不貞行為に基づく損害賠償請求をしたいというご相談を受けた場合、慰謝料以外に調査会社に対して支払った調査費用を請求できないか、というご要望を受けることがあります。
そこで今回は、この点について判断した近時の裁判例をいくつかご紹介します。
【東京地裁平成30年1月10日判決】 調査自体の必要性は否定できないものの、ほかに有力な証拠も存在しており必要不可欠なものとまではいいがたいこと、調査報告書が立証のために必要であったとはいいがたいことなどから調査費用の一部のみを損害として認めた事例 【東京地裁平成29年4月25日判決】 交際の相手方を特定できておらず配偶者が不貞行為を否定していた等の事情から、交際状況と相手方を把握して損害賠償請求権を行使するために必要なものであったとして、調査に要した費用の一部を不貞行為と相当因果関係のある損害であると認めた事例。 【東京地裁平成28年10月27日判決】 調査会社による調査の必要性自体は否定できないが調査結果は立証方法の一つにすぎないこと、原告は複数回の調査を調査会社に依頼しており調査の全てにつきその必要性があったか否かは明らかでないこと、調査内容は被告の行動を調査して書面により報告するというものでありそこまで専門性の高い調査とはいえないことなどから調査費用の一部のみを損害と認めた事例 【東京地裁平成28年2月16日判決】 原告が不貞行為を問いただした際、配偶者が不貞関係を認めず調査を行わざるを得なかったことを理由として原告主張の調査費用相当額を損害として認めた事例
【東京地裁令和2年10月7日判決】 不貞行為の存否は専門家の専門的調査、判断を要するようなものではないこと、相手方が性的関係を持ったことを否定しなかったことなどの事情から、調査費用が不貞行為と相当因果関係のある損害であるとは認められないとした事例(ただし、多額の調査費用をかけて不貞行為の有無を調査したことは慰謝料額を算定するにあたっての一事情として考慮すべきとされた。) 【東京地裁令和2年7月14日判決】 調査会社の調査結果の一部には不貞行為をうかがわせる事実がを含まれているが、不貞行為を推認させる事実を立証する証拠とはいえないとして,不法行為との相当因果関係を否定した事例 【東京地裁令和元年12月18日判決】 調査が不貞関係把握のために有効だとしても、調査費用が一般に不貞行為から生ずる損害とまでは言い難いとし、このような出費をしたことが慰謝料算定の一事由として考慮することがあり得るとしても、調査費用それ自体は不法行為と相当因果関係がある損害と評価することはできないとした事例 【東京地裁平成30年2月1日判決】 いかなる証拠収集方法を選択するかは専ら請求者の判断によるものであり、不貞行為との間に相当因果関係は認められないとした事例 【東京地裁平成29年12月19日判決】 調査費用が不貞関係の把握のために有効であることは確かであるとしても、一般に不貞行為という不法行為から生ずる費用とまでは言い難く相当因果関係があるとは認め難いとした事例 【札幌高裁平成28年11月17日判決】 配偶者が自ら不貞行為を認めていたなどの事情にかんがみると調査を利用しなければ不貞行為の相手方を知ることが不可能であったとまではいえないことや、調査の内容等も判然としないことから、調査費用を損害として認めなかった事例
以上のように、調査費用が損害に含まれるかについては裁判例の中でも判断が分かれているようですが、否定例の中でも、そもそも損害に含まれるものではないという考え方のほか、その事件では立証に不可欠とまではいえないから否定する、という風に事案次第では認める余地があるとする考え方で分かれています。
他方、肯定例においても、その調査が立証上、どの程度必要性があったのかという個別の事情に即して損害の範囲を判断しており、支出した調査費用がそのまま全額認められる例は多くないように思われました。
すべての裁判例を網羅できているわけではありませんが、以上のような裁判例が存在することからすると、調査費用については裁判で認められないか、認められたとしても支出した費用の一部に制限される可能性がありますので、調査会社に調査を依頼することを検討するときは、どこまで依頼するか(=どこまで費用をかけるか)について、しっかりと考える必要があると思います。
弁護士 平本丈之亮