駐停車中に追突された場合でも過失割合が100:0にならない場合がある?~交通事故⑨~

 

 交通事故の事故態様として比較的ご相談が多いのが、駐停車中の車両への追突事故というケースです。

 このような追突事故が起きた場合、追突した側が100%悪く、追突された側にはまったく落ち度はないというのが一般的な感覚かと思いますが、実は事情次第ではそのような結論にならないことがあります。

 駐停車中の追突事故の過失割合については、実務上広く用いられている文献である「別冊判例タイムズ38号」が様々なパターンでの考え方を示していますので、今回は、四輪車同士の交通事故のうち駐停車中の車への追突事故の過失割合について、基本的な考え方をご説明したいと思います。

 

典型的な事故状況

 

 【基本の過失割合】  

 A:B=100:0

 

 被追突車(B)が駐停車中の場合、基本的には被追突車(B)の側に過失はありません。

 

 【例外:Bにも過失があるとされるケース】 

 もっとも、以下のようなケースでは被追突車(B)の側にも落ち度があるとして、過失割合が修正されることになります。

 

 [1.現場の視界が不良の場合] 

 A:B=90:10(Bに+10%)

 

 以下のような理由があって現場の視界が悪い場合、後続車であるAからは前方に駐停車していたのBを発見するのが難しいため、過失割合が修正されます。

 

 ①雨が降っていた

 ②濃い霧がかかっていた

 ③夜間で街灯もなく暗い場所だった

 

 [2.Bが駐停車禁止場所に駐停車していた場合] 

 A:B=90:10(Bに+10%)

 

 この場合は、Bが法律で禁止された場所に車両を駐停車させたことで他の交通を妨害し、事故発生の危険性を高めているため、過失割合が修正されます。

 

 [3.夜間にBが警告措置(ハザード・三角反射板)をしていなかった場合] 

 A:B=90~80:10~20(Bに+10~20%)

 

 夜間は視界不良となることから、駐停車中の車がハザードランプを点灯するなど適切な警告措置を取っていなかった場合、後続車は駐停車車両の発見が困難となるためです。

 

 [4.Bの駐停車方法が不適切な場合] 

 A:B=90~80:10~20(Bに+10~20%)

 

 駐停車方法が不適切とされる具体例としては、以下のようなものがあります。

 

 ①道路幅が狭いところに駐停車した場合

 ②追い越し車線に駐停車した場合

 ③幹線道路など交通量の多いところに駐停車した場合

 ④車道を大きく塞ぐ形で駐停車した場合

 ⑤車両が汚れていて車両後部の反射板が見えなくなっているような場合

 

 車が駐停車するときは、法律上、道路の左端に沿い、かつ、他の交通の妨げにならないようにしなければならないとされていますが(道路交通法47条1項、2項)、①~④の場合はこの定めに反し、Bは交通事故の危険を増加させて追突事故を誘発させているため修正がなされます。

 ⑤については、反射板が汚れているとAからはBを見つけることが難しいということが修正の根拠とされていますが、別冊判タ38号ではこれも不適切な駐停車方法にあたると分類しています。

 

 [5.Bに「著しい過失」または「重過失」がある場合] 

著しい過失」 A:B=90:10(Bに+10%)

「重過失」   A:B=80:20(Bに+20%)

 

 これに該当しうる具体例としては以下のようなものがあります。

 

・自招事故によって駐停車した場合

・駐停車車両を放置していた場合

 

 ちなみに、どのような場合に「著しい過失」と「重過失」に振り分けられるかについて、別冊判タ38号では具体的な基準が明示されていませんが、この点は、自招事故に対するBの落ち度の程度やBが車両を放置していた時間帯や放置時間の長さ、幹線道路かどうか、当時の道路状況など個別の事情によってケースバイケースの判断になると思われます。

 

 【例外の例外もある】 

 以上の通り、一定の事情がある場合には、駐停車中の追突事故であっても被追突車(B)の側に過失があるという判断がなされます。

 もっとも、そのようなケースであっても、以下の場合には、例外の例外として、さらに追突事故についての過失割合が修正されることがあります。

 

 [1.Bが退避不能だった場合] 

 Bに-10%

 

 突然のエンジントラブルやパンクなどで退避することが不可能だったような場合、たとえば駐停車禁止場所に止まってしまったとしてもBに落ち度があったとはいえないので、追突事故の発生に対するBの過失割合が軽くなります(駐停車禁止場所の例でいえば、通常はA:B=90:10ですが、A:B=100:0となります)。

 

 [2.Aに15㎞以上の速度違反があった場合] 

 Aに+10%

 

 このような場合はAの落ち度が大きいため、最終的なBの過失割合は軽くなります。

 

 [2.Aに30㎞以上の速度違反があった場合] 

 Aに+20%

 

 理屈は15㎞以上オーバーの場合と同じですが、速度違反の程度が著しいためAの過失割合が加重されます。

 

 [3.Aに「著しい過失」、「重過失」がある場合] 

「著しい過失」 Aに+10%

「重過失」   Aに+20%

 

 速度違反以外でAの運転方法などに「著しい過失」「重過失」がある場合には、上記のとおりAの過失割合が加重されます(なお、「著しい過失」「重過失」の意味については、交通事故における「著しい過失」と「重過失」の意味は?~交通事故⑧~」をご覧下さい。)

 

 

 いかがだったでしょうか?

 ひとくちに駐停車中の車への追突事故といっても、このように状況次第では過失割合は変動します。

 過失割合については、今回取り上げた追突事故だけではなく事故の状況によって様々な修正要素があるため、相手方の保険会社からの見解が正しいかどうか判断することが難しいことがありますので、示談交渉で迷われたり不安がある場合には弁護士へのご相談をご検討下さい。

 

弁護士 平本 丈之亮