当事務所では、遺留分について、請求側だけではなく請求された側の相談を受けることも多くあります。
そこで今回は、遺留分を請求されてしまった場合の対処法についてお話ししてみたいと思います。
1 請求された金額が過大でないか検討する
請求された遺留分が過大なケースとして、良くあるパターンは以下の2つです。
遺産のうち、評価額について問題となることが多いのは圧倒的に不動産の価値です。
不動産についてはいくつかの評価方法があり、固定資産評価額、相続税評価額、不動産業者の査定額、不動産鑑定評価などのいずれかを利用して金額を決めていくことになりますが、本来、計算の基礎となるべき評価額はあくまでその不動産の時価相当額です。
そのため、請求者側の方で意図的に過大な評価額に依拠して遺留分額を請求してくるという場合があるため、そのような疑いがあるときはこちら側も積極的に不動産価格を調査して反論していくことが有効です。
不動産以外にも、非公開会社の株式や自動車、美術品など評価額が問題となる遺産はあり、これも基本的には時価相当額はいくらかという観点から計算が過大でないかどうか検討していくことになります。
請求者自身が自分の受けた特別受益を隠しているというのも良くあるパターンです。
遺留分の請求には、その相続人が過去10年以内に受けた特別受益に該当する生前贈与を相続開始時の遺産に合算して基礎財産を計算したり、その後の計算によって算出された具体的な遺留分額から請求者である相続人の特別受益を控除する(こちらは10年の限定はありません。)といった複雑な計算が必要ですが、仮に請求者側に多額の特別受益があった場合には、その分、遺留分として支払うべき金額が少なくなります。
ところが、請求する側が、意図的にこの点の情報を隠して請求してくることがあることから、遺留分の請求を受けたときは、請求者にそのような生前贈与が存在しないかを追及していくことにより、相手の請求額を削ることができる可能性があります。
2 時効が成立していないか確認する
遺留分については、相続開始から10年という長期の期間制限のほか、相続開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知ったときから1年間という短期の期間制限があります。
そのため、遺留分の請求を受けた時点で、このような期間制限を過ぎていないかを検討し、過ぎている場合には期限の経過を理由に請求を拒める場合もあります。
3 支払期限の猶予をもらう(期限の許与)
以上のような様々な検討を踏まえても、やはりある程度の支払いはせざるを得ない場合、遺産の大部分が不動産などすぐにお金に換えることができないときは支払いに窮することがあります。
このような場合には、裁判所の判断により、遺留分の全部又は一部について支払期限を延ばすことができる場合があり(期限の許与 民法1047条5項)、相手が裁判を起こしてきたときはその中でこれを主張し、逆に、こちらから裁判を起こして期限の許与を求めることもできるとされています。
どの程度の猶予期間が得られるかは遺留分の金額や遺産の換金可能性などの事情によるためケースバイケースですが、たとえ支払い自体は避けられなくても資金準備のために時間を稼ぐ必要がある場合にはこれを活用することで強制執行のリスクを避けたり、遅延損害金の累積を防ぐことができます。
以上、今回は遺留分の請求を受けた場合の対策についてお話ししました。
遺留分の請求を受ける側は、自分が遺留分を侵害している、あるいは侵害しているかも知れないという負い目や親族間の力関係から、請求者に対して言うべきことを言えないということが良くあります。
客観的にみて遺留分を侵害している場合には支払うべきことは当然ですが、法的に正当な主張をすることで不当な要求を避けられる場合もありますので、お困りのときは弁護士にご相談下さい。
弁護士 平本丈之亮