 ①相続開始及び相続人を知ったときから6ヶ月 

 ②相続開始から1年間

 

<施行時期>

 この改正については、2019年7月1日が施行日となっています。

 

弁護士 平本 丈之亮